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2006年1月20日:インド出張レポート・その7

         
  • 公開日:2006年1月20日
  • 最終更新日:2022年8月5日

【前回までのあらすじ】

成田発の飛行機は2時間の遅れとなり、現地デリーのホテルは開業前の工事中ホテルだったりエレベーターなしの5階の客室に通されたりと散々な出だしとなった今回の出張だったが、不屈の精神と腹痛の下痢腹を抱えてジャイプールへと旅立った。あー、そうそう、本編には書かなかったけど、ジャプールの帰路軽い腹痛があり、休憩で立ち寄ったドライブインのトイレで素直に個室に入ればいいものを、ちょっとした照れもあり、「まだ大丈夫なんじゃない?」なんて勝手に判断しておしっこだけで済ませ、テーブルについていざ注文しようとしたときに激しい腹痛に見舞われてトイレに行き、結果2回もチップをとられてしまったということを、あらすじの場ではございますが、ご報告申し上げておきます。さらに私は、そんな健康状態にもかかわらず、ドライブインにいた白人観光客の団体がうまそうにビールを飲んでいたのを目の当たりにし、我慢ができずついついビールを飲んでしまったことも、あらすじの場ではありますが、有体に白状する次第であります。あゝ、いさぎよし。
そんな余計な話は置いといて、デリーに戻ればホテルに預けたスーツケースが爆発物の嫌疑をかけられ、デリー警察爆弾処理班マジックハンド特殊部隊によるスーツケースの破壊並びに内容物のマジックハンドつかみ取りおよびつまみ上げさらし首状態での、爆発物判定審査委員たちによる赤旗白旗さっさっさっ、おさるのかごやだほいさっさなどという辱めを受けたのである。その後も、タクシーに乗れば後ろから追突され、サイクルリキシャに乗れば車夫が殴られるなどというアクシデントに見舞われたのである。それにしてもずいぶん長いあらすじだなあ。

スクーターのおっさんに殴られ、すっかり意気消沈しているサイクルリキシャの車夫と別れると、私は再びバルジの運転するタクシーで移動を開始致しました。

次なる行き先は、今回のホテルをすべて手配したエージェントの男のところです。そいつにスーツケース破損の証人として、保険の請求書にサインをさせるのです。

おらおら、ここんとこに名前書いて拇印つきな。さあ早く!

その男がいるのはメインバザールです。

メインバザールはニューデリー駅前から伸びるそれほど広くない道で、その両側には小さい店舗や安宿、安食堂やインターネットカフェなどが密集していて、旅行者にとってはとても便利なところです。

しかし先日(2005年10月29日)、メインバザールの一角で爆弾が爆発し、20名以上の人が亡くなるという事件が発生致しました。
私も出張時はいつもメインバザールのネットカフェに通い、そこからメルマガなどを配信しているのですが、今回の出張では「君子危うきに近寄らず」の名言に従い、メインバザールには近寄らないようにしていたのです。
なにしろ私は報道関係の特派員でもありませんので、危険を冒してまでみなさんにインドの現状と今後の課題、経済発展と宗教対立、値段交渉に於ける日印格差、20ルピーじゃない20ドルだ!などといったことをお伝えする義務はないのです。だいいち私の文章は、そこまでする価値のあるものではないのです。今これを読んでるあなたならわかるはずなのです。

というわけで、その日は今回の出張で初めてのメインバザール行きとなったのです。

久しぶりに見るメインバザールは、なんだか以前のような猥雑なごちゃごちゃ感がなく、こざっぱりしている印象を受けました。それにそこここに警官の姿が見受けられます。
なるほど、かなりの厳戒態勢を敷いているようです。
しかしこんなに要所要所に警官を配置させていて、よくまあその上私のスーツケースを壊しに来るだけの余剰人員がいたものだなあ。これも10億の人口パワーなのかなあ。

そんなメインバザールを、いつもより少し緊張しながら進んで行きますと、やがて目指すエージェントの男のいる建物に到着致しました。そしてその建物の屋上のカフェで、めでたくエージェントの男に保険請求の書面にサインをさせることができたのであります。

無事サインももらえましたので、その後はごくなごやかにチャイなど飲んでおりましたが・・・

ん?下がなにやら騒がしいぞ。

エージェントの男の説明によりますと、その日はシーク教のお祭りで、これからパレードが始まるとのことです。

そう言われて手すりにつかまり前の通りを見下ろしますと、パレードの一団らしきものが控えているのがちらちら見えます。

あー、それでメインバザールがいつもよりすっきりしていて、警官が警備にあたっていたのか・・・

話のついでにエージェントの男に、先日の爆弾テロの現場がどこであるのかを聞いてみますと、この真下だと言うではありませんか。ええっ・・・
上半身を手すりから乗り出すようにして見下ろしましたら、地面にマリーゴールドの花が、野球のホームベースのような形に敷き詰められていて、その周りから黒く焼け焦げたコンクリートの地面が見えました。

ちょうどその時、着飾ったシークのお坊さんが数人、その爆発現場にやって来ました。どうやら祭りの開催前に犠牲者にお祈りを捧げるようです。

やがてほら貝が吹き鳴らされ、周りをとりまく群集を切り裂くようにして、お坊さんたちが爆発現場へ歩み寄ります。
いよいよこれから犠牲者に祈りが捧げられるのですが、はたして私はそれを、お坊さんの頭上から見下ろしていてもいいものでしょうか?
神を冒涜する不貞の外国人として、ここから引きずりおろされ、袋叩きに遭ったりしないでしょうか?

そんな危惧もありましたが、見れば周囲の建物の2階や3階、そして屋上などにも、私と同じようにその光景を上から見物しているインド人などがいましたので、まあ静かに見ている分には特に問題はなさそうです。

いよいよ僧侶たちの祈りが始まりました。
そしてそれに合わせ、私も心の中で静かに祈りました。

もう二度と爆弾テロが起こりませんように・・・

そして二度と私のスーツケースが爆弾と間違われませんように・・・

爆弾テロの犠牲者に祈りを捧げるとともに、自らの安全も神に祈った私ですが、今回の出張もいよいよ最終日を迎えました。

思い返せば今回は・・・

〔 中 略 〕  *「あらすじ」を参考にして下さい。

・・・といったように、トラブルの連続となりました。

しかしこれも、神が私に与えたもーた試練であり、私はそれを乗り越えて行かなければならないのです。
獅子は我が子を千尋の谷に突き落とし、這い上がって来たものだけを育てると言います。
そしてメロンなんかは、ひとつの実を大きく育てるために、他の実を取り去ってしまうと言います。
でもその取り去った小さいメロンの実は捨てたりせず、漬物にされお土産屋の店頭に並び、格安日帰りバスツアーなどで訪れたおばさんによって買われ、先日頂いた沖縄旅行のお土産のお返しなんかに使われたりすると言います。言いますと言ったら言うのです。

えーと・・・

まあとにかく、今回の度重なるトラブルは「良き教訓」とし、今後の幸多き私の人生にとってプラスにしていけばいいのです。

日本への帰国便は夜の9時半出発です。
そこで最終日はいつも、ホテルのチェックアウトの期限である正午に活動を開始します。

予定通りバルジの車が迎えに来ており、そこに私の買ったばかりのスーツケースが積み込まれました。
そのスーツケースは、先日ホテルの近所の店で15%オフで買ったものなのですが、それでも日本円で2万円ほどしてしまいました。インドでもちゃんとしたものは高いのです。保険会社は本当にこの費用を出してくれるのでしょうか?

注:前にもご説明致しました通り、今回のケースは「公権力による破壊」であるため保険金は出ません。なのでこの費用は全額自腹となったのであります。まずはご報告まで。

すでにスーツケース破損の一連の事情を知っているバルジは、その新しいスーツケースを見て私に尋ねました。

「壊れたスーツケースはどうした?」

ここがインドのいいところなのですが、一部の金持ちや新興の中産階級の人を除いては、まだまだ物を大切に使う人が多く、壊れたものでもよろこんでもらってくれるのです。
ですので私も、ホテルのフロントに訳を話し、壊れたスーツケースを引き取ってもらったのです。日本では下手したら「処分料」を取られるかもしれませんので、これは私にとってもありがたいことなのです。

ということで、バルジも壊れたスーツケースが欲しかったのです。
でもすでにホテルの従業員の私物になったであろうスーツケースを、今更返してくれとは言えませんので、バルジには「今度また警察に壊されたお前にやるから」と約束し、車を出発させました。

まずは昼食を取りにレストランへ向かいました。
普段はしょぼいものを食べていますので、インド最後の食事となる最終日の昼食はちょっといい店に行くことにしています。
そういった店で注文するものというのはだいたい決まっていて、タンドーリチキンにマトンシークケバブ、チキンマサラにガーリックナン、それから食事の必需品、ビールです!

時間はたっぷりあります。ゆっくり食事をして、そのあとはバルジに払うお金を残し、有り金のほぼ全部を総動員して最後の「買い込み」を行います。
そしてその日も財布に500ルピー(約1500円)ほどを残し、全部使ってしまいました。

それでもまだ時間があります。
そこで私は、バハーイー寺院を見学することに致しました。

バハーイー寺院というのは、バハーイー教のお寺です。
では、バハーイー教というのはなんぞや?と問えば、木馬座のケロヨンの挨拶「バッハッハ~イ!」ではなくてですねえ・・・えーと・・・

あまりよく知らないので、ガイドブックから拾い読みしてみますと、「人類の平和統一、宗教と科学の調和を説くイスラム系新宗教」とあります。

なにやら新しい概念の宗教で、ケロヨンやギロバチは関係ないようです。

とにかく、そのバハーイー寺院というのは特徴的な形をしておりまして、花びらを何枚も重ね合わせたような形、つまりは蓮の花のような形をしていて、通称「ロータステンプル」と呼ばれているのです。

ロータステンプルに到着したのは、すでに日が傾き始めた頃でした。

秋のやさしい陽がオレンジ色に変わり始め、さらにやさしさを増しながら、純白の巨大な蓮の花を照らしておりました。

そんな光景を眺めていると、自然と敬虔な気持ちになり、思わず世界平和と私の乗る飛行機が落ちたりしませんようにと、祈らざるを得ませんでした。

敷地内に入るには簡単な荷物チェックがあるだけで、特に入場料などは払わずに済みました。
あっ、いえ、敬虔な気持ちになっている私が、入場料を取るとか取らないとかでどーのこーのいうわけじゃあないのです。私はただ、この寺院の説明として、そーゆーことも書いておこうとしているだけなのです。

さて、左手に寺院を見ながら歩を進めて参りますと、やがて道は左に折れ、正面に寺院を拝することになります。

一歩また一歩と進むに従い、純白の蓮の花はぐんぐん大きさを増します。

ああ、なんて美しい姿なのだろう。

おや?あれはなんだろう?

蓮に向かって真っ直ぐ伸びる参道の中ほどに、一段高くなったところがあります。

さらに近づいて行きますと、その正体が判明しました。
そこは靴を脱ぐ場所だったのです。

イスラム寺院などは原則として土足厳禁となっていて、所定の場所で靴を脱ぎ、裸足(靴下は履いたままです)で中に入ることになります。
そして脱いだ靴は下足番が管理し、出るときにお金を渡して靴を受け取ることになるのです。

ちっ! 入場料を取らないと思ったら、こういうことか・・・

見ればみんなその場で靴(たいていのインド人はサンダルですが)を脱ぎ、そこに置いてあるズダ袋に入れて、窓口に預けているようです。
そこで私は、自分で持参したレジ袋に靴を入れ、預けずに持って入ろうとしました。こうすればお金を取られなくて済みます。
ところがあちらもしっかりしていて、ちゃ~んと番人がいて靴の持込を阻止し、窓口に預けろと言うのであります。あくまでも組織的、強制的な靴預けによる料金奪取を強行するようなのであります。

仕方なく私は靴の入ったレジ袋を窓口に預け、料金を尋ねました。

すると下足番の青年は、「お金は必要ありません」と言い、ボール紙をちぎっただけのような「預り証」を手渡してくれました。

ああ、その青年の瞳は実に澄み切っており、やさしく微笑む顔は誠に神々しく見えたのであります。

なぁ~んだ、そういうことなら素直にあのズダ袋を使っておけばよかったなあ。

寺院の内部は、蓮の花のドームがそのまま大きなホールになっていて、円形の床には中央から同心円のような感じで、ゆるい弧を描くベンチが円を成しながら何重にも置かれています。
イスラム教が母体であるためか偶像は一切なく、ベンチに座った人々は思い思いに瞑想をしていました。

私もそれにならってベンチに腰掛け、静かに目をつぶりました。

視覚による刺激を遮断された脳は、しばらくは聴覚による情報収集を試みていましたが、やがてそれも落ち着き、次第に瞑想の状態に入って行きました。

・・・

世界が平和になりますように・・・

そして出るとき、靴の預かり賃を取られませんように・・・

そんなふざけたエセ瞑想者に、インドの神は新たなる試練をお与えになられる決断をされたようです。

さあ、その新たなる試練とは?

思い出すのもいやだけど、インド滞在はまだまだ終わらない。

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