インド国鉄の誇るシャタブディ・エクスプレスは、主要都市間を結ぶ特急である。
車両はすべて椅子席だけで構成され、寝台車は連結されていない。
これはシャタブディ・エクスプレスの守備範囲が、最長でも半日程度で移動できる距離に限られているからである。
たとえばデリーからジャイプルへ向かうシャタブディ・エクスプレスは、朝の6時5分にニューデリー駅を出発し、10時35分にジャイプル駅に到着する。
そしてまた夕刻にはジャイプル駅17時50分発、ニューデリー駅22時40分着という列車が用意されているため、デリーから日帰りで仕事や観光ができるのである。
シート配置は(一部の特等車両を除き)通路を挟んで二人掛けと三人掛けというものである。シートは固定式で向きが変えられず(リクライニングはする)、常に車両の両端から中央に向かって半分ずつの乗客が向かい合う形となり、まるで集団見合いのようなのである。
今回私はこのシャタブディ・エクスプレスに二人で乗車した。
インドの列車のチケットは二か月前に発売開始となるのだが、几帳面な日本人である私は、発売と同時に購入できるよう早めに手配をしておいた。
で、当日列車に乗り込んでみると、われわれの席はなんと三人掛けの窓側からふたつとなっていた。
なんで二人掛けの席じゃないんだよ!
しかもよりによって車両中央部の席であった。
なんで集団見合いの最前列なんだよ!
まあ中央の席は間に常設のテーブルがあるので便利といえば便利であり、グループ旅行の人たちにとってはまたとない好環境の座席であろう。
しかし今回われわれは二人だけの旅行であり、こんな好環境は宝の持ち腐れなのだ。ぜひともご家族連れ、ご友人同士のご旅行の方にお譲りしたいと切に願う次第である。
そんなことを思っているうちに出発時刻となった。
さすがインド国鉄の誇るシャタブディ・エクスプレス、定刻の出発である・・・のだが・・・
あー、後ろ向きじゃん、この席!
二ヶ月も前の発売開始とほぼ同時に手配したのに、なんでこうなるんだよ!
シャタブディ・エクスプレスでは食事のサービスがある。
でもこれがまたなんとも気まずい感じなのである。
なにしろ知らないおっさんと差し向かいで食事をしなければならないのだからな。インドの列車旅を紹介するテレビ番組などで、周りの乗客とわきあいあいとやってる光景などというのが紹介されたりするが、いつもそうとは限らない。
特にビジネス利用での乗客が多いこうした特急などでは、あまり周りの乗客と会話を交わしたりしないのである。
かくいう私だって今日は早朝4時から起き出し、ジャイプル到着後はすぐに取引先に行って商談をし、夜はまた別の列車で移動しなければならないという長い一日になることを思えば、とてもそんな気分にはなれないのである。
ということで、後ろ向きに進む車両中央の三人掛けのさらにその真ん中の席に座った私は、なるべく向かいのおっさんと目が合わないよう車窓に目を向け、飛びすさる風景をぼんやり眺めながら、せめて気持ちだけは後ろ向きにならないようにしたいものだなあと思ったのであった。
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