暦の上では・・・
秋もようやく深まってまいりまして、関東地方も朝晩冷え込むようになって参りました。
こちらでは先週の日曜日からまるまる3日間雨が降り続き、水曜日と木曜日に一旦青空が戻ったものの、またこの週末は雨にたたられるといった具合です。
しかし雨が続くと洗濯物が乾かず、普段着ないようなものまでタンスの引き出しから引っ張り出して着るようになり、自分の体形の変化が分かっていいものです。ちなみにズボン類は全滅でした。2本をやりくりしなきゃならないので大変です。
さて、先週はイチローが大リーグのシーズン最多安打を更新し、最終的には262本という大記録を打ちたてました。大変立派な記録で日本人としては嬉しい限りなのですが、ちょっと心配なのはこの偉業を妬むアメリカ人が「内野安打は別扱いにしようじゃないか」とか言い出さないかということです。もしアメリカがそんなことを言い出したら、われわれ日本人も黙っていてはいけません。みんなで声をそろえて「そりゃないや」って言いましょう。
さてさて、この時季は各地で運動会が開催されていることと思います。
運動会といえば学校や企業などが主体となっているものが多いかと思いますが、以前私の住んでいたところでは町の運動会というものがありました。
ただその「町」というのが市町村の「町」ではなくて、○○市××町△△丁目の「××町」の部分の「町」なのです。つまりすごく狭い範囲での運動会なのです。
ある日みなみ町町内会(仮名)から回覧板が回されて来ました。
そこには「みなみ町大運動会」の文字がでかでかと踊っており、その下に「来る○月×日にみなみ町大運動会が開催されます」と書かれてありました。
もともと運動会みたいなものがきらいな私は、
「え~っ、せっかくの休みの日を運動会でつぶさなきゃいけないのかぁ~」
とぐったりしてしまいました。
私はそれまで町内会の行事などにはまったくの無頓着で、今までもそのような運動会が開かれていたかどうかも知りませんでした。ところがその年は住んでいるアパートで班長の順番が回って来ていたために、そのお触れを無視するわけにはいかず、貴重な休みの日を運動会でつぶさなければならないことが、この時点で決定となってしまったわけです。
仕方なく私はその回覧板を回すとともに、回覧板と一緒に渡された運動会の告知ポスターをアパートの共同郵便受けのところに貼りました。そしてさらにアパートの住人と顔を会わせるごとに「運動会にはちゃんと出るように」とクギを刺しておきました。なにしろ班長は運動会をサボるわけにはいかないですから、少しでも道連れを増やそうと思ったわけです。
とにかく私は班長としての義務を忠実にこなして行ったのです。
あとは運動会当日の雨を祈るばかりです。
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*このメルマガの前半からの続きです。
私の願いは天に通じず、運動会の当日は快晴でした。
運動会の会場のみなみ町公園は、普段はお年寄りがゲートボールなどをしているちょっと陰気な広場なのですが、その日はさすがに大勢の老若男女が集まり、とてもにぎやかでした。
広場には小さいながらも白線で引かれたトラックができており、万国旗も飾られ、本部席のテントもあります。そして会場の四隅に設置されたスピーカーからは早くも軽快な音楽などが流されていて、これだけ見てもその町内会の運動会に対する熱の入れようが分かろうというものです。これはなめてかかったらえらいことになりそうです。
やがて特設スピーカーが「選手のみなさんは入場口のところにお集まり下さい」と伝えました。
でも「選手」と言っても会場に集まった人たち全員のことです。なんだか言い方もずいぶん大げさで力が入っているようです。これはますます油断がなりません。
とにかく係りのおっさんの指示に従い、丁目ごとの色違いの鉢巻を締め、入場口のところに整列しました。まさかとは思うけど、入場行進をするわけじゃないでしょうね。
しばらくすると特設スピーカーから「ぱぱぁ~ん」と勇ましい行進曲が流れ出しました。本当に入場行進をするようです。この町内会はどうしてこんなにも運動会の運営に力を注いでいるのでしょうか?ここが運動会発祥の地なのでしょうか?
さて、いよいよ1丁目から順番に入場行進が始まります。
1丁目の選手団が白線で引かれたトラックをゆっくりと進み始めました。すると今度はスピーカーから実況アナウンスが始まったではありませんか。
「入場の先頭を切るのはみなみ町1丁目選手団です!昨年は見事に総合優勝を果たし、今年は連覇に向けての挑戦です!その闘志あふれる顔、顔、顔・・・」
そのあまりにも大げさなアナウンスに、私は思わず連覇に向けて闘志をあふれさせているという選手団を見つめてしまいました。でもそこには思い思いの服装で、ただだらだらと歩いていく普通の人々の一団がいただけで、どこにも「闘志あふれる顔、顔、顔」なんてありません。
その後もそんな調子で大げさに全選手団を紹介するものですから、行進している人たちはみな恥ずかしそうに下を向き、普通のときよりもぜんぜん堂々としていないのでした。
それでも入場行進は滞りなく済み、次は開会式です。
本部席前にずらぁ~っと整列した選手団を前にして、一番張り切っていたのは地元みなみ町出身の市会議員青井憲太郎(これもやっぱり仮名)でした。
青井憲太郎は当然来賓代表として挨拶をしたのですが、満面に笑みをたたえながらも少し尊大な態度と大声で、開口一番「町民のみなさん!」と叫びました。
別に「町民」というコトバが悪いのではないのですが、普段「市民」と呼ばれなれている身としては、いきなり「町民!」と呼ばれるとちょっと面食らってしまいます。たしかに今日は町内会の運動会で全市民が参加しているわけではないので、「市民のみなさん!」とは言えないのかもしれませんが、いきなり「町民!」と叫ばれると、なんだかお侍さんに「黙れ町人!」と言われているようで、思わずその場にひれ伏して、「へへぇ~」なんて命乞いをしてしまいそうになります。
来賓挨拶の後にさらにいくつかの挨拶があり、最後にこれまた偉そうにした審判委員長のおっさんから競技に関してのもろもろの注意事項を受け、いよいよ競技が始まりました。
しかしそこは町内会の運動会のもろさといいますか行き届かないところと申しますか、イマイチ競技がスムーズに進まないのです。
なにしろ「選手団」と言ったって、たまたま近所に住んでいるというだけのよせ集めで、東京のベッドタウンと化しているこの街では、当然全員と顔見知りというわけではないのです。むしろ知っている顔の方が少ないのです。またどの競技も予行練習などないぶっつけ本番ですので、これで混乱しない方が不思議なくらいです。
その象徴的なことがしょっぱなの競技「玉入れ」で起こりました。
審判委員長の威厳に満ちたスタートの合図で自陣のカゴに玉を投げ入れ始めたのはいいのですが、所定の時間が経過し再び審判委員長が威厳を込めて終了の合図を送ったにもかかわらず、両軍選手は競技に夢中なのかそれとも審判委員長の権威に挑戦するつもりなのか、一向に玉を投げるのをやめません。
審判委員長は両手を大きく振りながら、紅白の玉飛び交う中に果敢に分け入り、両軍に対して停戦を呼びかけるのですが、みんなぜんぜん言うことをききません。
赤軍に歩み寄り玉の投げ入れをやめさせようとすれば、そのスキに白軍が大量の玉を投げ入れ、それを止めさせようと白軍に歩み寄れば赤軍がわんさと玉を投入し、紅白それぞれのカゴは通常の玉入れではお目にかかれないほどの大漁振りとなり、まさに実りの秋といった感じです。
そしてついに権威を踏みにじられた審判委員長は、大声で「やめぇ~!やめぇ~!」と叫び、そのあまりの剣幕に気おされようやく紅白玉入れ合戦は収束しました。
しかし合戦は収束しても収まらないのは審判委員長です。あの開会式での威厳はどこへやら、なおもヒステリックに今の競技の無効を訴え、無頼の選手に対して退場処置も辞さない構えです。
結局両軍選手は玉入れをやり直すことになったのですが、今の一件ですっかりしらけてしまい、その後はごく普通の玉入れ競技となり、見ている側としてはあまり面白くないものになってしまいました。残念。
それでも町内会役員のこの運動会に対する情熱は並大抵のものではないようで、その後も幾多の苦難を乗り越えながら、運動会の競技は着実に進行していったのであります。
私はもうだいぶ前にその町から引っ越してしまいましたが、まだあの町内会では毎年運動会をしているのでしょうか?
今となっては懐かしい思い出です。
もう一度、あの恥ずかしい入場行進を見てみたいです。
もう一度、あのルール無視の玉入れを見てみたいです。
あくまでも、他人事としてではありますが・・・
みなさんんも運動会や競技会には進んで参加しましょう。
そして競技に際してはルールをちゃんと守りましょう。
それから権威にしがみつくのはやめましょう。
それでは、また来週!