マネージャー氏は丁寧な挨拶を終えると、手にしたパンフレットを広げながらこんなことを言い出しました。
「大変申し訳ないのですが、本日当ホテルにはお泊り頂けなくなってしまいました。つきましては別のホテルにお移り頂きたいと存じます」
?! ・・・
んなこと言われてもさあ・・・こんな風に花の首飾りなんかを掛けてもらってさあ、ウェルカムのドリンクなんかも飲んじゃってさあ・・・でもって嬉々として記念写真なんかも撮っちゃってんのよ、あたしたち。
ってか、そんなことより、6時間もかけてようやく辿り着いて、やっと一息入れて、「さあ、これからいっちょ市内観光でもすっか!」って気合が入ったところなのに、今からまた別のホテルへ移動しろなんてちょっと酷じゃない。
私たちの不服顔を気にしながら、マネージャー氏はパンフレットの中の写真を指差しながら尚も続けます。
「お移り頂くのはこちらの『ガジネール・パレス・ホテル』なのですが、そちらの方が当ホテルより格上のそれはすばらしいホテルなのです」
ふ~ん・・・格が上なのか・・・
パンフレットに印刷された湖畔にたたずむ宮殿のようなホテルの写真と、「格上」という言葉に気持ちを揺り動かされた私は、もうその時点で「ほぼ承諾!」なのでありましたが、それでも一応念のためにホテルの場所を聞いてみました。
「そのホテルは、ここからどのくらい離れているんですか?」
するとマネージャー氏は一度ツバを飲み込み息を整え、観念するかのようにこう言いました。
「ここから約30kmです」
えっ?
さ・・・
さん・・・じゅっきろ?
おいおい、人をバカにするのもいい加減にしてもらいたいもんだね。
30kmって言ったら車で小一時間かかるよ。
それじゃ、今日はもう市内観光なんてできないじゃん。
あー、やだやだ、もう移動するのやだ。ケツに根が生えたよ。ここのホテル気に入ったからさ、どこでもいいからひとつ部屋用意してよ。
と、子どものように駄々を捏ねる私に困り果てたマネージャー氏は、一旦席を外してどこかへ行ってしまいました。
そしてしばらくして戻って来たマネージャー氏は、またもや私たちにパンフレットを見せながらこう言いました。
「お移り頂けるのでしたら、スイートルームをご用意させて頂きます」
マネージャー氏の手にしたパンフレットの表紙には、青いボールペンで「#116」と書かれています。
「これがそのお部屋の番号です。116号室です」
そうですか、
そこまで言うのなら仕方ありません。
「わかりました。そちらのホテルへ移ります」
その言葉にマネージャー氏は心底ホッとしたようで、今までとは一味違う笑顔を見せました。 そして私たちも、この思いも寄らぬ提案に、内心満面の笑みを浮かべていたのであります。
よし、そうと決まればさっそくガジネールへ向けて出発だ!
*すべて2007年3月時点の情報です。
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