この本は主に、著者西岡直樹氏が若き日に過ごしたベンガル(東インド)での体験を綴ったものである。
しかし単なる異文化体験記と一線を画すのは、ベンガル地方の自然(特に植物)の細かな描写に加え、それを上手に生活に取り入れて暮らす人々の日常を、実に自然なタッチで描いているところである。
それは取りも直さず著者の豊富な知識に裏打ちされた描写であり、さらに自らもその暮らしの中に身を置き、しっかり溶け込んでいたからこそ表現できることなのだろう。その余計な力の入らないさらっとした文章に、つい遠いベンガルでの話しであるということを忘れ、自分の子供のころの生活(もちろん日本での)、特に夕餉の支度が始まる頃合いの情景などを重ねて読んでしまうほどだった。
そんな著者西岡氏の経歴を見ると、宇都宮大学農学部卒とある。なるほど、植物に詳しいのもうなづける。
しかもお名前が「直樹」である。これが本名であるとしたら、まさしく樹木関係に真っ直ぐ突き進んで行ったということで、まさしく「名は体を表す」である。
またこの本の中ほどには絵を使った植物紹介ページもあり、それが文章だけではわかりづらい部分を補ってくれ、ベンガルの暮らしをよりリアルに想い描くことができる。
そんな植物の絵は西岡氏自らが描いたもので、そうしたイラストをまとめた「インド花綴り」という本も出されている。
その本はほとんど図鑑といってもいい本で、このコーナーではたぶん取り上げることはないと思うので、なんだか「ついで」みたいで申し訳ないのだが、ここで一緒にご紹介させていただこうと思う。
この本はすでに出版されていた「インド花綴り」と「続・インド花綴り」」という二冊を合わせ、さらに加筆されたものである。
内容は先に述べたように、インドの花を紹介した図鑑のような本であるが、図鑑のように挿絵に説明文だけが添えられているのではなく、西岡氏の体験に基づく関連知識などを織り交ぜた、情緒豊かな解説文で紹介されている。まあ言ってみれば今回メインでご紹介している「インドの樹、ベンガルの大地」の植物中心バージョンといったところだろうか。
とにかくインドの花に興味のある方には、ぜひともお奨めしたい一冊、いや、二冊なのである。