結局ジャグダルプルには一週間滞在しました。
もちろん私はこの地方に住む先住民族の伝統工芸を見るというのが主な目的だったのですが、いつも工房を見て歩いていたわけではなく、行き違いのあった初日の他にも合間合間に普通の観光が入りました。
しかし、いかんせん観光開発の遅れているジャグダルプル(とその周辺)でありますので、滞在最終日にはついに見せるものがなくなってしまったようで、この日パテルは森の中にあるなんだかよくわからない施設にわれわれを案内しました。門を開けてくれた管理人のおっさんに着いて歩きながら、パテルは「ここにはヒューマン・ランゲージをしゃべる鳥がいるんです」とちょっと自慢げに説明してくれました。
ヒューマン・ランゲージということは、つまり人間の言葉をしゃべる鳥がいるということだな・・・う~ん・・・それってホントにわざわざ見に来るほどの価値があるものなのだろうか・・・まさかまたパテル、やらかしてくれるんじゃないだろうなあ・・・と、多少の危惧を抱きながらその鳥がいるという大きな檻の前にやって参りますと・・・
あー、九官鳥だね・・・こりゃ。これなら日本でもペットショップでよく売られているので珍しくないなあ・・・
でもこの時はすでに目的の工芸品はほとんどすべて見てしまった後でしたし、パテルやドライバー氏の表情を見ると、「ヒューマン・ランゲージをしゃべる鳥を見たら、きっとこの日本人は驚くぞお~」といった変な期待感が読み取れ、それを裏付けるように「よく見てろよ」みたいな雰囲気をぷんぷん振り撒きながら、二人して大きな檻に向かって何度も挨拶の言葉を投げかけたり、鳥の名前を一生懸命呼びかけたりするものですから、さすがに悪くて「こんな鳥珍しくないよ」とは言えませんでした。
パテルとドライバー氏はよほど日本人の驚く顔が見たかったようで、かなりしつこく何度も何度も呼びかけ続けました。
私はといえばそんな二人の背中を眺めながら、もうホントそのくらいでいいんだけどなあ、鳥も鳥だよなあ、一言くらいしゃべってやればいいのになあ、なんてことを思っていました。結局この日その九官鳥は鳴き声ひとつ発さず、それぞれの思惑を抱いた大の男が五人、その檻の前に気まずくたたずむという、実に異様な光景がしばし繰り広げられただけだったのであります。
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