ウパルコート砦でようやく見つけた落花生は生っぽくて食べられず、それじゃもうひとつの好物を食べるかと、こちらの店に来た。
これはトウモロコシ屋である。
インドのトウモロコシ屋は焼くのとゆでるのがあるが、ここはゆでトウモロコシである。
どうやらこの店は家族で切り盛りしているらしく、奥さんらしき人がトウモロコシの皮をむき、それをおやじが釜でゆでている。
そして息子も手伝っている。
しかしこれをひとくくりに児童労働と非難するなかれ。
なにしろおやじは左腕にギプスをし、首から吊っているのだ。
つまりこの少年はまさしくおやじの片腕としてがんばっているのである。
そうこうしているうちに、私のトウモロコシが出来上がって行く。
これは最後の仕上げ、塩と唐辛子の粉をレモンに付け、それをごしごしトウモロコシにすり込んで行く作業だ。担当は少年である。
実は私は初めの頃これがダメだった。
なにしろ何度も使ったくちゃくちゃのレモンで、得体のしれない粉(当時の私はその茶色がかった粉が塩だとは思えなかった)をトウモロコシにすり込むのである。バッチイというのもあるが、それよりトウモロコシにレモンはないだろうと思っていたので、いつもそれは断ってなにも味のないものを食べていた。
ところがある時、私が制止する前にごしごしやられてしまい、仕方なくそれを食べたのだが、あ~ら不思議、レモンの酸味と塩味が混ざり合うと、なんとなく醤油みたいな感じになるのである。(その時は唐辛子はなかった)
それ以来この味付けがすっかり気に入ってしまい、たまに気の利くトウモロコシ屋が「レモンはどうする?」と聞いて来たりするが、ガシガシごしごしやっちゃってと頼むほどになった。
このトウモロコシは10ルピー(約16円)だが、値段はサイズによって変わる。
この店ではトウモロコシを紙皿に載せてくれたが、通は捨ててあるトウモロコシの皮の中からきれいそうなのを選んで拾い、そいつで包んで食べたりする。それが粋なトウモロコシっ食いてもんでい。てやんでい、べらぼうめい。
とにかく店の奥にある椅子に座り、トウモロコシをゆっくり食べる。
まだ下痢が治り切っていないので、本当にゆっくりしっかり咀嚼しながら食べる。
客は客を呼ぶ。特に外国人が食べていると、インド人たちはそれを目ざとく見つけ、われもわれもと店に殺到する。
まあ、そうすぐにはやって来ないかもしれないけど、なるべくゆっくり食べて、少しでも客を呼び込む手助けができたらいいなと思うのであった。
*情報はすべて2016年11月時点のものです。
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