インドの魚屋さんは刃物を固定して魚を切る。つまり魚を手で掴んで刃物に当てて切るのである。 まあ包丁を持つか魚を持つかという違いだけで、「切る」という行為には違いないのだが、なにもわざわざぬるぬるした魚の方を持つこともあるまいにと思う。
チャッテースガル州ジャグダルプル郊外で開かれていた市で、魚をさばくところを見せてもらった。魚は大きなナマズである。普通の魚よりぬるぬるぐにゃぐにゃしていてさぞかし持ちづらかろうにと思うのだが、そこはさすがプロである。見る見るうちに小さな切り身にして行った。
そんな作業を見ていて感心したのが、魚に刃物を当てる直前に軽く祈るような仕草をすることであった。
それは祈りというには少々簡単にして素早い仕草なのだが、手に持った魚に対して軽く目を閉じ頭を下げるのである。もっとも魚は切られる前からすでに絶命していたので、これは命を奪うことへの許しを請う祈りではなく、食べることへの感謝の祈りなのであろうと解釈した。この辺りは古くからアニミズム(精霊信仰)の根ざす地域なのである。
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