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御一行は五人様に増え森をさらに奥へと進んで行った:ジャグダルプル

         
  • 公開日:2011年3月8日
  • 最終更新日:2022年6月3日

再び走り出した車はうねうねと山道を進み、やがて検問所のようなところに出ました。見れば木を模したアーチ看板が道をまたぐようにして架かり、そこにはちょっと冒険心をくすぐるような字体で「KANGER VALLEY National Park(カンゲール渓谷国立公園)」と書かれていました。

そういえばここに来る道すがら、同行のMくんが沿道の看板を見て、「カンガルーって書いてあったけど、なんだろ?」と言っていたのを思い出しました。その時はインドにカンガルーがいるわけないので、何かの見間違いだろうと思っていたのですが、なるほどMくんはこの国立公園の看板を見たのでしょう。でも実際は「カンガルー」じゃなくて「カンゲール」だったので、やっぱり見間違いだったことには変わりありません。

遮断機の前で車を止めると、詰所のようなところから作業服を着たおっさんが出て来て、素早く車に乗り込んで来ました。
なるほど、おそらくこのおっさんはこの国立公園を管理している人で、通称「レンジャー」と呼ばれる人なのでしょう。ということは、おっさんの着ている服もただの作業服じゃなくて、特殊なレンジャー服ということになるわけです。
そう思うとこのおっさんが急に頼もしい人に思えて来て、これからこのレンジャーの案内で始まる大冒険に、ますます心が躍るのでした。それにしてもこの小さな車に、しかも一応お客であるわれわれに遠慮して前の席に三人座るというのは、見ているだけで狭苦しいです。なにしろ前の席はベンチシートでもなんでもないので、真ん中のパテルなどは体がシートとシートの間に挟まれた形になり、下手したら後ろに反り返って来そうです。

やいパテル、後ろにはみ出して来んなよ。

五人に増えた一行を乗せた車はぐんぐん森を進みます。
そして私は先ほどから後部座席でカメラを握り締め、いつなんどき野生の動物が姿を現しても対応できるように身構えているのです。実は私はこの国立公園に入る前に、虎の絵の描かれた看板が立っているのを見逃さなかったのです。そうです、この森には野生の虎が生息しているのです。それはすでにパテルにも確認しており、ここには6頭の虎がいるという情報をもらっているのです。

するとそんな私の気持ちを察知してか、パテルが苦しい体勢から少し後ろを振り向いて、「ここに生息する虎の数は12頭です」と言いました。

なに?12頭? お前さっき私が聞いた時は確か6頭って言ってたよな?

ははあ~ん・・・お前今レンジャーに確かめたんだろ?

するとお前は先ほど実にあいまいな情報を私にくれたことになるな。

そんなんでガイドとしてどうなんだ?パテル。

虎の数は倍になりましたがその姿は一向に見えないまま、森の中の居住区みたいなところに出て車は止まりました。ここにはいくつかの建物があり、庭では子どもが遊び、ニワトリも放し飼いで歩き回っています。

これじゃあ虎が出るとは思えませんなあ・・・

レンジャーのおっさんは車を降り、そんな建物のひとつに近づいて行くと、中に向かって何度か大きな声でなにやら呼び掛けていましたが、やがて何かを受け取るとこちらに戻って来ました。

見ればそれはカンテラのようです。

カンテラは古いものではなく、わざわざその形に作った懐中電灯のようでしたが、そんなものをぶら下げて歩いて来るレンジャーはどう見ても「のんきなおっさん」にしか見えず、獰猛な動物や厳しい自然に立ち向かいながら、日夜国立公園を守り続けている人にはどうしても見えないのでした。

はたして冒険の結末やいかに!

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