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「裏がえしのインド 」 西丸震哉・著

         
  • 公開日:2022年5月13日
  • 最終更新日:2022年8月4日

裏がえしのインド:西丸震哉まずこの本の著者の紹介として、某インターネット百科事典の記述を借りると「日本人の食生態学者、エッセイスト、探検家、登山家」となる。
また本書(文庫版)の解説として秋山ちえ子氏が述べるところによると、「健康で、好奇心が強く、かなりしつっこい、凝り性」とあり、さらに「作曲をし、楽譜も初見で歌う」「絵も描く」と来て、おまけに「UFOの存在を信じ、テレパシイの実在を実験して見せる」とある。

とまあ、これだけ見てもかなり守備範囲の広い人だというのがわかる。
私もこの著者に関しては、まったく違う分野の本で度々出合って来た。

初めは中高生のころに読んだ心霊関係の文章だった。
その頃そうした本を何冊も読んでいたので、氏の書いたものの内容は忘れてしまったが、まあどっちみち幽霊の話かなにかだったはずである。

次にこの著者の本に触れたのは「動物紳士録」という本だった。
その本は題名の通り動物の生態に関するエッセイ集なのだが、なんと言ってもタコが大根を盗む話が可笑しい。私はそれまで「西丸震哉=幽霊」と覚えていたので、そのギャップに驚いた。

そして(私として)三度目の出会いは「山小舎を造ろうヨ」という本だった。
当時私はサラリーマンをしていたのだが、ちょっと心が疲れていたようで、その本の「少し人生を考え直したい人に」という副題につられて手に取った。
内容はそのまま「山小舎造り」なのだが、なにもいきなりログハウスを造ろうというのではない。最初に出てくるのはビニールシートの片屋根式のものである。これじゃ山小舎でもなんでもなく、ほとんど野宿である。
しかしそういったビバークやテントの域を出ないものの紹介が過ぎると、ついに「山小舎」のお出ましとなる。
その第一歩はたった0.5畳のスペースの小舎である。でもそれは決してふざけたものなどではなく、必要最小限の「生活」を考慮して本気で考えた(と思われる)アイデアなのだ。
そしてそのアイデアは0.75畳、1畳、1.5畳と小刻みに広くなって行き、それに伴い居住性もだんだん良くなって行く。
そうした山小舎のアイデアが、第三角法図面的なイラストで解説されているので実際のイメージがつかみやすく、読んでるうちにこちらもだんだん本気になってしまい、気がつけば著者のアイデアに自分なりにあれこれ工夫を加え、ページを繰るのも忘れしばし空想の世界に遊んでいたりするのであった。

とまあそんな風に、特に西丸震哉を選んで読んでいたわけではないのに、いろいろな方角で行合うのである。

さて、ここでご紹介する「裏がえしのインド」は、先述のどれより古い著書である。

内容は1961年12月から1962年4月に実施された、インド中部および南部のジャングル地帯における学術探査を基にした話が書かれている。
とは言え本書は学術書や報告書ではなく一般向けの本であり、著者の研究分野(インド人の栄養、嗜好、感覚、摂取食糧)に関することも多少は出てくるものの、ほとんどは自身の「強い好奇心」の赴くままに見聞した広範囲に及ぶことがらの紹介で、中にはインドの滞在地と日本の自宅との間で行われた「魂の帰宅実験」なるオカルトもの(?)まである。

この本はなにぶん古いものなので、これを読んでも経済発展著しい「今のインド」はわからない。しかしその芯(真)の部分に触れることはできる。
また現在の感覚では差別的と思われる語句、記述も多々あり、そこに著者独特の視点とユーモアが絡み合って来るので、中にはマユツバモノと思える記事や、反発したくなる内容のものもあったりするのだが、それが西丸震哉ワールドと理解した上で、自分なりに取捨選択しながら読むとなかなか面白い。
そして実はその自分なりの受け止め方や、さらにそこから発展する自分なりの考え方を促すことこそ、著者の本当の狙いなのかもしれないと思ったりもするのである。

とにかく広範囲にわたる知識と精力的な行動力、そして人に媚びない精神の強さ(図太さ)を合わせ持つ著者なので、ちょっと「怖い人」という印象も受ける。しかし「(インドの)各地で生水を飲んで歩いた」と豪語する一方で、インドの寺で裸足になることを嫌悪し、排便後の処理も素手ではやらないなど、意外と繊細な一面も垣間見せたりする正直さがまた氏の魅力となっている。

なんだかインド関連本の紹介というより、西丸震哉氏の紹介になってしまった。
私も氏にならって正直に言えば、本当は「裏がえしのインド」より「山小舎を造ろうヨ」の方がおすすめしたいのである。

なので最後に「山小舎を造ろうヨ」のあとがきから少し抜き書きをさせていただきたい。もう今回はインドにからめなくてもいいや。

 

「一読したあとの感慨はどうだった? 眼にウロコのかぶさった人は、タタミ半分の面積から始まる発想で、それがスポッとはがれ落ちただろう。 (中略) 空想の世界で山小舎を想い描くのは楽しいし、それを現実のものにするのはもっと楽しい。」

【 山小舎を造ろうヨ:あとがきより抜粋 】

 

「夢中になってその気でとりかかれば実現できそうな夢を描こうではないか。 私は不可能な夢は描かない。たとえヒトが『そんなの夢だよ』といって笑っても、そんなものに左右されない」

【 山小舎を造ろうヨ:文庫版あとがきより抜粋 】

 

とかく閉塞感の蔓延する時代であるが、西丸震哉のようなユニークな発想で物事を考えられたら、今よりずっと生きやすくなるのではないだろうか。

インド、ぜんぜん関係なくなっちゃった。

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