インドで定価のない物を買う時には必ず交渉が必要です。
特に観光客相手のお土産屋では、たいてい初めはとんでもない値段をふっかけて来たりしますので、しっかりと値段交渉をしないと後悔します。
まあ事前にガイドブックなどで「インドではボラれる」という情報を得ている人も多いと思いますので、そのまま買ってしまうことはまずないでしょうが、ただやみくもに「高いわよ!ちょっと負けなさいよ!」などと叫んだりするだけでは「交渉」とは呼べません。せいぜい最初の言い値からいくらか下がったところで妥協して買ってしまうのが関の山です。
これは相手の言い値を原点として交渉を始めてしまうところにすでに間違いがあります。そもそも言い値なんてのはなんの裏付けもないもので、たとえば正価の2倍だとか3倍だとかいう法則があるわけではありません。しいて言えば「日本人ならこのくらいは出すかもしれないな」という相場があって、彼らはそれをダメモトで言って来るわけです。
それではいったい何を基準に交渉をすればいいのか?ということになりますが、当然のことながら一番目は「そのものの価値を見極める」ということになり、二番目は「自分はそれをいくらなら納得して買うのか」ということになるわけです。
一番目の方はなかなか難しいかもしれませんが、二番目の方はしっかりと自分の意思を持っていれば簡単なことです。仮に他の人より高く買わされたことがわかっても、「自分で納得」して買ったのならそれでいいのですから。
コヴァラム・ビーチにも外国人相手のお店がたくさん並んでいます。私も短パンを買おうと、そんな一軒に入って行きました。
店内では小学校高学年くらいの少年がひとりで店番をしていました。でもインドでは少年だからと言って決して侮ってはいけないのです。
私はめぼしい短パンを手に取り「いくら?」と聞きました。
すると少年は間髪入れず「600ルピー(約1200円)」と答えます。
私はちょっと呆れた顔をして、「それは高いだろ」と言い返しました。さあ、ここからが交渉の始まりです。
少年はすぐに「550」と値下げします。
私は「まだ高い」と言い返します。
そこで少年は「じゃあいくらなら買うんだ?」と聞いてきます。
これは売り手の使う常とう手段で、まず買い手に値段を言わせるのです。そうすると買い手は自分の言った値段からはもう下げることができなくなるわけです。
また買い手に値段を言わせることで、買い手の知識を探るのです。つまりあまりにもかけ離れた値段を言ってしまうと、「こいつは価値がわかってない」と悟られ、あとは売り手のペースになるわけです。
私は少年の目を見ながら、「300ルピーだな」と言いました。そして私はその時、少年の目に若干の狼狽の色が走ったのを見逃しませんでした。300ルピー(約600円)というのはなかなかいい線だったようです。
少年は「この短パンはポケットもたくさんついてていいものなんだぞ。わかった、じゃあ500ルピーでいい」と付加情報を加えながらまた値下げします。
しかし私はかたくなに「300」とだけ静かに言います。
少年はちょっとイラつきながら、「それなら400だ!これで持ってってくれ」と言いながらパンツをビニール袋に入れようとします。
それでも私は「300」と言うだけで受け取ろうとしません。
少年は明らかに失望の色を見せ、「350・・・」と言いました。
しかし私は300ルピーじゃないと買わないと決めているので、バカの一つ覚えのように「300」と返しました。
すると少年は「ちょっと待ってろ」と言い残し店を出て行きました。おそらく店のオーナー(もしかしたら父親かも)のところにお伺いを立てに行ったのでしょう。
しばらくして戻って来た少年は、「OK・・・300」と言って袋に入ったパンツを私に手渡しました。
今回は私の勝利と言っていいでしょう。なにしろ少年の一存で値引できる線を越えたのですから。
でもパンツを渡す少年の笑顔のかけらも残っていない顔を見ると、少しは相手にもうまみを残してあげなくちゃいけないのかなあなんて、実に日本人らしいホトケ心を呼び戻したりしてしまうのでありました。
やはり私は、まだまだ修行が足りないようです。
[dfads params=’groups=39&limit=1′]