〔当時のメモより〕 *金額に関しては当時Rs.1が約2.7円、3倍にして1割引けば簡単に計算できます。 6/26(火) チェンナイ 晴 気温36℃ 6:30 目覚める。 紅茶を飲み、暑いシャワーを浴び、ヒゲを剃る。サッパリした。 9:00 フロントで7泊分の宿代Rs.7,507.5を払い、スペンサープラザへ行く。 初日に入ったレストランでチキンカレー。 |
【以下の解説は2010年1月17日のものです】
朝目覚めるとすっかり頭痛は消え去っていました。
まだちょっと体がふわふわするような感覚ですが、気分は悪くありません。
シャワーを浴びてさっぱりすると、さっそく外に出かけることにしました。
本当はまだ無理をしない方がいいのでしょうが、かといってこの部屋でうだうだするのは精神衛生上よくありません。
それにこのホテルには今結婚式の一団が大挙して宿泊しているようで、連日午後になるとホテルの正面玄関前に人々が集まり、楽隊まで繰り出してヘタな演奏を大音量で垂れ流し、それはもううるさくてたまらないのです。なにしろこの部屋はその正面玄関側の部屋なので、その光景はここから全部見てとれ、そしてその騒音はダイレクトにこの部屋に飛び込んで来るのです。
そのようなわけで、部屋にいるよりぶらぶら出歩いた方がいいと向かった先は、この界隈で一番大きなショッピングセンター「スペンサープラザ」でした。スペンサープラザはエアコンが効いていて、ファーストフード店や食料品のマーケットなども入っているので、私にとってはまるでオアシスのようなところなのです。さて、そのスペンサープラザ前の歩道には、いつも少女の乞食が座っています。
少女は歳の頃なら12、3歳といったところでしょうか。なかなかかわいらしい顔をしているのですが、足がかなり無理な形にねじ曲がっていて、日がな一日そこに座っては、通り掛かる人に悲壮な表情と悲痛な声でお恵みを乞うのです。
私もチェンナイに滞在中は毎日のようにスペンサープラザに通いましたので、当然毎日その少女の前を通ることになり、その都度ポケットの小銭(たいてい1ルピーですが)を渡していました。
そして何度かそういうことを繰り返していますと、少女の方でもこちらの顔を覚えるようになり、小銭を渡した後は再びその前を通ってももう手を出さなくなりました。同じ日に同じ人が二度くれることはまずないので、無駄な仕事はしないのでしょう。
ところがある日、二度目にそこを通った時にまた手を出して来たことがありました。
少女はうつむき加減でこちらに手を伸ばし、思いっきり哀れな声と表情でお恵みを乞うて来たのです。
ところが、少女がしっかりと顔を上げ私と目が合うと、一瞬「しまった!」というような表情をしたのです。おそらく私とは気付かずに、近づく人影に反応して手を出してしまったのでしょう。
私はそのリアクションが可笑しく、笑いながら少女に「さっきあげたよな」ということをジェスチャーで伝えました。すると少女は実に気恥ずかしそうな顔をして、少し笑顔を見せたのです。
ただそれだけの話なのですが、私から見たらかなり絶望的な生活を強いられていると思われる少女が、時として、いえ、物乞いという仕事を離れた素のところでは「笑う」のだということを知り、なんだか少し救われた思いがしたのでありました。
つづく
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