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避暑地へのバスは歌声に乗って:ウダイプール

         
  • 公開日:2010年7月5日
  • 最終更新日:2022年6月3日

マウント・アブー行きのバスはここで待つようにと言われ、やって来たのがこの旅行社の前でした。時間はまだ朝の7時と早いのです。私はウダイプールの街中で見つけた、こことは違う別の小さな旅行代理店で、マウント・アブー行きのバスチケットを160ルピー(約320円)で買いました。実は泊まっていた宿の主人にも、195ルピー(約390円)でバスチケットの手配をするぞと打診されていたのですが、とりあえず自分で調べてみようと思い、即答せずに言葉を濁しておいたのが正解だったようです。

マウント・アブーというのは、ここウダイプールから西へ160kmほど行ったところにある山です。平坦な砂漠の多いラジャスタンの中にあっては貴重な(?)存在で、標高1200mほどのところには避暑地があり、シーズンともなれば人がどっと押し寄せるというなかなかの人気スポットなのです。

またマウント・アブーはジャイナ教を中心とした宗教的聖地でもあり、巡礼を目当てに(もしくは名目として)そこを訪れる人も多いのです。なのでこのような民族衣装に身を包んだおじさんたちも、同じバスでマウント・アブーを目指す・・・のかと思いきや、ぜんぜん違う場所に行くところだったようです。まったくまぎらわしいったらありゃしません。いえ、こんな写真を載せてまぎらわしくしたのは私でした・・・すんません。

はい、これがマウント・アブー行きのバスです。このバス、見かけはなかなか立派なのですがエアコンがついていません。でもまだ季節はかろうじて初夏(3月22日でした)である上に、行き先が避暑地なのでその点はまったく問題ないでしょう。
また座席はちゃんとリクライニング式のもので、大きな荷物はトランクルームに入れてくれるので、ゆったり座ることができます。
今回は4~5時間の行程ということですので、このくらいのバスなら申し分ありません。なにしろ160ルピーですから。

出発は8時と聞かされていたのですが、実際にバスが動き始めたのは8時13分でした。でもこれくらいの遅れはインドでは充分誤差の範囲ですので、胸を張って「定刻通りに出発」と書いてしまってもいいくらいです。

ところがです、バスはちょっと走ると別の旅行社の前で乗客を乗せ、またちょっと走っては街角で乗客を乗せ、さらにまたちょっと走ってはくだもの売りの前で停まり、あれ?どうしたんだろう?と思っていると乗客のじいさんがオレンジを買いに降りたりと、なかなか本格的に走り出しません。

おいおいじいさん、オレンジくらい前もって買っておけよな。

そんな風にちょこちょこ停まりながら座席を埋めて行き、やがてほぼ満席となったバスは、いよいよマウント・アブーに向けて加速して行くのでありました。

私は今回の旅に小さな音楽プレイヤーを持参していましたので、さっそくそいつを取り出し、流れゆく車窓の風景など眺めながら自分だけの世界に浸ろうと耳にイヤホンを差し込んだのですが、その時どこからか歌声が聞こえて来ました。

私は座席に座ったまま背を伸ばし、声のする方向を見てみました。すると右側前方の座席に陣取った若い女性のグループが、みんなで楽しそうに歌を歌っているではありませんか。なるほどこのバスは観光地であるマウント・アブーに向かっているのであって、ただ単に都市間を移動する交通手段としてのバスとはちょっと性格が違うのです。乗客のほぼ全員が休みを利用して旅行に来ている人達ばかりですので、いわば遠足のバスみたいな感じで車内の雰囲気がどこかウキウキしていて、そりゃあ歌のひとつやふたつ飛び出してもまったく不思議ではないのです。

そういえば日本でも昔は、バス旅行の車内ではガリ版刷りの歌集なんかが配られ、ちょっと照れながらもみんなで歌ったものでした。いやあ実に懐かしいですねえ。

そんな日本の古き良き時代の思い出なんかもよみがえり、私はなんだかとても楽しい気分になって参りました。

そこで私はイヤホンを耳から引き抜くとバッグにしまい込み、娘たちが歌うヒットソングに聞き入ったのでありますが、その歌声は日本から持ち込んだどんな音楽よりずっと、車窓の風景に溶け込んでいたのは言うまでもないのであります。

♪ わっかっくあっかるい、うったぁごえにぃ~

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