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2001年6月13日:オレンジ・エクスプレス / バンガロール

         
  • 公開日:2001年6月13日
  • 最終更新日:2022年6月2日

インドな日々

2001/06/13 オレンジ・エクスプレス バンガロール

旅に移動は付き物である。
移動しない旅は「トリップ」と言って違うもののようなのだ。

その移動をスムーズに行えるかどうかの鍵になるものに「荷物」がある。
いかにコンパクトに、スマートにパッキングするかが問われるのだ。
特に今回のように、一個所に何泊もしてしまった時などは、ホテルの部屋も自分の家同然になっているため、出発の日に、そのだらしなく展開された家財道具を見て嘆息してしまう。

さて、8泊したバンガロールの我が家を後にする日が来た。
当然の権利で、私の荷物は部屋に散乱している。
それを元の状態にパッキングしなければならないのだ。ここにはクロネコヤマトも松本引越しセンターもないのである。
以前の収納状況を思い出しながらバッグに詰めていくのだが、なかなかうまくいかない。
その中で一番かさばるのが衣類である。
今回私は、Tシャツ3枚、パンツ3枚、靴下3足、長ズボン2本と短パン1着という最強のラインナップで敵地に遠征してきた。
普通これだけ持ち出せば、家のタンスは空っぽになるんじゃないかと思うだろうが、私のタンスにはまだ冬物とゴムの伸びたパンツが残っているのだ。

私はインドでは、夜のシャワータイムに着替えることにしている。
つまり衣服は24時間制である。これが夜行での移動となると48時間制に移行する。
しかし今回は、ホテル側との事前の協議により、チェックアウトを夜に伸ばすという、原告側の全面勝利を勝ち取っていたため、シャワーを浴びて、あら、どこの紳士かと思ったわ、などと言われるような状態での旅立ちとなった。
ただ、ここで問題になるのが、シャワーを浴びる前まで着ていた服の始末である。
汚れた服をそのままバッグに入れ、一昼夜ともにするのは避けたい。
次のホテルでそれを取り出すかと思うと虫ずが走る。

そこで私は、シャワーの後、同じ服を着てしまうことを思い付いた。
ナイスな考えだ!
小さなバイキング・ビッケなら、頭の上に星が飛び交うところであろう。

さっそくシャワーを浴びようと裸になったのだが、少しだけ不安になり、着ていたTシャツを裏返して、天井ファンの風が来るところに置いた。
ズボンも裏返して同じようにした。
そして少し迷いながらも靴下の匂いをかいでみた・・・
ま、まあ、いいだろう・・・別に爪先に鼻があるわけでもなかろう。

こうして服の問題は解決した。

シャワーを浴び、また元の服を着、部屋を見回すと机の上にオレンジが残っている。
おいしくないので、ルームクリンにあげようとして断られたやつだ。
今から全部食べる自信はない。なにしろおいしくないので食べずに一週間も置きっぱなしにしておいたくらいだ。
そこで私は、このオレンジをジュースにして飲んでしまおうと考え付いた。
ナイスな考えだ!
小さなバイキング・ビッケなら、はるばるとーさんに誉められるところだろう。

すぐに作業に取り掛かろうとしたが、ジューサーがないのに気がついた。
隣のラジオじじいなら持ってるかもしれない・・・
ラジオじじいというのは隣部屋に住む白人の年寄りで、髭を長く伸ばし、いつもラジオを持って散歩している。
かなり長逗留しているようで、このホテルを自分の家のように振る舞っている不思議なじじいである。
しかし、万が一ラジオじじいがジューサーを持っていても、この部屋のコンセントはコイルヒーターの使い過ぎで焼き切れてしまっていた。もっと現実的な方法を考えなければならないだろう。
ふと見ると、机の隅にネットがあるではないか。
これはスーパーでトマトを買ったときの入れ物である。

これを使って絞ってしまおう。

ナイスな考えだ!小さなバイキング・ビッケ・・・はもういい!時間がないのだ!

オレンジの皮を剥き、それをネットに入れていった。
オレンジは全部で8個あった。これをコップの上で絞れば、オレンジ100の完成だ。
待ってろよ、原田美枝子

私は不浄の左手を使わないように、用心しながら絞り始めた。

たら、たら・・・オレンジの果汁が指を伝わりコップに落ちてゆく。

もっと力を入れてみよう。

うにうに・・・オレンジの果肉が指の間から出てくる・・・うう、気持ちが悪い。

しかし私にはもうあまり時間がなかった。生産速度を上げなければ、コスト競争にも勝てない。

私はネットの上下をつかみ、一気に絞ることにした。

うぎゅ、うぎゅうぎゅうぎゅ!

オレンジの果汁と果肉があたりに飛び散り、服もズボンもべたべたである。
あー、着替えなくてよかった。ナイスな選択だった・・・

私はコップに溜まったわずかなジュースを飲み干すと、柑橘系のさわやかな風をあたりに撒き散らしながら、夜の駅へとリキシャを走らせたのであった。

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