私はそこに何があるのかよく知らないのに、ただ単に「ちょっと気になったから」という理由だけでマウント・アブーに行くことにしました。
そして実際ここマウント・アブーにたどり着いたわけですが、はてさてどこに行って何を見たらいいのか皆目見当がつきません。なにしろ私はここのガイドブックを持っていないのです。
そこで、「じゃあそれなら観光バスのツアーにでも参加してしまおう」と思い立ち、私インドで初めてバスツアーというものに申し込んだのであります。
申し込んだツアーは、9時30分に出発してマウント・アブーの名所をぐるっと巡り、終了はなんと日没という丸々一日コースで、値段は80ルピー(約160円)というものでした。
もらったパンフレットを見ますと、見学内容は宗教施設がほとんどで、あとは自然の景色を楽しむといったところのようです。
そんな各見学先のお話しに関しましては、また別の機会においおいご紹介することに致しまして、今回はこのバスツアー自体のことを少々書きたいと思うのであります。さて、事前に渡されたチケットでは、私の席は前から3列目あたりでした。
しかし、いざバスに乗り込もうとすると、「お前の席はここだ」と指示されたのが運転席のすぐ後ろ、つまりは最前列の席だったのです。これはおそらく私が外国人だということで、主催者側が気を利かせて最高の席を用意してくれたのでしょう。実に粋な計らいです。
ほおら、こんな感じで前が良く見えるのです。ところがです、このツアーに付いたガイドというのが、現地語(おそらくヒンディー語)しか話さないおっさんだったのです。
確かにツアーの参加者は全員インド人ですので、ほぼ全員がガイドの言葉を理解し、楽しくも有意義なツアーになるのだとは思うのですが、私に関してはチンプンカンプンでまったくわからないわけです。
それでも最初のうちはガイドの言葉に耳を傾けていました。なにしろガイドのおっさんは私のすぐ横に立って話しているわけで、しかも時折こちらにも顔を向けたりするので、そのたびにウンウンとうなづいて見せたりしなければ悪いと思ったのです。
しかし意味不明の言葉をそういつまでも真剣な顔をして聴いている(ふりをする)こともできません。だっておっさんは時折ユーモアも交えて話しているらしく、そのたびにバスの車内がドッと沸くのですが、私は何が面白いんだかわからないので、実にあいまいな顔をするしかないのです。
で、次第にこのガイドのおっさんも、私の座っている第一列は完全に対象から外すようになり(こちらに顔も向けなくなりました)、さらにじわじわと立ち位置をずらし始め、ついには完全に二列目に立って、そこから後ろにのみ話すようになってしまったのです。
ほら、こんな感じで私がガイドのおっさんを見るためには、ぐいっと体をねじって振り仰がねばならないのです。
いやあ、最初はてっきり主催者側の粋な計らいだと思った最前列の席だったのですが、実はガイドが見切りを付けた時に簡単に対象から切り離せるようにという、人種隔離シートだったというわけなのであります。ぷんぷん!
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