2001/06/08 住めば都 バンガロール
今いるホテルはアパートみたいなところである。
ホテルの名誉のために言うと、ホテル自体がそうではなく、私に与えられた部屋がそうだと言うことである。
ついでに私の名誉のために言うのだが、私はこんなアパートみたいなホテルに泊まりたくて泊まってるのではなく、たまたま貸してもらえたのがここだったと言う次第である。
実際この古いホテルは由緒正しい気配が漂い、制服を着た駐車場係もいるし、しょっちゅう各種宴会が催されているらしく人の出入りも多い。
子供用の小さな公園もあるし、いつもにぎわっているオープンカフェやビジネスセンターと称するコーナーもある。
それと今、新築工事をやっている関係で工事人とその家族らしき人たちもいて、とにかくにぎやかである。
私のいるのは、別棟の二階建で、工事関係者の寝泊まりしている飯場の横にある。
ホテル正面から見ると一番奥にあり、おまえらあまり出て来ないで静かにしておれと言われているような感じのところなのである。
私の部屋は二階なのだが、各部屋は外廊下でつながっており、よくある木造モルタルアパートみたいな構造になっている。窓も外廊下側にしかない。
部屋番号は「24」である。
ただの「24」である。
くどいようだがドアの上にただ「24」と書いてあるだけである。
できれば「ルームNo.24」とか、せめて「No.24」とか、もしそれがだめと言うのなら「204」と言ってはもらえないだろうか。丸ひとつの違いで幸せになれるのだから。
だいたい君たちインド人は「0」を発見した人たちではないのか。
こんな部屋にも掃除人はやって来る。
朝、鉄格子のはめてある窓越しに「ルームクリン」と言って来る青年がいる。
彼は毎朝来ては窓から部屋を覗き「ルームクリン」と言う。
なかなかさわやかな青年で、私同様好感が持てる。クールバスクリンみたいである。
しかしどうせ掃除と言っても、箒でさっさっと掃くだけだろうから、人を部屋に入れるだけ面倒だ。
それに私は、勝手にこの部屋の家具の配置を変え、模様替えをしてしまっていたので何か言われるといやだ。
そこで私は「私の部屋は驚くほどきれいだ」と言っては毎朝彼を追い返していた。
今朝もまた懲りずに「ルームクリン」が来た。
私はさすがにたまっていたゴミだけ渡したものの「私の部屋は奇跡的にきれいに保たれている」と言い、追い返そうとした。
するとルームクリンは「この部屋は3日も掃除をしていない。シーツだって替えてないじゃないか」と言う・・・
なに!シーツを替えていただけるのか?
私はこの木造モルタル二階建アパートで、毎日新しいシーツで寝られるとは思ってもみなかった。
なにしろここより高いデリーのホテルでさえ、シーツなんか敷きっぱなしで10日もいたのだ。
しかも暑かったのでべとべとになっていた。
それをこのさわやかな高原の風吹き渡るバンガロールの瀟洒なロッジでは、シーツを毎日替えて下さるという。
ありがとう、ルームクリン!
さあさあ入ってくれ、君の思うままに掃除をしてくれていいんだよ。
どうだ、汚い部屋だろう。しっかり隅々までやっておくれよルームクリン。
でもその枕カバーには気を付けなくちゃあいけないぜ。なにしろよだれがべっとりさ。
そんな私のやさしいまなざしの中で、ルームクリンは手際よく仕事を進めていった。
ただ、私がやった模様替えのせいで、少しやりづらそうではあったが。
掃除を終えたルームクリンに、私は感謝の印としてスーパーで買ったオレンジを袋ごと渡そうとした。
すると彼は「お前が食べろ」(原文:You eat.)と言い残して立ち去って行った。
何もかもお見通しだなルームクリン!
おいしくないんだよね、このオレンジ・・・