すでにとっぷりと暮れたインドの大地を、なぜか70年代昭和歌謡をBGMに(私だけですが)、バスは快調に飛ばして行きます。
途中のビラスプールという町で二度目の休憩に入り、再び走り出したバスはいよいよ山道へと差し掛かりましたが、これがあーた、想像以上にひどい道なのです。
道は一応簡易舗装されているのですがその幅が狭く、対向車が来ると片輪を路肩に落とさねばならないのです。さらにところどころに大きな穴が開いているため、たびたびバスはその下腹を路面にゴリゴリとこすりながら進みます。当然そういう道ではスピードも出ず、なるほどこれなら600kmの道のりに19時間もかかるというのも納得なのです。
それでもインドのバスはちょっとでも隙があればスピードを出します。
幸か不幸かあたりは漆黒の闇の為よく見えない(見ないで済む)のですが、狭い山道をバカみたいなスピードで突っ走っては、突然の対向車の出現に慌ててブレーキを踏むということがしばしば起こります。
そんな山道をどれほど走ったでしょうか。バスはやがて山の中の集落らしきところで止まりました。
時計を見れば午後10時半でしたが、どうやらここでまた休憩を取るようです。私もずっと座席の上で胡坐をかいたり膝を抱えたりという姿勢で70年代昭和歌謡を聞いておりましたので、いっちょ外に出て手足を伸ばしておこうかと思い、足元に脱いでいたサンダルを探したのですがなぜか見当たらないのです。
どうやら激しいカーブと急ブレーキの連続で、私のサンダルはどこかに移動して行ってしまったらしく、ようやくそれをひとつ前の席の足下に見つけました。
バスから降りるとあたりは真っ暗でシーンと静まり返っていて、この茶店だけが煌々と灯りを点けて営業中というところがちょっと不気味です。まあ私の乗って来たバスが通るくらいなので、この狭い山道は一応幹線道路なのでしょう。
なのでこんな山の中の小さな茶店でも、ここを通るドライバーや旅人にとってはとても貴重な休憩ポイントで、いわばインド版「道の駅」といったところなのかもしれません。
インド人の夕飯は結構遅めだとは知っておりましたが、さすがにこんな時間(夜の10時半)に食事をするとは思ってもいませんでした。小学生くらいの子どもまで借り出しての家族総出態勢の茶店ですから、食事と言ってもあらかじめ決まったカレー定食くらいしかないのですが、バスの乗客のほとんどがそれを注文したようで、調理を担当するこの店の主人は大忙しで、遅れて注文した私のチャイなどなかなか出て来ないのです。ようやく出て来たチャイをすすりながら、あらためて周りを見渡しましたが、本当に暗くていったいこの辺りにどれくらいの家があるのかすらわかりませんでした。
チャイも飲み終わったので次は小用を足そうと思うのですが、この道の駅にはトイレがないようです。そこでバスから少し離れた脇道に入り、草むらに向かって用を足したのですが、暗闇の中からコブラが飛び出して来て、大切なところを噛みつかれでもしたらどうしようと思うと、怖くて怖くて思うようにコントロールが定まらない私だったのであります。
インドの夜、怖ぇ~
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