暦の上では・・・
きーいよおーしいーこおーのよーるー
クリスマス・イブでございます。
本来はキリスト教にとっての「聖夜」なので、「キリスト教徒以外のニッポン人にはカンケーないでしょ」と言われるかもしれません。
でもそんなこと言ったってねえ・・・
日本でももう長いことクリスマス・イブは家族や友人、恋人や知人などで、パーティーや宴会、会食にヤケ食いなどをする日になっていますので、それはそれでいーんじゃないでしょうか。
まあそんな聖夜なのですが、中にはひとり寂しくこんなメルマガを読んでいらっしゃる方もおられるかもしれません。
そこで!
今回は「聖夜に贈る、ちょっといい話」なんぞをお届けしてみたいと思います。少しは心が温まるのではないでしょうか。
それでは始まり始まりぃ~。ぱちぱちぱち。
【聖夜に贈る、ちょっといい話】
あれはもう20年ほど前、ある冬の日の昼下がりのことでした。
なんと、我が家の向かいの家が全焼してしまったのです。
冒頭からいきなりすごい展開で、「どこがいい話なんじゃい」と思われた方もおられるかと思いますが、まあ聞いて下さい。
その家は建材屋さんが事務所として使っていたもので、普段はあまり人がおらずその火事の時も留守だったようです。しかも当時のこのあたりは家もあまりなく、たまたまその日我が家に来た人が火事を発見したのでした。
その人は慌てふためいて我が家に飛び込んで来たかと思うと、
「か、火事だ!火事!」
と叫びました。
私もその言葉を聞いて慌てて表に飛び出したのですが、飛び出しながらも、「こういう時って、人はホントにすごい形相をするんだなあ」などと妙なことに感心などしておりました。
細い道を挟んですぐ目の前の木造平屋建てがその現場なのですが、家の中はすでにかなり燃えていたようで、白煙が壁と屋根の隙間からもくもく漏れ出始めていました。
もちろんすぐに消防署に通報しましたが、消防車もそうそうすぐに到着するものではありません。かといってすでに火はかなり大きくなっているようで、素人には何もすることはできませんでした。
ただただ呆然と立ち尽くすだけの私の目の前で、ついにその家の窓ガラスが割れ、中から一気に煙が噴出したかと思うと、次いでオレンジ色の炎がメラメラと窓から外壁に這い上がって来たではありませんか。その炎の勢いといったらそれはそれは恐ろしく、とても人間業とは思えなかったのですが、考えてみたら火事は人間業ではなく、でも家事なら人間業なんだなあなどと余計なことを考えてしまうという、もうかなり脳が錯乱気味になってしまっていたわけです。
そして燃え盛るその家のすぐ横には車が1台駐車してあり、オレンジ色のにくいやつは、今にもその車に襲いかかろうとしていたのであります。
「うわっ!危ない!バ・ク・ハ・ツ・するぅーう!」
おそらくその時の私の形相も、かなりすごかったのではないかと思います。
でもそれは無理もないことなのです。だってこのままでは、車は炎に包まれそして大爆発を起こすはずなのですから!
*このメルマガの後半へ続く
〔本題〕実際のメルマガではここに新着情報などが載ります。
*このメルマガの前半からの続きです。
とにかく私は西部警察などで車が大爆発を起こすシーンを思い浮かべながら、現実に目の前で起こりつつある非常事態に備え、すぐに物陰に隠れられるように準備をしました。
そしてついに、炎は新たな生贄を発見した血に飢えた狼のように、研ぎ澄まされたそのするどい爪を光らせながら、車に襲い掛かって行ったのです!
「うわぁー!もうだめだぁー! バ!ク!ハ!ツ!だぁ!あ!あ!あ!あ!」
ところがその時、どこからかこんな声が聞こえてきたのです・・・
「きゃんきゃん、きゃんきゃん」
えっ?
なんだろ、あの声は?
そしてその声はなおも私に訴えます。
「きゃんきゃん、きゃんきゃん」
私はその声のする方を見ました。
そしてそこに、鎖につながれた犬を発見したのです!
そうでした。その家は留守にすることが多かったので、ほんの1、2ヶ月前から犬を飼い始めていたのです。そしてその犬が鎖につながれたまま、今や炎の餌食になろうとしているのです。「ホット・ドッグ一丁上がりぃ~」とかシャレを言ってる場合ではありません。
しかしその時、正直私はどうしていいのか判断に迷いました。なにしろ、大爆発の時は刻一刻と迫っているのです。
うう・・・どうしたらいいんだ。犬は焼けたら「ホット・ドッグ」だけど、私は焼けたらただの焼死体だ。消防士もそんな私を見て「うげっ」とか言うんだろうな・・・やだな、そんなの。
ああ、いっそのこと犬がいることなんて気がつかなきゃよかった。
あっ!そうだ。
犬なんかいなかったことにすればいいんだ。
うん、最初からいなかったよな犬なんて。
しかしそんな悪魔のささやきを打ち消すように、またあの声が・・・
「きゃんきゃん、きゃんきゃん」
あー!やめろぉー!そうやってきゃんきゃん言うのはぁー!
ん? きゃん?
あっ、「きゃん」って、「CAN」のことじゃないか!
あの犬は私に「出来る!おまえなら出来る!お前ならボク(犬自身のことです)を助けることが出来る!」って言ってるのかもしれない・・・
そうだとしたら・・・・・・なんてずうずうしい犬なんだ。
なぜ一言素直に「助けて下さい」って言えないのだ。
ところがそんな疑問とは裏腹に、私の体はその「CAN」の意味を理解すると同時に行動を開始していたのです!
名づけて、「犬、救出大作戦!」
あっ、いや・・・「大作戦」ってのは、いかにもって感じでダサいな。
こういうのはヒミツ作戦っぽく「コード1」とかにした方がかっこいいかもね。しかも紐につながれた犬だから「コード・ワン」てシャレにもなるし。
さあ急げ!作戦名を推敲してる場合じゃないぞ!
そしてここからは作戦の素早さを伝えるために、少し文体も変わるのだ!
私はその家の周囲を取り巻いている有刺鉄線(通称バラ線)に素早くとりつき、みごとにそれを突破し庭に侵入した。そして炎の状況と車両の状態を確認し、爆発までの時間を算出したのである。
1分20秒か・・・
まず初めにしなければならないのは、犬の救出である。そのために来たのである。あたりまえである。
私は犬のもとに静かに歩み寄った。こういうときはあせって走り寄ってはいけない。相手は臆病な動物なのだ。何か話しかけながら静かに近づかねばならないのだ。たしかムツゴロウさんがそんなことを言ってたような気がする。
「ほーら、よしよし、もう大丈夫だぞ、助けてやるからな」
そう優しく話しかけながら犬に近づいて行くと、先ほどまであれほどきゃんきゃんとけたたましく吠えていた犬が静かになったではないか。どうやら犬にもこの献身的な男の優しさが伝わったようである。
さあ、いよいよ鎖を外す作業だ。慎重にやらねば。
時間は・・・あと1分飛んで5秒か・・・あせりは禁物だ。
私はムツゴロウさんのような優しい語りかけを続けながら、慎重に首輪につながれている鎖のフックに手を伸ばした。
するとその哀れな犬は、
「がるるるるるる!」
えっえぇ~! 唸ったぞ!
てめえこの犬畜生め! ぶっ殺すぞてめー!
おっといけない、私はこの犬を救出しに来たのだ。殺してしまってはいけない。ここはやはり当初の作戦通り一旦救出し、後で石でも投げてうっぷんをはらすことにしよう。
私は大爆発の恐怖に加え、このばか犬に噛まれる恐怖までを独り占めにして作戦を遂行した。
かしゃ!
やった、鎖が外れたぞ。成功だ!
おまえはもう自由だ。行け!どこへでも行くがよい!
言われるまでもなく犬は一目散にその場から走り去って行った。
恩知らずめが・・・
あっ、そんな場合ではないのだ!早くこの場から脱出しなければ!
なにしろ時間はあと50秒しかないのだ!
私は門に向かって走り出した。
撤退は有刺鉄線を突破せず、門を開けてそこから出ようとしたのだ。そうすれば、やがて到着する消防士たちの消化活動もより迅速に行われるとの配慮からであった。なんて冷静な判断なのだ。
ところがその門というのは、例の大爆発寸前の車両の近くなのである。しかもその門扉はよく住宅地で見かける「ツタのからまるおしゃれなデザインのブロンズ製」などではなく、丸太を組んで有刺鉄線を張り巡らせたものだったのである。つまり、かんぬきをかちゃっと外せばぎーこと開くような代物ではなく、丸太&有刺鉄線の重い扉をやや持ち上げ気味にしながら、うんしょうんしょと運ばなければならい代物で、さらに扉がやたらと開けられないように柱に紐で縛ってあり、そいつを解かなければ扉を開けることはできないのである。
はたして私はその難事業を成し遂げ、爆発前に無事脱出することができるのか?
私の運命やいかに!
とにかく私は門に走り寄り紐を解こうとしたのだが、その作業は思いの外難航した。なぜなら時間はすでに30秒を切っており、さすがの私もかなり焦り始めていたために指がうまく動かず、しかも自分だけでも逃げようとする下半身が常に足踏みをしているという、まさにションベンもらし寸前の子どものような状態だったからである。
焦るな、焦るなよ・・・いいか、時間はまだたっぷりとあるんだ。
えっ!なに?
あと20秒!?
えーと、この紐を・・・ここから通して・・・
あっ!逆にこぶ結びにしてしまった!
あー、元に戻さなきゃ・・・
うわ、もう15秒しかない!
えーと、えーと・・・・
やった! 解けたぞ!
あと5秒だ!急げ!
私は重い丸太製の門扉を持ち上げると、内側方面90度まで一気に押し開いた。
やった!火事場のばか力の勝利だ!
おっと、こうしてはいられない・・・脱出しなきゃ。
私は走った! 炎に飲まれんとしている車両から少しでも遠ざかるために!
3・・・・
2・・・・
1・・・・
ボッカーン!!
それは私が地面に伏せるのと同時だった。
バラバラバラ・・・
頭をかばうように組んだ両手をかすめるようにして、無数の焼け爛れた破片が落ちてきた。手は熱かったが、頭がハゲなくてよかった。
私はしばらくそのままの状態から動くことができなかったが、あたりに静寂が戻り、虫の声が再び聞こえて来る頃になって、ようやく体を起こすことができた。
後ろを振り返ると、先ほどまで車があった場所には大きな穴が開き、その爆発のすさまじさを物語っていた。
こうしてひとりの男の命を賭した行動が、ひとつの小さな命を救ったというお話でした。
おしまい。
ぱちぱちぱち・・・
いかがでしたでしょうか。
人間のすばらしさがひしひしと伝わってくるエピソードであり、また動物がらみの話なので余計に感動を呼びましたね。
やっぱ子どもネタと動物ネタはやりやすいですなあ。
えっ?
ウソついてるだろう・・・って?
冬なのに虫の声が聞こえるのはおかしい・・・って言うんですか?
あー、たしかに虫は鳴いていなかったかもしれません。
えっ?
本当に車が燃えると爆発するのか・・・って?
だってテレビとかでやってんじゃないですかあ。車がぼっかんぼっかん爆発してるでしょうがあ。
・・・・・・・
わかりましたよ。
ホントのこと言いますよ。
車はね、火が移ってメラメラ燃え始めた後、一瞬ぼわっ!て大きく炎が出ただけで爆発はしませんでした、はい。
それでその後駆けつけて来た消防士たちによって火災は消し止められたんですが、消防士のリーダーみたいな人が現場の状況を確認するために私に質問してきました。
「えーと、あそこの門扉は始めから開いていたんですか?」
「いいえ、(少し胸を張って)私が開けました!」
「ふ~ん、おたくが開けたの。 それは外から? それとも内側から?」
えっ、なに? まさかこの人、私を放火魔と疑ってんの?
「あっ、えーと(少しどぎまぎして)内側からです・・・」
「おたく、なんで内側にいたの?」
「あの・・・犬をね、犬を助けてあげようとして・・・」
「犬? その犬どこにいるの?」
「えーと、だから・・・逃がしてあげたのでどこかに行っちゃって・・・」
「ふーん・・・」
な、なんですか・・・その疑り深そうな目は。
そりゃ、大爆発こそしなかったけど、危険を冒して犬を助けてあげたのは事実なんだからね。
それから消火活動を助けようとして、あの重い門扉を開けたのも事実なんだから。
それなのに犬本人には唸られる、消防士には疑われる、なんでこんな目に遭わなきゃなんないんですか。
ねえみなさん。あまりといえばあまりの仕打ちだと思いませんか?
あれ? なんですか・・・その疑り深そうな目は。
本当は犬なんか助けてないだろうって?
それより、火事の話自体ウソだろうって?
あー、今宵聖夜にそんなこと言われるなんてなあ。心外だなあ。
なんか、みんなしてそんな態度をとられると、せっかくのいい話が台無しだな。
あっ、そうか、
火事の話だけに、水を差されたのか。
お後がよろしいようで・・・
メリー・クリスマス!
ほぉ~ほっほっほっ・・・