〔当時のメモより〕 *金額に関しては当時Rs.1が約2.7円、3倍にして1割引けば簡単に計算できます。 道を聞きながら、バックウォーターの入口や、広い田んぼなどを写真に収めることができた。 茶店でチャイとバナナを4~5本食べ、17:45帰路に着く。 途中ですっかり日も暮れて、真っ暗になったエルナクラムに到着。 |
【以下の解説は2009年12月21日のものです】
マシンが道端に止まると、私はすぐに外に飛び出しました。
おお、まさしく列車から見た光景と同じだ・・・私は目の前に広がる田園風景を見て感動してしまいました。
シューマッハは天を仰いで両手を広げ、くるくる回りながら私以上に喜んでいます。聞けばアレッピに来るのは初めてなのだそうです。
いずれにしても、ここまで苦労して来た甲斐があったというものです。よかったよかった。
シューマッハと私はまたマシンに乗ると、あこがれの風景を切り裂くようにまっすぐ伸びる道を、ゆっくりゆっくり進んで行きました。
本当はもっとここにいて、この風景を充分に満喫したいところなのですが、残念ながらそうも言っていられません。なにしろ時刻はもう5時半をとうに回っていて、帰路もまた2時間以上かかるであろうことを思えば、そろそろ引き返さなければなりません。時間にすればほんの15分ほどのアレッピ滞在でしたが、来られただけで幸せと思わなければならないでしょう。
シューマッハと私は、路傍の茶店でチャイとバナナでお腹を満たすと、来た道を引き返して行きました。同じ道を帰るわけですので、今更人に道を聞くことはないと思うのですが、シューマッハはアレッピの街中でやたらと道を尋ねます。現地語なので私には何と言っているのかわかりませんが、シューマッハの表情から推察すると、どうも道を尋ねるふりをして「コーチンからここまでオートリキシャで来た」ということを自慢しているようです。だってこちらが聞く側のはずなのに、かなり興奮気味に一生懸命相手に説明しているのです。
そんな風に何人もの人に自慢・・・いえ、道を尋ねながらマシンをゆっくり走らせておりましたら、街角に立っていた警官に呼び止められました。
私は相手が警官ならしっかり道順も教えてもらえるので、これでようやくシューマッハも本格的に帰路に就くことだろうと思ったのですが、どうも様子がおかしいのです。なにしろ警官は怖い顔でなにやら言っていますし、シューマッハは困った顔をしています。何か問題でもあったのでしょうか?
警官とシューマッハのやり取り(と言ってもほとんど警官がしゃべっているのですが)はしばらく続き、やがてシューマッハはシャツの胸ポケットから何かを取り出すと警官に渡しました。
それで事態は終結しました。実にあっけない結末でした。
ようやく警官から解放され、再びマシンを走らせたシューマッハですが、その表情は先ほどまでの笑顔とは違い、とても悔しそうです。
状況のよくわからぬ私が「どうした?」と尋ねると、シューマッハは「警官は悪い・・・本当に悪い・・・」と繰り返します。
どうも聞くところによると、オートリキシャは営業許可区域が決まっていて、コーチンで登録してあるシューマッハのマシンは、本来アレッピには来られないそうなのです。
なるほど、まあそういうことはあるでしょう。そもそも普通なら、こんな長距離の移動にオートリキシャを使う人などいないのです。なんせ往復130km、時間にして5時間くらい乗ることになりますから。
しかしそうなると悪いのは警官ではなく、シューマッハ、あるいはアレッピ行きを命じたこの私ということになるのかもしれません。
ただ、シューマッハはそのことについてはなにも言いませんが、おそらく先ほどの警官は賄賂を要求して来たのでしょう。インドではよくある話とは聞いていましたが、実際に遭遇したのは初めてです。それは確かに警官は悪い!悪いったら悪い!
でも、もしかして賄賂を払わなかったら、もっと面倒なことになっていたんじゃないでしょうか。
ことによっては警察署に連行され、いろいろ書類を書かされたり、でもって結局罰金を払わされたりと、時間もお金も余計にかかったという可能性は否定できません。
まあ、めったなことは言えませんが・・・必要悪なのでしょうかねえ・・・
とまあそんなこともあり、さらにはそのあとガソリンスタンドで給油をしたら、なぜかマシンの調子がすこぶる悪くなり、エンストを起こす頻度が高くなってしまったりと、帰りもいろいろ苦労がありまして、ホテルに到着したのは7時47分でした。
私も尻が痛くなりましたが、ずっとハンドルを握っていたシューマッハの手は痙攣したような状態となり、また眼は充血して真っ赤になっていました。
私はシューマッハに約束より少し多いお金と眼薬を渡し、そして最大限のねぎらいの言葉を掛けたのでありました。
ありがとうシューマッハ!
本当にごくろうさん!
つづく
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