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本日のお宿:トリヴァンドラム

         
  • 公開日:2010年10月14日
  • 最終更新日:2022年6月3日

トリヴァンドラムでの宿は、この「Hotel BLUE NEST」になりました。ご覧のようになかなか「正面」は立派な作りで、部屋代も1300ルピー(約2600円)もしてしまいました。

と、書き方が「なりました」とか「してしまいました」とか、やたらと他人任せっぽいものになっているのは、このホテルにチェックインするまでがちょっと大変だったからでありまして、それは後ほどお話しさせて頂くことにして、まずはホテルの基本情報からと参りましょう。

とにかくこのホテルは、見た目が新しくてなかなか良さそうな感じであり、部屋代もそれに恥じぬもの(私の感覚でですが)となっておりますが、はっきり言って中身はあまり良くなかったというのが正直なところです。

まず部屋が狭いです。でもって暗いです。さらにちょっとくたびれています。つまり新しくてきれいなのは正面だけという事なわけですよ。

宿泊料金には朝食も含まれていて、食事はこんな大きな水槽のある「写真で見ると」なかなかいい雰囲気の場所でとるのですが、ここもやはり狭くて暗くてちょっとくたびれた感じは否めないのです。そして肝心の食事内容も、この手の朝食メニュー(だいたいトーストと玉子料理、ジュース、お茶くらいです)としては最低ランクと言ってもいい貧弱さだったのです。

と言ったところで、それではこれより、そんな「高いくせにあまり良くない」ホテルに泊まるに至った経緯をお話しさせて頂きます。

題して「言葉の壁も窮すれば通ず」

トリヴァンドラムのバスターミナルに降り立つと、すぐにホテルの客引きが寄って来ました。

しかしその男が連れて行った「エアコン付で750ルピー(約1500円)」というホテルは満室で入れず、さらにその後その男が連れて行こうとしたホテルは、なんと1200ルピーもするホテルだったことで、私は少々ムッとして男に背を向けて歩き出したのです。

と、その光景を見てすぐにまた別の客引きが寄って来ました。

その客引きは結構な歳のじいさん(に見えました)でしたが、私と目が合うとなにも言わずに「着いて来い」というようなしぐさをして、先に立って歩き出すのです。
その時私はもう自力で宿探しをしようと思っていましたので、少し歩調を落としてじいさんとの距離を開けると、じいさんも立ち止まって振り向き、また「早く来い」という仕草をするのです。

そんなやり取りが何度か続いたのですが、あきらめることなく同じ動作を繰り返すじいさんがなんだかおかしく思え、私はとりあえずじいさんに着いて行ってみることにしたのです。まずはじいさんにホテルの料金を確認しました。
ところがじいさんには言葉が通じません。
私は初め、このじいさんは英語がわからないのかと思ったのですが、どうやら言葉自体が話せないようなのです。

代わりにじいさんは紙に「800」という数字を書いて私に見せました。それがホテルの料金のようです。
次にじいさんは震えるポーズをとりました。あのガッツポーズの小さいやつみたいな凍えるポーズです。
これはおそらく「クーラー」を指しているのでしょう。つまり「エアコン付で800ルピー」ということなのです。
私はじいさんの目を見てうなずき、そこへ連れて行くように手でうながしました。

しかし、ここからが大変だったのです。

とにかくどこもホテルが満室だったのです。
これは州都であるトリヴァンドラムにあって、交通の要衝である鉄道駅とバスターミナルのすぐ近くという立地であるためか、それともこの時期になにか人の集まる行事(実際にそこら中に政治がらみらしいポスターが目に付きました)があっての特需なのかはわかりませんが、とにかく手頃な料金の部屋はみんなふさがっていたのです。

昼下がりの強烈な太陽は突き刺さるように降り注ぎ、さらに重い荷物を担いでの宿探しはとても辛く、ついに私は疲れ果ててしまいジュース屋で休むことにしました。
じいさんはまだ未練がましくしていましたので、ちょっとかわいそうになり「もういいから」とじいさんに20ルピーを渡し、帰るように言いました。
ところがじいさんは立ち去らず、私がジュース屋から出て来るのを待って、また凍えるポーズをしたかと思うと、次にそれを打ち消すような仕草をして、「クーラーのない部屋でもいいか?」というようなことを聞いて来るのです。
まあじいさんにとっては必死なのです。20ルピーくらいでは食事にありつくにはちょっと足りないのでしょう。

そこで私はじいさんに向かって凍えるポーズを取り、「クーラーは絶対に必要だ」と念を押しました。そしてそれはすなわち、「次のホテルに案内しろ」という意味にもなるのであります。

そんなわけでたどり着いたのが上述のホテル「BLUE NEST」なわけでありまして、しかもそれはじいさんと延々歩いて行った先にあったのではなく、またバスターミナル近くにまで舞い戻ってのチェックインとなったのです。これなら初めから1200ルピーのホテルで手を打っておけばよかったようなものですが、何事もやるだけやらなきゃあきらめもつかないわけです。

とまあ目出度くチェックインにまで漕ぎ付けたわけですが、じいさんはまだ帰ろうとはしません。
私がじいさんに礼を言い、帰るようにうながすと、じいさんはすぼめた手を口に持って行く「食べる」ポーズをするのです。つまり「何か食べたいのでお金をくれ」と言っているのです。
そこで私はフロントを指差し、「ホテルからもらえよ」と言ったのですが、じいさんは首を振って「くれないんだ・・・」と言います。フロントの女性もなんだか困ったような顔で苦笑いをしています。

おいおい、こっちだって予算よりかなり高い部屋に泊まることになってしまったんだぞ・・・

という思いはありましたが、この炎天下に長時間案内して回ったじいさんが気の毒に思え、財布を見ると一番の小額紙幣が50ルピー札だったので、じいさんの胸ポケットを指差し「さっきあげた20ルピーを返せよ」と言って奪い返し、代わりに50ルピー札をじいさんに手渡したのであります。

そこでようやくじいさんは笑顔を見せ、顔の前で手を合わせ、本当に嬉しそうに帰って行ったのでありました。

めでたしめでたし。

以上がトリヴァンドラムでの宿探しの一件なのであります。

そしてこの一件で思ったのが、言葉が通じなくてもなんとかなるものだという確信と、さらには初めから言葉を持たなければ「言葉の壁」なんてものは存在しないんだということでした。

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