パナジはゴア州の州都ではありますが、最寄りの鉄道駅であるカルマリ(KARMALI)はまことに小さい駅で、主要な駅としては30kmほど南下したところにあるマルガオ駅(MARGAO、または「マドガオン(MADGAON))になります。
で、今回私はそのマルガオ始発の列車に乗るために、パナジからそこまでバスで移動したのですが、これが実になんだかなあというものだったので、まあ聞いて下さい。
さすが州都と主要駅を結ぶ路線だけあってバスの便数はかなりあるようで、カダンバ・バスターミナルにはマルガオ行バスの専用チケット販売窓口までありました。急行バスの料金は22ルピー(約44円)で、所要時間は約1時間です。でもって現在の時刻が12時ですので、予定ではマルガオ駅に13時頃の到着となるわけですが、私の乗る予定の列車はなんと21時30分発とものすごく時間があります。
ではなぜそんなに早く行くのかと申しますと、私の持っている切符は正式な予約が取れているわけではない(「RAC」というものです)ので、早めに駅に行って状況を確認し、もし寝台が取れなかった場合は再びパナジに引き返し、行き先を変更して夜行バスで移動しようと思っていたのです。
さっそく私は切符を買い、バスの一番後ろの席に座って出発を待ちました。
どうやらバスは満席になるのを待って出発するようでしたが、さすが主要路線、乗客は次々に現れ、15分程で出発と相成ったのでございます。急行バスということで頻繁に停まるようなこともなく、バスは一路マルガオ目指して快調に国道を南下して行きます。
そして13時、バスは閑静な住宅街で停まり、乗客の多くが降りて行きました。
私は(おそらく)このバスの終点であろうマルガオ駅まで行くのでそのまま座っていたのですが、どうも様子がおかしいのです。私同様に席に着いたままバスの出発を待っていたインド人たちが、次々と立ち上がっては運転手となにやら言葉を交わしてはバスを降りて行くのです。またそのうちの何人かはかなり強い口調で運転手とやり合った挙句に、仕方なさそうな顔をして降りて行くのです。
ついにバスの乗客は2、3人になってしまい、さすがにこれはタダゴトではないぞと思った私は、今まさに始まった乗客と運転手の新たな口論を見守っていた男性に、この事態が何事なのかを聞いてみました。するとその男性は、「どうやらこのバスはこれ以上先には行かないようだ」と言うのです。
えっ?どーゆーことですか?
これはマルガオ駅行のバスではないのですか?
しかし運転手が「ここでおしまい」と言ってる以上、ここで降りるより仕方ないでしょう。このままがんばって乗っていても、またパナジへ戻って行くだけでしょうから。
とはいえ、こんな閑静な場所に駅があるとも思えず、この先私はどちらへ向かって行ったらいいのかすらわかりません。なにしろ道を聞こうにも運転手は英語が通じず、他の乗客はすでにどんどん歩き始めてしまっているのです。
そこで私も他の乗客の多くが歩いて行く方向に行ってみることにしました。昼下がりの炎天下の国道には、バスを降ろされた人以外歩く人はなく、ここがいったいどこなのかもわからないまま10分程歩いたでしょうか、ようやく公園に座っていた二人の老人にマルガオ駅への行き方を尋ねることができました。
その老人も英語がわからないようでしたが、「マルガオ」と「トレイン・ステーション」という言葉から私の質問を理解してくれたようでした。ただ「駅はここから2kmあるからバスで行きなさい」と言うのです。
バスに乗って来たのに、またバスに乗るの? まったくあのバスはなんてとこで客を降ろしたんだよ!
バス・ターミナルはすぐ目の前にありました。
そしてマルガオ駅に行くというバスもすぐに見つかり、私は再び一番後ろの席にどっかと座り、そこでようやく安心したのでありました。
やがてバスは満員の乗客を乗せて出発しました。
私は車窓から流れゆく風景を眺めながら、こりゃあの老人が言ってた「2km」どころじゃないぞ。あーよかった、歩いて行こうとしないで、とあらためて胸をなでおろしたりしていたのですが、15分程走ったところで車掌が私を呼ぶのです。そして「ここで降りろ」と言うのです。どうやらこのバスはマルガオ駅が最終目的地ではなく、駅はその通過地点のひとつだったようです。
私は少々面食らいながら、荷物を抱えて満員の乗客をかき分けながらようやく外に出ました。車掌はバス通りの右側に延びる道を指差し「駅はあっちだ」と言うのですが・・・
あっちって・・・どっち?
だって車掌の指さす方向にあるのは、こんな田舎道なんですよ。仮にもゴア州の主要駅が、人っ子一人歩いていないこんな田舎道のその先にあるとは思えません。
しかしそんな風にうろたえる私を置いて、無情にもバスは走り去ってしまいました。
私に与えられた情報は「駅はあっち」というただそれだけですが、とりあえず騙されたと思って、いや、絶対に騙されてると思うのですが、とぼとぼと田舎道を歩き出しました。
こうなると「時間だけはたっぷりあるぞ」ということが私の唯一の心の支えです。
田舎道はしばらく行ったところで右に折れ、そしてその先でもう少しマシな道に突き当たりました。
そこで私は、車掌から与えられた「あっち」という情報に従って左に曲がったのですが、そこでようやく道のずっと先になにやら大きな建物を発見したのです。もしかしたらあれがマルガオ駅なの?
この辺で一番大きな駅のはずなんだけど、ホントにあれなの?
若干の、いえ、かなり大きなギモンと不安がありましたが、かといって他の選択肢もなく、私は最後の気力を振り絞って、この先に見えている建物目指して歩いていったのでありました。
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