暦の上では・・・
いよいよ6月に入りました。
6月と言ったら衣替えです。
今年は政府が率先して「ノーネクタイ」を推奨しておりますが、そういう話題を聞くと思い出されるのが、その昔やはり政府が提唱した「省エネルック」というやつです。
当時の大平首相が、半袖の背広とノーネクタイで、自ら「省エネルック」をアピールしている映像が今も脳裏に焼きついておりますが、その姿はまるで旧日本陸軍の南方司令部あたりにいそうな雰囲気でした。なんか戦場に橋を架けてしまいそうでした。口笛で「クワイ河マーチ」を吹こうとして、間違えて「史上最大の作戦のテーマ」を吹いてしまったりしそうでした。
まあ歌はともかく、はっきり言ってちょっと野暮ったい服装でしたね。だから定着しなかったのでしょう。
さて、旧日本陸軍と言えば、出てきませんね、フィリピンの元日本兵。
情報もいろいろ錯綜していて、信憑性も問われていますが、それにしてもゲリラの通行料、高いですね。回数券とかないんでしょうか?
しかしもし出てきたらすごいことになりますよ。
マスコミが殺到しちゃって、どのテレビ局もこぞって「元日本兵が初めて明かす、長生きの秘訣!」なんて番組作るでしょう。
だってあーた、栄養面、衛生面で過酷なジャングル暮らしで長寿ですから、きっとなにか秘訣があるに違いありません。あのジャングルには、なにか特別や野草や泉があるに違いないのです。
そうすると当然、それにあやかった健康食品なんかも出るでしょうね。
「ジャングルのパワーが人生を変える!『ミンダナオ長寿草エキス』」
とか、
「この水飲んで死ぬまでぴんぴん!『泉ぴん湖水』」
なんてね。
おまけに、
「これであなたも元日本兵!」
なんてキャッチまでつけちゃって、
もうなんだかよくわかりません。
グァム島で元日本兵の横井さんが発見されたのは1972年の初めでした。
当時私は小学校の6年生でしたが、朝のニュースをちゃんと見ない子どもでしたので、そのニュースは学校で初めて知りました。
しかも、友達はみんなすでにそのニュースの細部まで知っており、話し合ってる内容もかなり突っ込んだものでした。
なので私にとって、そのニュースに関する第一報は、
「カタツムリを食べてたんだって」
というものでした。
えっ? 誰が食べてたの? カタツムリ・・・なんで?どーして?
私はこの「食の情報」から初めて「元日本兵発見さる!」の衝撃的ニュースを知ったわけであります。
帰国した横井さんは、当然全国民の注目の的でした。
テレビ出演はもちろんのこと、少年雑誌のグラビアなどでも、イラスト入りで詳しくその生活振りを伝えておりました。
「これが横井さんの洞窟住居だ!」
なんて記事を読んでは、せっせと地面に穴を掘り、「横井さんごっこ」なんていう、どこが面白いのかよくわからない遊びも流行りました。
横井さんは永年ジャングルに潜んでいたので、当然戦後日本の文化の流れといったものがわからないわけです。昭和20年と比較すると、それはもう驚くほどの違いです。なにしろ昭和20年当時はテレビもありませんでしたから。
あるワイドショー番組で司会者が、出演していた横井さんに「横井さんはあまりお好きではないかもしれませんが、ここで一旦コマーシャルを入れさせて頂きます」と言ったところ、横井さんからは「コマーシャルってなんですか?」という答えが返って来て、司会者が慌てて「あっ、宣伝です。宣伝のことです」と言い直すというシーンがありました。
でもその当時の番組司会者やアナウンサーたちの多くは、戦争体験者であり、また戦後の日本の流れをすべて知ってるような人たちでしたから、そういうギャップをうまくフォローすることができたのでしょう。
はたして今はどうでしょうか。
元日本兵が戦後60年を経て帰国し、若いアナウンサーが司会を務める番組に出演したらどうでしょうか。
なにしろ若いアナウンサーでしたら、当然生まれた時から家にテレビはあったでしょうし、ビデオもあったかもしれません。それどころか、もしかしたらタンスの上に、キャベツ畑人形だってあったかもしれないのです。それほど若い人たちなのです。
そんな時代に育って来た若者が、元日本兵と話が合うとは思えません。
いえ、これはなにも若者だけに限ったことではありません。なにしろ戦時中には存在していなかったものが、今の日常には溢れているからです。
たとえば「パソコン」をどう説明したらいいのでしょう?
「電子計算機」すら知らないはずです。
当時の計算はそろばんですから。あとは、せいぜい計算尺でしょうか。
「なに? そろばん玉を機械ではじかせると、このように絵が動いたりするというのか。貴様、軍人をなめると痛い目に遭うぞ!てい!」
携帯電話はどうでしょうか?
「なに? 電話機が懐中に入る大きさで、しかも電信線がないと申すか。電信線なくして、いかに交換手は線をつなぐのか!たわけ者!てい!」
じゃあ、GPSはどうでしょうか?
「なに? 衛星の電波によって自分のいる位置を知る装置とな・・・衛星というものがよくわからんが、つまりそれは電探の逆の理屈だな。しかも米国の電波を捉えて利用するとはたいしたものだ。でかしたぞ!」
ほめられちゃいました。
*このメルマガの後半へ続く
〔本題〕実際のメルマガではここに新着情報などが載ります。
*このメルマガの前半からの続きです。
まあ、こうしてあらためて身の回りを見渡してみますと、普段なにげなく使ってるものでも、ほんの半世紀前には実用化されていなかったり、影も形もなかったものが結構あるものです。
自動車の進歩と普及なんかは、目を見張るものがあります。今じゃ車が二台、三台あるなんていう家もざらにあります。昔は大八車すら持ってる家庭は少なかったでしょうから、それに比べたらすごい変化です。
それからセンサーというものも、今ではいろんなものに組み込まれていて、昔の人から見たら驚くべき仕掛けということになるでしょう。
お店などの自動ドアはもちろんのこと、一般の家庭でも人が近づくと電気が点くセンサー付ライトなんてものがごく普通に取り付けられていますので、そんなものに元日本兵が出会ったら、さぞかし驚くことでしょう。
普通に道を歩いていたら、突然通りがかりの家の電気が点いたとします。
すると、
「しまった! 鳴子に引っかかったか!」
まさかあ、
時代劇の忍者じゃないんですから。
他にも車を感知して信号を切り替える信号機や、人が近づいて来るのを察知して目の前でパタッ!と小さな扉を閉じてしまう、感じの悪い自動改札機とか、ちょっと尻の位置をずらしただけで流してしまい、恒例の健康チェックができない、いまいましい公衆トイレとかがあります。
また、元日本兵にとっては敵国アメリカから来たファーストフード店なども、かなり奇異に感じることでしょう。
「なんだ、あの黄色い服着た道化師は・・・」
なんてね。
だいたいハンバーガーやホットドッグなんていう食べ物は、私が子どもの頃でもまだあまり馴染みがありませんでした。そりゃあ名前くらいは知っていましたが、それがどんなものかまでは知りませんでした。
私は6歳のとき、米軍基地で初めてホットドッグを見ました。
それから、高校1年の時に初めてハンバーガーのファーストフード店に入りました。そして友達数人とハンバーガーを初めて食べ、中に挟まってるすっぱいキュウリに、「なんだ!こりゃあ!」と全員で驚いたものです。
しかし慣れとは恐ろしいものです。今ではたまにハンバーガーが食べたくなるのです。
先週の日曜日のことでした。
いつものように愛犬ルークと早朝散歩に出て、帰りがけにハンバーガーでも買って帰ろうと思い立ち、少し回り道をしてその店に行きました。
その店は国道沿いにあり、普段なら人や車で混みあっているのですが、早朝だからか人影がありませんでした。
あれ?まだ開いてないのかな?
でもあの空高く突き出した「M」の看板は回転してるしな・・・
回転してるってことは開店してるってことだよな。
私は店の前まで行き、営業時間が書いてある看板を見ました。
「店内:7時~ / ドライブスルー:6時半~」
時計を見たら6時34分です。
そうか、まだ店内には人をいれないのか。
ならば・・・
と、私はルークを連れ、ドライブスルーのレーンに入って行きました。
店の裏手に回ると、そこには注文用のマイクが突き出ています。そしてその横には監視カメラがあります。
私は目はカメラ、口はマイクに向けて、「オーダーいいですか?」と聞きました。
しかししばらく待ってもスピーカーからは、なんの応答もありません。
見るとカメラのほかにもなにやら装置があるようです。
ははあ~ん、これはセンサーだな。きっと車がここに来ると反応して、店内に知らせるのだな。私の場合、車に乗って来ていないので反応しないというわけか。ふんふん。
そこで私は、手に持っていたルークのクソ取り用金属製スコップを、そのセンサーにかざしてみることにしました。
ひらひら。
私はセンサーらしき穴の前でスコップを揺らしながら、目は相変わらずカメラを向き、口はすぐにオーダーできるようにマイクの方を向き、しかも余った手ではルークの引き綱を持つという格好のまま、店内からの問いかけを待ちました。
が、
店内からは相変わらず何の問いかけもなく、カメラ目線でクソ取りスコップを壁に向かってひらひらさせるのが恥ずかしくなった私は、商品の引渡し窓口の方へ進んでみることにしました。
商品引渡し窓口には一台の車が止まっており、店内では店員が注文商品の準備をしている様でした。
なるほど・・・早朝で店員が少ないのだな。それで応答しなかったのか。
と好意的に解釈した私は、おとなしくその車の後に並び、順番を待ったのです。
やがて商品の引渡しと支払を済ませ、その車は出て行きました。
私は店員が窓口から中へ引っ込む前に、「すみませんが、ここでオーダーしてもいいですか?」と尋ねました。
私としては、他に車も来てませんし、なにも所定のマイクで言わなくても、この窓口で受けてくれるのではないかと思ったわけです。
ところが、店員の回答は私が想像しなかったものだったのです。
「こちらはドライブスルーですので、お車の方にしかお売りできません」
えっ?
この人、まさか・・・「売らない」って言ったのか?
まさかあ~
そりゃあ、ここがドライブスルーで、本来車から降りずに買うための設備だってことは知ってるよ。車が入って来るレーンだから、車に混じって歩行者が並んだりしたら危ないけどさあ。今は車なんかぜんぜんいないんだよ。来る気配すらないんだよ。
私はもう一度確かめるように聞きました。
「『車』に乗ってないと買えないの?」
バイトらしき女の子は、ちょっと困った笑顔で、それでもきっぱり、
「はい」
と言いました。
そして、
「店内は7時から開きますので、そちらでお願いします」
というのです。
今まだ6時40分だよ・・・20分も待てと言うのかよ、おい。
私はハンバーガーが買えない失望感と、車でないという理由だけで販売拒否されてしまった怒りとで、頭の中が真っ白になってしまいました。
おい・・・なあ、おい、お前・・・バイトのお前だよお前・・・
見てみろよ、他に客なんてだれもいやしないんだぞ。通りを通る車の数だってまだまばらなんだぞ。
で、目の前にはオーダーしようとしてる人間が現実にいるんだぞ。
いや、人間だけじゃない。犬もいるんだぞ。ルークってんだ、この犬。
今、この間に売れば、それだけ売上があがるんじゃないのか?えっ?
それに、車で来てないから売れないという理由がわからないぞ。
車持ってないから貧乏人で、だから80円のハンバーガーだけ集中的に買うとでも思ってんのか? そうだけどさ。
省エネやエコロジーが叫ばれる昨今、車に乗らずにわざわざ歩いて買いに来る客を、なぜそうもないがしろにするのだ?
それにいったい「車」ってどこの範囲まで言うんだよ?
バイクはいいんだろ。
じゃあ馬車は?
幌馬車隊だったら一度にたくさん売れるから断んないだろ。それにアメリカ人だし。
牛車でお公家様が来たらどう対処すんだよ?
無礼があったら大変だから、それも断んないだろ。
それから犬ぞりは?
来るぞ、植村直巳さんが。ムツゴロウさんだって来るかもしんないぞ。
そーゆー有名人も断んないんだろ、きっと。
なら、私がルークに乗って来てたら売ってくれたのかよお?なあ、おい。
とまあ、そんな文句も言いたかったのですが、所詮相手はバイトくんです。何を言ってもムダでしょう。
私は怒りを抑えながらも心の中で、
いいか道化師野郎、
今回は我慢して何も言わないで立ち去るがな、今度私を怒らせたら・・・
大声で、どなるど! ていいいいい!
・・・
それではまた来週!
ぴゅうううううう・・・・・・・