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2005年12月2日:インド出張レポート・その1

         
  • 公開日:2005年12月2日
  • 最終更新日:2022年8月5日

日本出発の11月17日(木)は快晴でした。

旅立ちの日が快晴というのはいいものです。
まるで天も私の前途を祝福し、その全行程が順調に進み、なおかつ道端でお金なども拾ってしまうのではないかという期待すら抱かせる旅立ちの朝となりました。

成田空港までの移動も順調でしたし、エアインディアのチェックインも順調でした。
そんなわけで9時半にはすでに生ビールにありつけるという、それはもう今までにない順調さで事が進んで行ったのであります。

さらに、出国審査を終え免税店の立ち並ぶ領域に入りますと、どこからか、

「本日はボージョレーヌーボーの解禁日でございます。ただ今試飲を行っておりますので、どうぞお試しになってみて下さい」

という声がするではありませんか。

おお!そうであったか、今日があのボージョレーヌーボーの解禁日であったか!そうかそうか!

と、普段は特に気にもしておらず、むしろああいったお祭り騒ぎには多少冷ややかな目を向けている私なのですが、タダでもらえるとあれば飲まない方が不自然でしょう。

不自然な行動に出て挙動不審でタイホされてはいけませんので、小さなプラスチックカップに少々ではありましたが頂いて飲みました。

私はソムリエでも川島なおみでもないので、そのワインの味の良し悪しはわかりませんが、ボージョレーヌーボー解禁日の、しかも普通の人が働いている時間に飲むワインは、格別の味に感じました。

う~ん、食べ物に関しては「空腹」が最高の調味料だけど、お酒に関しては「平日午前」が最高のツマミだなあ。ははっ!

とまあ、そんなちょっとしたことが、これから始まる旅の安全と成功を更に確信させてくれるのでありました。

さて、いよいよエアインディアの出発ゲートに到着です。

エアインディアは日ごろからテロ対策に熱心ですので、この待合室(実際は部屋ではなくて、待合コーナーといった感じのところです)に入るためにもチェックを受けなければなりません。
ここから先は刃物はもちろんのこと、ライター、マッチの類まで持ち込めないことになっています。でも、タイプライターとか近藤マッチまで持ち込み不可なのかはちょっとわかりません。たぶんケースバイケースなのだと思います。

そんなつまらない冗談など言いながらベンチに腰掛け、搭乗の案内を待つわけですが、実は今回はボーディングブリッジで機内へ入るのではなく、バスで飛行機の下まで行き、タラップを上って搭乗するという、いかにもこれから飛行機に乗ります的アップダウンクイズ10問正解夢のハワイ旅行的趣向でのご搭乗と相成るのであります。あー、めんどくせえ・・・

ところが、待てど暮らせど一向に搭乗の案内が始まらないと思っていたら、ついにスピーカーから、「機体整備の為に搭乗のご案内が遅れます」とのアナウンス・・・

結局2時間遅れの離陸となり、おかげさまでその間3回もトイレに行くことができ、生ビール2杯と解禁日試飲のボージョレーヌーボーをすべて成田の地にお返しできたのであります。
そしてトイレから戻るたびに、毎回セキュリティーチェックを受け直さねばならず、そのたびにズボンにシブキのはねかえりがついていないかを心配しなければならないのでありました。

飛行機の座席はギャレイの隣でした。

ギャレイというのは金髪青眼の白人女性の名前でも、怪獣の名前でもなくて、ご飯の準備などをするコーナーのことです。

で、そのギャレイの隣だとどうなのかといいますと、スクリーンが見えないのですよ。
なにしろギャレイの後方外壁にスクリーンが取り付けられておりますので、ギャレイから後方の席の人は、そのスクリーンを見るわけです。

しかし、ギャレイの隣の席(約4列)はそのスクリーンが見えないばかりか、壁などにさえぎられて、そのまた前方のスクリーンも見えないのです。

それで同じ航空運賃(本当は同じではないかもしれませんが)を払っているのはおかしいのです。
なのでエアインディアまたは航空券を手配した旅行会社の担当者は、私に映画代を返さなければなりません。ご連絡をお待ちしております。

とは言え、それほど混み合っていない機内でしたので、スクリーンの見える席に移動することは可能でした。
ところがあえてそれをしなかったのには理由があるのです。

それは「ヒマラヤ山脈」を見るためだったのです。

えー、お手元にアジアの地図をご用意頂きたいのですが、現在のエアインディアのデリー直行便の飛行ルートは、上海上空から中国大陸に進入し、昆明(クンミン)、バングラディッシュ上空を経て、インドに入りラクナウからデリーへと至るというものです。

つまり、バングラデッシュ上空通過後、進行方向右側にヒマラヤ山脈、そして世界最高峰のエベレストの雄姿が見えるはずなのです。

そのために私は、毎回早めにチェックインをして、なるべく進行方向右側の席を確保するようにしているのです。
なにしろ帰国便はいつも夜間の飛行となるため、チャンスは往路の一度だけなのであります。

しかし、実はこの「ヒマラヤ観賞」には、いつも大きな障害が立ちはだかるのです。

その障害とは、

なにを隠そう、隠す気もありませんが、エアインディアの誇る「空飛ぶ格闘家集団」フライトアテンダント(特に女性)なのです。

よく米軍の海兵隊を「世界最強の軍隊」なんて言いますが、エアインディアのフライトアテンダントの方が強いと思います。
客を指差しギロリと睨んで言いなりにさせる技は、サイババ以上とも言われているのです。空飛ぶ奇跡です。フライングミラクルです。
もし「新春・航空会社対抗すもう大会」などという企画があったら、エアインディアが優勝すると思います。またしても外国人横綱の誕生です。
そしていっそのこと、インド政府要人の警護もシーク教徒軍団から、エアインディア軍団に切り替えた方が安全だと思います、はい。

とにかくあの人たちは、離陸後の飲み物サービス及び食事の配布・回収が終わると、あとは乗客にビデオを見させておけばいいやと思っているのです。
まるで子どもがおとなしくなるなら、いつまでもアニメのビデオでも見せておけばいいやと思っているお母さんと同じです。

お母さん、そんなんじゃいい子は育ちませんよ。もっとコミュニケーションを取って下さい。

そしてエアインディアの人たちよ。映画上映後も飲み物サービスくらいしなさい。そうでないと、次からは自分で持ち込むぞ。

えっ・・・ぜひそうしてくれ?

えーと・・・

あー、障害でしたね。外の景色を見るための障害の話でした。

つまり、食事が終わるとすぐに映画が上映され、それが延々と続くのです。
そしてその間は、窓のシェードを下ろしておかないといけないのです。
映画はあくまでも暗闇で見るものと決まっているからです。
それは「任意」ではなくて、「強制」なのですね。われわれ乗客側には選択の余地は残されていないのです。
少しでもスキマが開いていて、そこから外の光が漏れていたら、即座に最強軍団がどすこいどすこいとかけつけ、該当する窓に一番近い乗客を指差し睨みつけ、たった一言「閉めろ」というのです。そしておとなしくシェードを閉めると、「ごっつぁんです!」と言って立ち去るのです。

そんな状況下では、とても外の景色を楽しむことなどできません。
強いてそれを行おうとするならば、昔の写真屋さんのように毛布を頭からかぶり、そのまま窓辺を覆うようにして一切の光を客室内に漏れ出ぬように閉ざせば、なんとか可能かもしれません。
でも、そこまでして、そしてそんな格好で景色なんて見たくありません。

なので今まで私は、一度も窓外に悠然とそびえるエベレストの、チョモランマの、サガルマータの雄姿を、拝んだことがないわけなのでありました。

そして今回も性懲りもなく右側の席を取ったものの、食事が下げられるとすぐに映画が始まり、軍団総出でどすこいどすこい窓閉めろ、どすこいどすこいほれ閉めろと、見回り厳しくたちまちのうちにAI307便の客室は薄闇に支配されてしまったのであります。ああ、もっと光を・・・

そんな最強軍団に歯向かう勇気と腕力のない私は、しかたなく読書をすることにしました。なにしろスクリーンは見えないのですから、他にすることもありません。

読書灯を灯してしばらく読書を楽しんでいたのですが、突然その読書灯も消されてしまいました。
前の座席の誰かが抗議して再度点灯されたのですが、どうもスイッチ系統の配線にトラブルがあるらしく、読書灯を点けるとその列の照明が全部点いてしまうようです。
「暗闇映画上映至上主義」のエアインディアですので、照明が点くのはまずいです。すぐさまその系統の配線から一切の電流が断ち切られ、再び薄闇に支配された座席では本を読むことすらできなくなってしまいました。

そこでついに私は、窓のシェードを開けるこという強攻策に出ました。

そんなことをしたら最強軍団にどんな四十八手を繰り出されるかわかりませんが、こちらも日本男児、国技をむざむざ外国人だけに占有させてばかりはいられません。先ほどの食事の時にとっておいたソルトを、威勢よくぱらぱらと撒き散らし、いざ来い!巨漢力士よ!柔よく剛を制すの精神でひらりひらりと攻撃をかわし、ここかと思えばまーたまたあちら浮気なひとぉ~ねと、小兵力士の底力をみせてくれるわい!なろー!

と身構えておりますと、来ました来ましたどすこいどすこい閉めろ閉めろ、そこ閉めろ!と。

しかし私は手に持った本を見せながら、天井の読書灯を指差しました。
その本を持つ姿はまるで二宮金次郎のようであり、天を指差す姿はまるで「天上天下唯我独尊」の流行語を生み出したお釈迦様のように見えたことでありましょう。
さすがの巨漢力士もその神々しさに恐れをなし、ついにシェード開放は達成されたのであります。

しめしめ、これで窓の外を見放題だ!

まったく人生何が幸いするかわかりません。
飛行機がぼろだったために、今回ばかりは助けられたのです。

さっそく私は窓外に広がる天上世界の景色や、時折雲の切れ間から見える中国大陸の景色を楽しみました。

こうしてわが機は、刻一刻とヒマラヤに近づいて行ったのでありました。

さて、それでは私は、はたしてヒマラヤの雄姿を拝むことができたのでありましょうか?

答えは、残念ながら「否」なのであります。
見ることができなかったのであります。

理由は、出発時間が2時間遅れたために、ヒマラヤ近辺にわが機が到達した時には、すでに外は真っ暗になってしまっていたからです。

ああっ、なんてことでしょう・・・

飛行機がぼろっちいために整備に時間がかかってしまい、今回こそはと楽しみにしていたヒマラヤ観賞が・・・闇に消えて行ってしまった・・・

でも、

飛行機がぼろじゃなかったら読書灯が点灯して、やはりシェードを閉めなければならなかったわけだしなあ・・・

いずれにしても私には、まだヒマラヤを拝む運命は与えられていないということだけは、確かなようなのでありました。

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