現在私はインドの首都ニューデリーにおります。
昨日の日中の気温は摂氏42度ほどになり、真夏のプールサイドを歩いている錯覚に陥り、思わずプールと間違えて車道に飛び込みそうになってしまうほどでした。
しかし夕刻、突然の強い風が雲を呼び・・・
あれ? 風が雲を呼んだのかな? それとも雲が風を呼んだのかしらん?
あー、まあそんなことはどうでもいいのです。
で、その時私はデリーのわりと高いビルにおりまして、地上8階くらいのところから外の風景を眺めていたのです。
すると突然、強い風が雲を呼び・・・ん、雲が風を呼ぶ?
あー!そんなことはどーでもいーのです。先に進まないじゃあありませんか。
とにかく強い風が吹き出し、地上の砂を巻き上げ、あっという間に視界がなくなってしまいました。
そんな砂嵐がしばらく続くと、やがて黒雲が空を覆いつくし、大粒の雨が落ちて来たのです。
風は相変わらずびょおびょおと強く吹いていて、雨粒を容赦なく窓ガラスに叩きつけるものですから、ついにアルミサッシの隙間から雨が漏れ出す始末でした。
しかし雨は地上のホコリと熱気をなだめ、デリーの街をきれいに化粧直ししてくれたのであります。
おお、惚れ直したぞ、いとしのデリー!
えー、さて、いつになくまともそうなレポートで始めさせて頂きましたが、話をデリーでの活動初日に戻さなければなりません。
では、場面を前回のところまで戻します。
えーと、私が乗ったオートリキシャが、交差点で故障してしまったというところまでお話させて頂いたかと思います。
突然のエンジントラブルのために時間をとられてしまいましたが、それでも無事にコンノートプレイスに到着しました。
オートリキシャから降り、石の歩道に降り立つとさすがにすごい暑さです。
この暑さは一年振りの体験の上に、活動初日でまだインドの雰囲気に体が合っていないため、歩いていてもなんだかちょっと頼りない感じがします。病み上がりの外出のような気分です。
しかし、そんなことを言ってはいられないのです。
なにしろここは、生き馬の目を抜き、さらにそれで目玉焼きを作ってしまうほどパワフルな大都市、
デリー!
なのです。
さて、いっちょ気を引き締めて参りますか。
まずはエア・インディアのオフィスに行って、帰りのチケットのリコンファームをしなければならないのです。リコンファームは電話でもできますが、相手はインド人なのでちゃんと処理してくれるか不安があります。そしてまた、私の英語力では、電話での応答はちょっと・・・ねえ。
エア・インディアのオフィスがあるのは、コンノートプレイスの外側にある大きなビルなのですが、その周辺は観光客相手のたちの悪いやつらがたむろする場所でもあり、とても注意しなければならない場所なのです。
では、どんな風にたちが悪いか、その手口をご説明致しましょう。
*注:お食事中の方は、この先に進むのはご遠慮下さい。また、不潔な表現等に過敏な方、二日酔いなどで胃のむかついている方なども読み進むことをお止め下さい。
話を再開します。
それは、靴にうんこを乗せられてしまうのです。
えっ?まじで?
はい、まじです、マジ。
でもいったい何のために?
それは、うんこグツを靴磨きさせ、法外な料金を取るためなのです。
えっ?まじ?
マジマジ、すっげーマジっす。
カモにされるのは、まだインドに慣れず、間抜けな顔をして歩いて来る観光客です。
そんな観光客が歩いて来ると、どこからどうしてやったのか、まったくわからない電光石火の早業で、半練状のうんこを靴のつま先めがけ、びゅっ!と放出するのです。
まあそんな間抜けな観光客ですから、うんこを乗せられても気づかぬまま歩いていますと、今度は路傍の靴磨き屋が声をかけて来るのです。
「ヘイ!マスター!靴が汚れてますぜ!きれいにしてあげましょう!」
間抜けな観光客はそこで始めて異変に気づくのですが、その異変というのが、あろうことか自分の靴のつま先に、なにやら茶色いべちゃっとしたものが乗ってるわけで、もうその時点で思考回路が正常に働かなくなってしまうわけであります。
インドとは言え大都市デリーの中心街です。ビジネスマンなんかもおりますし、身なりのいいご婦人などもおります。そんな中で靴にうんこを乗せているのは自分ひとりなのです。これは結構恥ずかしいです。
というわけで、うんこを自分で取り去る方策もなく、かつ、うんこを乗せたまま散策を続ける根性もないという人は、まんまと靴磨きのお世話になるという結果となるのです。
どうです。極悪にして卑劣なこと極まりないでしょう。
そんなわけで、コンノートプレイス周辺は要注意なのです。
「ヘイ、マスター!」
ちょっと待ってなさい。今私が話してるんだから。
みなさんもデリーに行ったときは、本当に気をつけて下さい。
「ヘイ!マスター!」
うるさいなあ、ちょっと待ってろってば!
「靴が汚れてますぜ」
!!
・・・・・・
な、なんと・・・
あろうことか・・・私の右側の靴のつま先に・・・茶色いべちゃっとしたものが・・・・・・
まじかよ・・・
「まじっす、マスター」
おいおい、このインドの達人である私が・・・まさかなあ・・・
「きれいにして差し上げましょう」
う、うっせーよ!
な、なんだこんなもん!
うんこって言ったって、もともとは食べ物だったんだぞ。
そう考えりゃ、別に汚くもなんともないもぉ~んっだ!
こんなときはこうして・・・
と、私は近くのフェンスの下につま先を突っ込み、そのあらかたをこそげ落としました。
ほぉ~ら、どうだ。
はは!私を甘く見てはいけないよ。
自慢じゃないが、なにしろこれで三度目なんだからな!
ほんと、自慢どころか・・・はあ・・・
それでも執拗に声を掛けて来る靴磨き屋に背を向け、うんこ乗せられのベテランは堂々とその場を立ち去りました。
しかし目撃者も何人かいるであろうその周辺、つまりはエア・インディアオフィス周辺にそのまま留まることははばかられ、急遽予定を変更して、コンノートプレイスの中に入って行きました。
ああ、すっかり出鼻をくじかれてしまった。
まあ、活動初日でこの暑さだから、そりゃあ仕方ないことかもしれないなあ。
ここは気分を落ち着かせるために、マクドナルドでちょっと休むとするか。
そう考えた私は、コンノートプレイスにあるマックへと入りました。
カウンターは少し混雑していて、どこも2~3人の列ができていました。
そんな列に私も並び、カウンター上部に貼られたメニューなどを見ていたのですが・・・
あれ?
なんか臭いな・・・
あっ、
もしかして、自分っすかあ?
そう思い、あらためて我つま先を見てみれば、あらかたをこそげ落としたとは言うものの、粘着力あふれる茶色い物体の残党は依然そこにへばりつき、最後の悪あがきに異臭を放っているようでした。
アア、コレハマズイデス・・・トテモトテモマズイデス・・・
それまでなんとか気丈にがんばっていた私の思考回路は、その時ついに壊れてしまいました。なにしろインドのマックは、入り口にガードマン兼ドアボーイのおっさんが立っているほどの、高級感あふれるスペースなのです。そんなお店で、
コノニオイハ、トテモマズイデショウ・・・
私はすぐさま列から離れ、いぶかしそうに見る人々の視線を背中に感じながら店から出ました。
冷房の利いた店内とは違い、外は凶暴な太陽がぎらぎらと照っていましたが、そんな凶暴に見えた太陽が、
「ははは、日本人よ、そんなにうろたえるでない。そんなうんこのひとつやふたつ、私がすぐに乾燥させ、無臭にしてみせるぞよ」
と言ってくれたのであります。
ありがとう!太陽神スーリヤよ!
もっともっと照り付けて、
邪悪なものたちを昇華させてやって下さい!
ああ、インドの自然は偉大なり。
以上、自慢話ではないので、他人にはあまり吹聴しないように願います。
では、また明日!