トリヴァンドラムからバスで小一時間のところにあるコヴァラムビーチは、南インド随一の美しさと言われています。
シーズンともなればたくさんの行楽客が訪れるのでしょうが、私が行ったのはシーズンオフ、きれいな海岸には誰もいませんでした。
そんな貴重な観光客を「私設観光業」の男たちがほっとくわけがありません。
湧いて出たとしか思えない素早さでどこからともなく男が現れ、私のかたわらに寄り添い耳元でこうささやきました。
「ウニ食べないか、ウニだぞ、ウニ」
そんな魅惑的な言葉に思わず生唾を飲み込みながらうなずくと、あっという間に数人の男たちによって、椰子の葉陰に緊急特設無許可レストランのテーブルがセッティングされ、さあどうぞどうぞと椅子に座らされてしまいました。
やがてウニがどこからか(まあ海から採って来たのでしょうが)運ばれて来ました。そしてそれを男たちの中でも一番下っ端風の男が、ボス的立場の男に指示されてほじくり始めました。
石でウニの殻を割り、木の棒(そこらへんに落ちてそうなただの棒です)でほじくるのですが、その作業が結構大変そうなのです。地べたに座り背中を丸めて懸命にほじほじするその男の姿は、なんだかとても哀愁が漂っており、思わずシャッターを切ってしまいました。やがてその男のほじほじの成果が私の前に置かれたのですが、オレンジ色のウニのところどころに黒いものが付着していて、そいつが食べるたびに口の中でじゃりじゃりと嫌な音を立てるのでありました。
おい、哀愁なんか漂わせてないで、もっとしっかり仕事せい。
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