ここでは「ドクラ」についてご説明致します。
【アディヴァシーと呼ばれる先住民族たち】
インド北東部のビハール州から東ガーツ山脈にかけての山間部は、インド先住民族が多数暮らす地域です。
彼らは「アディヴァシー」と呼ばれ、永年独自の生活様式や文化を守りながら生活しており、私たちが持つインドのイメージとはまったく異なる社会を構成しています。
先住民族には多くの種族があり、これから紹介する作品によく冠せられる「コンド族」もその中のひとつです。
ただしコンド族を始めとする山岳民族は金属加工の技術を持たないため、彼らに代わってこうした作品を創り出していたのが「ドクラ」と呼ばれる人たちでした。
金属は他の素材(例えば木や土など)に比べて頑丈で長持ちするため、ひとつの村だけでは需要が少なく、そのためドクラは定住をせず村々を渡り歩き、求めに応じて作品を創って来たのです。
つまりこうした作品はコンド族(並びに他の山岳民族)が直接創り出したものではないため、制作者を表す意味として「コンド族のアート」と呼ぶのは適当ではないでしょう。
【破壊と再生の技】
以上のようにドクラとはひとつの職業集団を指し、またその制作技法を指します。
ドクラの技法は脱蝋法(ロスト・ワックス)と呼ばれるもので、一説ではその起源ははるか5千年前のインダス文明にまでさかのぼると言われています。(モヘンジョ・ダロ遺跡から出土した「踊り子の像」が、同じ方法で作られているというのがその根拠のようです)
しかしドクラたちがいつどのようにしてその技法を身に付けたのかは定かではありません。
ドクラの技法をごく簡単に説明致しますと、蜜蝋で作った原形を粘土で覆って型とし、そこに溶かした金属を流し込むというものになります。蜜蝋は熱で焼失してしまい、その空隙に金属が流れ込むというわけです。
しかし実際の作業はこれよりはるかに工程が多く手間と時間のかかるもので、またそのすべてに長年の経験と感が求められるという、実に高度な技術なのです。
しかもこの技法は型を一度しか使わない(作品を取り出す際に壊さなくてはならない)ため、すべての作業はたったひとつの作品を生み出すためだけに費やされることになるのです。
そのような使い捨ての型に代表されるように、ドクラには常に「破壊」と「再生」という言葉が着いて回ります。
たとえば蜜蝋で作られた原形を破壊し(焼失させ)、代わりに金属でそれを再生するということがあります。
また流し込む材料(主に真鍮)に関しても、不要になった金属(壊れた器や壺など)を溶かした再生品であることなど、ひとつの終わりが新しい誕生へとつながって行く、そんな輪廻転生がドクラ作品の根底にはあるのです。