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2006年11月3日:パインズクラブ通信 第231号

         
  • 公開日:2022年8月12日
  • 最終更新日:2022年8月20日

暦の上では・・・

「おっ、あの女、いい女だねえ~」

「よせよせ。あの女には恐いおにいさんが付いてるんだから」

「なんだ、あの女はヒモ付きかあ」

と言うわけで、霜月です。

壁のカレンダーも残り2枚となり、柱の日めくりも残り59枚となり、万年カレンダーは途中で面倒になって日付と曜日が合わなくなっておりますが、今年も残すところ2ヵ月を切りました。

11月の声を聞きますってえと、気の早い人はもう忘年会の準備を始めたりなんか致します。
で、準備だけじゃ気が済まなくて、忘年会の予行練習なんかしたりします。
ほんといやですね、酒飲みは。

私も今週の水曜日、友人二人と飲みに出掛けました。
みんな幼馴染で、もうかれこれ40年以上の付き合いという仲なのですが、そのうちのひとりは、先日このメルマガでご報告した「タイムスリップゴミ屋敷」の主「あーちゃん」でした。

あーちゃんは普段はとても良い人なのですが、酒が入ると急に悪い人に変身してしまいます。
ただ、酒を飲むといつでも必ず悪い人に変身するというわけではなく、その日の体調や気分(ストレス)とともに、一緒に飲む人が誰なのかで変身度合いが変わったりします。
一番まずいケースは、飲む相手が自分よりしっかりした人で、よく面倒を見てくれる人という場合です。きっとあーちゃんは、その人に甘えてしまい、ついつい心のタガを緩めてしまうのでしょう。
その点私はあーちゃんが泥酔しても放っておくことにしているので、あーちゃんも私と二人で飲むときは、それほど悪酔いしません。なにしろ以前新宿で飲んだ時に、悪酔いしたあーちゃんを置き去りにして自分だけで帰って来てしまい、あーちゃんは電車を乗り間違えて江ノ島の駅で朝を迎えたということがあったものですから、それ以来あーちゃんは酔っても私を頼りにしなくなったのです。いえ、頼りにしないというより、友だちとして信用しなくなったのかもしれません。

さて、その日私とあーちゃんと一緒に飲んだ相手は、私たちの中で一番の良識派であり、人の面倒見が良いハラちゃんでした。
当然あーちゃんはハラちゃんと飲むと、毎回かなりの確立で悪人になってしまい、ハラちゃんに食ってかかるということを何度も犯して来ました。
なのでもうその組合せだけでも充分波乱含みなわけです。
なのに悪いことは重なるもので、あーちゃんはこの2、3日とても忙しく、非常に体が疲れている上にストレスも溜まりまくりだったようなのです。
もうその時点で、最悪のシナリオはほぼ出来上がっていたと言っても過言ではないでしょう。

駅前で待ち合わせ、私たち三人は近くの居酒屋に入りました。
まずは生ビールで乾杯し、二杯目からはそれぞれ好きな飲み物に移行して行きました。
あーちゃんは二杯目にレモンサワーを注文しました。そしてそれを見た私の脳裏には、早くも嫌な予感が走ったのであります。なにしろ新宿で悪良いした時も、レモンサワーを急ピッチで飲んでいたからです。

はたして、その晩のあーちゃんの変化は予想をはるかに上回るハイペースでした。
まだ生ビールとレモンサワーの二杯しか飲んでいないというのに、すでにロレツが回らなくなり、話し方も次第に凶暴化して来たのです。
私は危険を感じ、お代わりのレモンサワーを注文しようとするあーちゃんに、そういう口当たりのいいお酒はやめて、もっと飲みづらいものに変えるよう注意を促しました。
あーちゃんは素直に私の忠告を聞き入れ、ウーロンハイに切り替えました。これなら多少はピッチが落ちるかもしれません。

ところが、あーちゃんの変身のスピードは一向に緩まず、とうとうハラちゃんにからみ始めました。

「なんで今日飲みに誘ったんだよ。おれは疲れてんだよ。飲みたくなんかなかったんだよ!」

それに対してハラちゃんは、ごく生真面目に答えます。

「ごめん。おれの配慮が足りなかったよ。ごめん」

私は、こんな酔っ払いにそんなに真面目に対応しなくてもいいのに、と思いながら、二人のやり取りを黙って見ていました。

あーちゃんの絡み方はだんだんしつこくなり、それにつれて声も大きくなり、ついには手にしたウーロンハイのコップを、どん!とテーブルに強く叩きつける始末です。
そんなあーちゃん対ハラちゃんの攻防は、一方的にあーちゃんが攻め続ける展開で1時間以上も続き、ついに周りのお客さんへの迷惑も考えて、店を出ることにしました。

店を出て時計を見るとまだ9時半です。ぜんぜん宵の口じゃあないですか。
それでもあーちゃんの酔い方がひどかったので、今日はもうおとなしく帰ろうと、私たちは駅に向かいました。
あーちゃんの家とハラちゃんの家はここから一駅電車に乗ったところです。なので駅まで送れば、あとは二人で電車に乗って帰れるはずです。
ところがあーちゃんは、くねくねと体をくねらせながら、なおも文句や暴言を吐き続けていて、とても電車に乗れるような状態ではありませんでした。
仕方がないのでタクシーで帰ることになり、ハラちゃんと私はあーちゃんを両側から挟みこむような体勢を取り、タクシー乗り場に向かおうとした時、あーちゃんは泥酔者とは思えないような身のこなしで、駅への階段を昇って行ってしまったのです。

面倒見のいいハラちゃんは、どんどん階段を昇って行くあーちゃんと、それを下で冷ややかに眺めている私の顔とを交互に見て途方に暮れています。
そこで私はハラちゃんに、「もうああなったらしょうがないよ、大人なんだからさ」と冷たく言い放ち、飲み直しに行こうと誘い、新たなる居酒屋目指して歩き始めたのであります。

 

*このメルマガの後半へ続く

〔本題〕実際のメルマガではここに新着情報などが載ります。

*このメルマガの前半からの続きです。

 

ここまで読むと、おそらくみなさんは、

「お前はなんて友だち甲斐のないやつなんだ」

とか、

「他の人の迷惑も考えて、責任持って家まで送り届けろ」

と言うでしょう。

しかし私は、なんの考えも無しにあーちゃんを放り出したのではないのです。

あーちゃんというのは元々気の小さい人なので、頼れる人がそばに居て初めて悪態をついたりするのです。
なのでこうしてひとりになり、誰もそばにいないと知れば、おとなしく切符を買って家に帰るはずなのです。
まあ間違いを犯したとしても、せいぜい電車を乗り過ごして新宿まで行ってしまうか、反対側の電車に乗って、紅葉美しい箱根に行ってしまうかくらいでしょう。酔っての野宿に関しては、あーちゃんは百戦錬磨なのです。かつてスーツ姿のまま駅の近くで寝ているところを、通勤途上のとくちゃんが起こしたこともありましたし、江ノ島駅前で寝てしまった時などは、あーちゃんのカバンが盗まれないように、ホームレスの人が守ってくれていたくらいなのです。そう言った意味では幸せな人で、いつも「最悪の事態」にだけは陥らないのです。今回もきっと神のご加護があるでしょう。

それでは、今回あーちゃんにはどんな「神様」のご加護があり、はたして無事に家まで帰り着いたのでしょうか?

あーちゃんは酔うと悪魔なのですが、普段は良い人なので、飲んだ翌日はたいてい電話をかけて来ます。内容はお礼だったり、陳謝だったりです。
その日の翌日も、私が仕事をしていると、あーちゃんから電話がありました。
どうやら生きていたようです。

応対した私の耳に受話器の向こうから聞こえて来た声は、夕べさんざん暴言を吐き散らしていた男と同一人物とは、とても思えないおとなしいものでした。

「おはようございます・・・」

「どちら様ですか?」

「あっ、○○(あーちゃんの苗字)です」

「ああ、昨日駅前で暴れていた○○さんですか?」

「・・・あのさあ・・・ぜんぜん覚えてないんだけど・・・」

「すごかったよ。それはそれはすごかったよ」

私は夕べのあーちゃんのしたことを話しました。そして最後は駅の階段を昇って行く後姿を見届け、ハラちゃんと飲み直しに行ったと説明しました。

「そう・・・じゃあ、その後のことは知らないんだな」

ここからは、別れる直前までしか知らない私と、泥酔してほとんど記憶のないあーちゃん本人と、そのあーちゃんを迎え入れた家人の証言(実際には、あーちゃんが家人から言われたことの又聞きです)を元に、その日のあーちゃんの行動を再現してみます。

*一部はフィクションですが、おそらくほとんど合ってると思います。


****** 再現フィルム「その後のあーちゃん」 ******


駅の階段をひとりで昇って来てしまったものの、誰も追いかけて来てくれていないと知ったあーちゃんは、もう一度階段を下り駅前のロータリーに来ました。
しかしそこには見知らぬ帰宅途上の人たちがバスを待っているだけで、先ほどまで一緒に飲んでいた友だちの顔はありません。
そこで携帯電話で連絡を取ってみることにしました。かける相手はハラちゃんです。

「あっ・・・ハラちゃん・・・おれさあ、今駅前にいるんだけど・・・」

「そう。おれはもうタクシーで帰ってるから。じゃあね」

あれだけ頼りにしていたハラちゃんは、今夜はなぜかとても冷たい反応です。
それもそのはず、ハラちゃんの隣ではもうひとりの冷たい友人が飲んでいたからです。そいつがハラちゃんに「ほっとけほっとけ!死んだら死んだだ」と横で言っているのです。

頼りの友人に捨てられたあーちゃんは、酔った頭で知りうる限りの人へ電話をかけまくりました。
しかし、そんな夜に限って誰も相手になってくれません。

あーちゃんは失望感と酔いで次第に意識が遠のいて行き、その場にうずくまってしまいました。まるでマッチ売りの少女のように・・・

いくら他人の行動に無関心になりつつある現代でも、路上で寝ている人を放っておくほど世間は冷たくありません。しかしそんな男にやたらと声を掛けるのは危険です。変質者かもしれないからです。

そこで良識ある人がする行動と言えば、警察への通報となるわけです。

そんなわけであーちゃんは、通報で駆けつけた警官に保護されました。

警官はあーちゃんの名前を聞きました。
しかしあーちゃんは泥酔しているにもかかわらず、自分の名前を言うことを避け、自分の父親の名前を名乗りました。なんてやつなんでしょう。
それでも家の電話番号はちゃんと教えたようで、警官は確認の電話を入れました。

「あー、もしもし、こちら警察ですが。そちらに○○さん(あーちゃんのお父さんの名前)という方はいらっしゃいますか?」

その電話を受けたあーちゃんの家人は驚きました。そして不審に思いました。
なにしろあーちゃんのお父さんは、体調を崩され今入院しているのです。

これは流行の「オレオレ詐欺」かと思った家人ですが、尚も話を聞いていくうちに、相手は本物の警官で、保護されている男は、あーちゃんのようだと気付いたのです。


話はこれで一件落着です。

こうしてあーちゃんはめでたくも、パトカーに乗せられてのご帰還と相成り、家人が調書にサインして無事引渡しが完了したということなのです。

ああ、思えばなんと幸せな男なのでしょうか。

常に最悪のところで神のご加護があり、こうして今回は「お上の保護」で、親父狩りにも遭わず、しかもタクシー代もかからず、無事に帰還できたのですから。

おまわりさん、本当にご苦労様でした。

尚、あーちゃんはその時、警官にもさんざん悪態をついていたとのことです。
あそこまで酔ってしまうと、普段気の小さい人でも、勇気を持ってなんでもできてしまうものなのですね。すごいことです。

これから年末にかけお酒を飲む機会が増えるかと思いますが、みなさんお酒の飲み過ぎと、泥酔者の放置には充分気を配り、なにかといそがしいおまわりさんの仕事を増やさないように致しましょう。

それでは、また来週!

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