この地方の先住民族は、一週間に一度「ハート」と呼ばれる市を開催しています。
先住民族と一口に言ってもそこにはいろいろな部族がいるのですが、ハートは部族ごとではなく、地域ごとに曜日を決めて開かれていて、毎日どこかしらではハートが開かれています。
ということで、この日はダルバというところで水曜日に開かれているハートに行きました。ハートが始まるのはだいたいお昼頃からとのことでしたが、12時過ぎにわれわれが到着した時には、すでにたくさんの人でごった返していました。
ハートで売られているのはそれこそここでの生活に必要なありとあらゆるもので、売り手もプロの小売商から、山で採って来た木の実を売るようなごく普通の人まで様々です。
そんな賑やかなハートの中でもひときわ盛況なのが酒屋です。
まあ酒屋といってもビールやウイスキーなどの既製品を売る店ではなく、壺に入れた自家製のお酒を量り売りしているおばちゃんたちのことで、お客はそれぞれ持参した容器にお酒を入れてもらったり、葉っぱを折り曲げて作ったコップに注いでもらったりしているのです。また彼らは基本的に「酒は買ったらすぐに飲む」という主義なのか、それこそ本当に買ったその場に座り込んで飲んでいる人や、みんなで木陰に集まってわいわい楽しそうに酒を酌み交わしたりしているのです。先住民族の人たちはお酒を特別なもの(おそらく「酔う」という現象を引き起こす力があるからだと思いますが)として崇めているということで、そうなると酒好きの私はかなり徳の高い人物ということになるかもしれません。
とにかくここでは飲酒は良い事ということで、酒飲みにとってこれほどありがたい風習はありません。
若干お腹の調子が悪い私ではありますが、こうなりゃ悪くなりついでに一杯お味見をさせて頂くと致しましょう。
まずは椰子の木の樹液から造ったお酒「サルフィ」です。これは色は白色で味は酸味があり、口に入れた瞬間ちょっと鼻を衝く匂いがありますが、慣れるとさっぱりとした口当たりが暑い気候の中でおいしく感じるようになります。
そしてお酒がお腹に入ったら、先ほどまで少々やばい感じだったお腹の調子もどこかへ吹き飛んでしまいました。さすが酒は百薬の長です。
次に頂戴したのはマウワという木に咲く花から造られた茶色いお酒で、名前は「スラム」と言うようです。このお店(というか酒を売ってたおばちゃん)は葉っぱを加工してくれず、両端をつまんで器にして飲まなければならないので、写真はMくんに撮ってもらいました。
このお酒はちょっと甘く、どことなく黒砂糖を思わせる味覚があります。とまあ、そんな感じでみんなで味見をさせてもらったのですが、律義者のMくんは、タダでお酒を飲ませてもらってそれでおしまいではあまりにも申し訳ないということで、ほんの「気持ち」として酒売りのおばちゃんに10ルピーを手渡しました。ところがおばちゃんはさらに律義者だったために、ステンレス製の壺にいっぱいお酒を注いで手渡して来たのです。
もちろんMくんはかなり固辞したのですが、結局おばちゃんの純粋な好意は断り切れず、壺のお酒はわれわれ三人で分担して飲むことになったのであります。
まずお酒の所有者であるMくんが飲み、次いで私が飲んだのですが、これがどうもあまり量が減らず、壺の半分ほどを残してパテルに渡しました。
パテルも残り全部を自分ひとりで飲み干すのはちょっとキツそうでしたが、途中でやめてこちらをチラっと見ても誰も壺を受け取ろうとしないので、仕方なく最後の一滴まで残さず飲み干したのでありました。
いよっ!パテル!いい男!
お酒を飲み干したパテルは、「それでは行きましょうか」と言うので、「次はどこに行くのだ?」と聞いたところ、「ホテルに戻ります」と言うのです。
ホテルに戻るったってさあ、まだ午後1時過ぎだよ・・・
これじゃ半日観光じゃないか、とちょっと不機嫌そうに言うと、ちょっと待って下さいと言ってパテルはどこかに消えてしまい、なぜか代わってドライバー氏がやって来ると、再びハートの中を案内し始めたのであります。賑やかとはいえそれほど広くないハートですから、ドライバー氏の案内するところはすでにパテルと回ったところばかりです。しかしパテルよりこのドライバー氏の方がハートの事情に通じており、また知り合いなどもいたことから、この二度目の巡回でより深くハートの人たちと交流できたことは思わぬ収穫でした。
それにしてもパテルはガイドの仕事を投げ出してどこに行ったのだ?
まさかまた誰かと電話でお話などしているわけではないだろうな・・・
ここで私のパテルに対する不信感は最大限にまで膨れ上がり、それを爆発させるにはもうあとほんのちょっとした切っ掛けで充分なのでありました。
危うし!パテル!
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