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2003年11月13日:パインズクラブ通信 第54号

         
  • 公開日:2022年8月8日
  • 最終更新日:2022年8月20日

暦の上では・・・

冬です。もう完全に冬です。

東京でも先週あたりからぐっと寒くなって参りまして、我が家でもついにファンヒーターとホットカーペットを出しました。

思えばこの二つの暖房器具は昔では考えられないくらい快適なものです。ファンヒーターは温風で部屋をくまなく暖めますし、ホットカーペットはそのテリトリーを等しく暖めます。

それに引き換え、昔の暖房器具はどうだったかといいますと・・・

昔の暖房器具の定番はなんと言ってもコタツです。しかも私の子供の頃はホリゴタツでした。もしかしたら今の若い人(あっ、私もまだ若いのですが)はホリゴタツなんて知らないかもしれません。これは難しい字で書くと「掘り炬燵」となり、読んで字の如く掘ったコタツです。つまり部屋の床に穴が開いていて、その中に練炭(レンタン)を入れた七輪が入れてあるのです。そしてその上にコタツのヤグラがある訳です。
ホリゴタツは足だけ暖める道具ですので体は暖まりません。他に火の気もなく、窓からはスキマ風が入って来るような家ですので背中は寒いままです。もちろんストーブというものもありましたが、木と紙でできた狭い家で使用するのはとても危険です。しかも箱型の石油ストーブは、鏡のような反射板で火の熱を前面に集中させるものですから、その正面にいるとすごく熱くなってしまいます。家族がよかれと思ってじいちゃんの座っている近くにストーブを置いてしまうと、気が付いた時にはじいちゃんの半纏の背中が燃えていて、慌てて消そうと水をかけてしまうので逆にじいちゃんは寒い思いをしてしまうのです。まったく年寄りの冷や水です。

その頃の学校が使っていた暖房器具はストーブでした。
私が小学校低学年の頃まではダルマストーブが活躍しておりました。ダルマストーブの燃料は石炭です。冬場は日直がストーブ当番も兼務するのですが、石炭がなくなったときなど石炭用のバケツを持って石炭置場まで取りに行かなければなりません。また灰の掃除などもしなければならず、いろいろと大変でした。

でも、そんなストーブ当番にもひとつだけ特典があったのです。

*このメルマガの後半へ続く

〔本題〕実際のメルマガではここに新着情報などが載ります。

*このメルマガの前半からの続きです。

ストーブ当番は主に「火の世話」をするわけです。朝の点火は先生が行いますが、その後の火力の維持はストーブ当番である日直に全権を委ねられます。また、火は危険でもありますので目を離してはいけません。ストーブに付きっ切りで世話をするのです。つまり完全看護なのです。まるで恋の奴隷なのです。(ちょっと古くてすまんすまん)

と言う訳で、日直はなんとあの「全校朝礼」に出なくていいのです。

もう一度言います。

「あのいやないやな全校朝礼に出なくていいのです!」

こんなラッキーなことが他にあるでしょうか?6年間の小学校生活の中でも、これほど日直という権力のすばらしさを実感するときは他にはないでしょう。

そこでもう一度言います。

「あの校長先生のいつ終わるともわからない話を聞かなくてもいいのです!」

男女ペアで行われる日直は出席番号順でした。その日が近づくと誰しもが何曜日に日直になるかをチェックし始めます。全校朝礼は月曜日と木曜日にありました。そして月曜日の全校朝礼の時には、なんとあの面倒くさい、何のためにやらなければならないのか、それは体の硬い先生方のためだけにあるのではなかろうか、というラジオ体操もあるのです。

そこで私もチェックしてみました・・・

「おーっ! 月曜日だ! 月曜日に日直が回って来る!」

本当は回って来るのは日直の「順番」であり、別に日直がくるくる回転しながらこちらにやって来るわけではありません。でもとにかくその事実を知ったときには嬉しくて嬉しくて仕方がありませんでした。

さて私の日直の当日、いつもはあんなにいやな月曜日の登校なのに、ぜんぜん苦になりません。自然と鼻歌なんか出てしまいます。足取りも軽やかに教室に入り、黒板の右下の「今日の日直」というところに自分の名前を書きました。その文字は、日直の権力の強大さがひしひしと伝わって来るような力強さがありました。なにしろこの寒空の下、校長先生の長い話を聞かなくてもいいのです。あのラジオ体操をしなくても済むのです。

みんなが校庭に出てしまうと、教室の中には私ともう一人の日直である女子とダルマストーブだけになりました。窓から校庭を見てみますと、みんな朝礼台に向かって整列しながらも、背中を丸めて足踏みなんかしています。とっても寒そうです。

うふふ・・・みんなかわいそうになあ・・・くすくす

私は自分の恵まれた境遇に満足しました。しかし同時に私は、自分が圧倒的に優位な立場にいる安心感から、つい庶民に同情してしまったのです。思えばこれが間違いでした。

とにかくその時の私は「凍えて帰ってくるみんなのために、教室をうんと暖めておいてやろう」と、ただそれだけを考えて行動したのです。ストーブのほぼ中央にある小さな扉を開けると、どんどん中に石炭を放り込みました。

きっとみんな喜ぶぞぉ~。それから先生だってきっと褒めてくれるに違いない。「まあ、偉いわねぇ~。みんなのことを思って行動するなんて、誰にでもできることじゃないわ」なんて言うぞ、たぶん。

夢中でストーブに石炭を投入する私に、もう一人の日直である女子は心配そうに聞いてきました。

「そんなにたくさん石炭入れちゃって大丈夫?」

「平気だよ!」

私はもはやクラスの人気者間違いなしなのだ!もう誰にも私を止められないのだ!

さらに石炭をがばがば投入していくと・・・

ん? なんだか煙が出てきたな・・・

みればストーブから白い煙が出ています。ちょっとあせってストーブの中を覗いて見ますと・・・・

あれれ・・・火が見えないね・・・

もしかして・・・・・消えちゃった???

そうです。石炭は火に入れればすぐに着火するような簡単便利な石ではなかったのです。

うわぁ~、やばいなぁ~、どうしよう・・・

と思っても後の祭りです。マッチなんか持っていません。いえ、もしマッチを持っていても子供には石炭ストーブにうまく火を点けることは難しいでしょう。ましてやせっかく点いていた火を消してしまうような子供には・・・

窓から校庭を見ればどうやら朝礼が終わったようで、みんなものすごい勢いで教室に向かって走って来ます。

あーあーあーあー、帰って来ちゃう・・・

間もなく教室の扉が乱暴に開け放たれクラスメートがストーブの周りに殺到して来ました。
みんなはストーブの側にたたずむ私なんかそっちのけでストーブを取り囲み、その上に手をかざしたりしています。

火の点いていないストーブに手をかざしたって暖かくなんかないのに・・・
ばかだなぁ~、あいつら・・・

しかしそんなばかな子供でも、このストーブがあんまり暖かくない、いえ、全然暖かくない、いえいえ、それどころか鉄特有のひんやり感で冷気さえ漂わせていることに気が付いてしまいました。

「あれ?このストーブちゃんと火が点いてんのか?」

なんて言ったかと思うとストーブの扉を開けて中を確認してしまいました。

あっ!やめろ! おまえはストーブ当番じゃないじゃないか!

そんなことを心の中で叫びながらもその後の展開はだいたい想像がついていました。

「あ~っ!消えてんぞ、これ! だっからあったかくないんだ!」

そ、そんなこと言ったって、おまえ今までそのストーブの上で一生懸命モミ手してたじゃないか・・・・気が付かなきゃ幸せだったのに・・・もう、きらい!

子供は本当にいやです。人を許すということを知りません。
その後私は、まったく情け容赦ない攻撃を一身に受けました。そうです、もう一人の日直である女子をかばったのです。と言うか、なぜかみんなは初めから私だけに文句を言っていたような気もします。

「おれたちゃなぁ!あの寒い中、朝礼に出てたんだぞ!」

そんなの小学生の義務じゃあないですか、私だって校長先生のお話を直に聞きたかったですよ・・・だけど当番だからしかたなく・・・

そのときです。来なければいいと思っていた人物が教室に現れました。もう最悪です。

その人はみんなの抗議を聞いてから私に近づいて来ました。

「なんで消しちゃったんですか!」

ち、ちがう・・・「消しちゃった」んじゃなくて「消えちゃった」の・・・それから語尾のところは「!」じゃなくて「?」の方がいいんじゃない?

結局先生はその後もずっとぶつぶつ言いながら、ストーブの中から石炭を取り出す作業をしていました。

仕事はもっと楽しくやった方がいいんじゃないかと思うんですけど・・・

そんなダルマストーブもその冬でお役御免となり、翌年からは石油ストーブが 導入されたのです。

先生、よかったね。もう石炭掘りしなくて済むよ。

消えたストーブも寒いけど、鬼のようなクラスメートの心はもっと寒かった!

それでは、また来週!

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