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2003年4月10日:パインズクラブ通信 第26号

         
  • 公開日:2022年8月5日
  • 最終更新日:2022年8月20日

暦の上では・・・

暦の上ではアトムの誕生日だったんですってね、今年の4月7日が。

私は2001年の新年を迎えたときには、「21世紀!」という実感がいまひとつ湧きませんでした。
ところが先日、漫画ではアトムは2003年の4月7日に生まれるという設定だと知り、「あー、21世紀なんだ、アトムの時代なんだ・・・」と初めて実感した次第です。

鉄腕アトムは今でも子供のヒーローですが、私の子供の頃はアトムと並んで鉄人28号も人気がありました。両方ともテレビで放映されていたので、子供の人気を二分していたように思います。
私は「鉄腕」と「鉄人」という言葉の違いがよく分からず、両者を親戚くらいに思っていました。まあ、オロナミンCとオロナインH軟膏くらい似てますのでしかたないでしょう。

私にとってより身近だったのは鉄人28号の方でした。
理由は簡単で、鉄人28号のシール付きのガムが10円で買えたからです。
それに引き換えアトムのシールを手に入れるにはマーブルチョコを買わなければならず、当時30円(たしか)したマーブルチョコは、一日10円のお小遣いの少年には一生かかっても自分で買うことの出来ない高嶺の花だったのです。

私は鉄人28号の放映は昼間見ていました。再放送だったのでしょうか?
とにかく当時の私は幼稚園入園前の在宅幼児だったので、鉄人28号が昼間放映されていても見ることができたのです。

放映時間が迫るとテレビの前に大集合して(私ひとりですが)、わくわくしながらオープニング・テーマが流れるのを待ちました。
やがて画面が夜のビル街を描いた絵に変わり、そこに鉄人の影がずんずんと次第に伸びてくるのです。早くも私の興奮は絶頂に達します。そして小さい子供の特徴を見事に発揮して、テレビに合わせて大声でテーマソングを歌い始めるのです。

考えてみたら鉄人28号のテーマソングはすごい歌詞でした。

「ビルの街にガオー!夜のハイウェーにガオー!」

です。

何でしょう?ガオー!って。

それは人を脅かすときに発する言葉じゃないでしょうか?
たとえば、

「京子ちゃん、僕だってオトコだよ。狼になっちゃうことだってあるんだから・・・ガオー!・・・・ほらね」

アホらし・・・

さて歌詞の話に戻りますと、その後に

「ダダダダダーンと弾が来る、バババババーンと破裂する」

と続きます。
すごいです、ガオーの次はダダダダダーンとバババババーンなのです。

そして最後に

「ビューンと飛んでく鉄人28号」

となるのです。

まったく擬音だらけの歌だったんですね。

とにかく私も毎日母親から10円を貰っては、近くの駄菓子屋にビューンと走ってガムを買いに行きました。

ガムは3枚入りで、そのひとつにシールが巻いてありました。
それは透明のセロファンに鉄人の絵がカラーで印刷してあり、ノートや下敷きなどの平らなものにシールを載せ、表面を硬いものでごりごりこすると絵を転写できるというもので、「マジックプリント」と呼ばれていました。

しかし幼稚園入園前の在宅幼児だった私は、ノートや下敷きを持っていません。
それではどこにシールを貼っていたかというと、茶の間の壁でした。
それは親が「シールはここに貼りなさい」と指定した区域で、公認の場所だったのです。

私は来る日も来る日もビューンと走ってガムを買いに行き、壁に向かってごりごりとシールを貼るという生活を続けました。思えば私の生活もビューンにごりごりだけの擬音に満ちたものだったようです。

さて、そんな私も幼稚園に入園し、やがて小学校へ入学するというトントン拍子の出世を遂げたのですが、小学校の1年生が終わる頃に引越しの話が持ち上がったのです。
当然親は前々から計画を進めていたのですが、子供にとっては寝耳に水、寝入りばなの大音響くらいびっくりしました。
そしてすぐに脳裏をよぎったのは「鉄人28号のシール」のことでした。

なにしろシールは壁に貼ってしまったのです。
「こんなことになるんだったら、一日ガムを我慢してシールを貼るためのノートを買えばよかった」などと、とても実行不可能なことまで考えたりしました。

あらためて真剣に壁を見てみると、そこには鉄人28号がところせましと活躍しています。
こっちの鉄人はビューンと飛んでいます。あっちの鉄人はバババババーンと弾を跳ね返しています。そっちの鉄人は貼る途中でセロファンを動かしてしまったために顔がゆがんでいます。それはなんだか泣いているようにも見えました・・・

そんな一枚一枚を見つめていると、若かった頃の思い出が走馬灯のように思い出され、「引越しなんかいやだ!このシールたちと別れるのはいやだ!」と思いました。

私は思案したあげく、父親にそのことを相談して見ることにしました。
子供にとってはとても大きな問題なのです。

そして私の「引越したくない」という真剣な訴えを聞いた父親は言いました。

「心配するな。引越しのときに壁も持っていってやる」

なんて子供だましなんでしょう・・・・

 

*このメルマガの後半へ続く

〔本題〕実際のメルマガではここに新着情報などが載ります。

*このメルマガの前半からの続きです。

 

新居に運び込まれた引越し荷物の中に「シールの壁」はありませんでした。

でも特にがっかりはしませんでした。子供でもそのくらいは分かっていましたから。
だいたい壁がそんなに簡単に外せる家では安心して住めるわけがありません。
それに成長過程にあった私は、もう鉄人28号は卒業していたのです。

鉄人28号に代わって私のヒーローになっていったのは、プロ野球の選手たち
でした。
やがて私は阪神タイガースのファンになり、窓ガラスに大きく「江夏」と書き
ました。
その窓は曇りガラスがはめ込んであるものだったのですが、そこに内側(ざらざらした面)に、なぜかロウソクで「江夏」と書いたのです。
軽い気持ちで書いたのですが、曇りガラスはロウで書いた部分だけ透明度が増し、外からも「江夏」という文字が、逆であるにもかかわらずくっきりと読め、それは二度と消すことができず、後々まで長年に渡り残ってゆくのでした。

みなさんも、建造物への落書きは止めましょう。

それでは、また来週!

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