もともとオレンジ色だった表紙の背はすっかり色が抜けてしまった。
それでいてちゃんと帯が残っているところが、この本に対する持ち主(私のことですね)の愛着がうかがわれる。
本の内容は著者である妹尾河童氏が、ひと月半ずつ二度にわたりインドを巡った時の見聞録であるのだが、氏の類まれなる旺盛な好奇心を原動力に、いろいろなものがイラストとともに詳しく紹介されている。
中でも私が最も興味をひかれたのが「インドの弁当箱」と「ガンディーのサンダル」であった。この本に出会ったのが、私が初めてインドに行く直前(1987年)だったので、インドで弁当箱を買うこととガンディーのサンダルを見ることが、旅の重要な目的になったほどである。
また著者が泊まり歩いたホテルの部屋の詳細な見取り図がすばらしく、それを眺めているだけでもインドを旅しているような気分になれる。
私がこの本を何度も読み返すのも、ホテルの部屋を眺めインドにいる気分になろうとするゆえなのである。
この本で紹介されているインドは1978年と1983年でかなり昔のことなのだが、それゆえ今ではもう体験できないこと(たとえばマドゥライのミーナクシ寺院の高い屋根の上に登ることなど)も紹介されていてとても参考になる。
でも大半は今でも普通に見られるものばかりなので、インドのガイドブックとして読むのもおすすめである。
ただしこの本の魅力にはまり過ぎてしまうと、実際にインドに行ったとき河童氏の覗いた「穴」を通してしか見られない、なんてことになるかもしれないので、そこのところは要注意なのである。