〔当時のメモより〕 *金額に関しては当時Rs.1が約2.7円、3倍にして1割引けば簡単に計算できます。 男達は今度は「ボートはどうか」と言う。 リキシャでボート乗り場へ行く。 ボートは、林の中にある普通の民家の、竿で操る木造のものだった。 ボートは木造の竿で操るものなので、なかなか趣があるのだが、結局また広い川を上って下りただけだった。 おもしろくない舟旅だったが、帰りがけにキングフィッシャーを前方に発見。船頭にストップの合図をして舟を止めさせている間に、望遠レンズに交換すると・・・ 結局そのことでチップは何も払わなかった。 若い男が待っており、リキシャを拾ってくれた。 |
【以下の解説は2010年1月7日のものです】
しかしまあ、なんでこう同じ手口で何度も騙されちゃうんでしょうねえ・・・
シーフードランチの最中に、男たちは今度は「ボートに乗らないか?」と誘って来ました。よほどこの私がいいカモに見えたのでしょう。
しかし私はコーチンでも騙されて割高のボートに乗ってしまったので、もうそう簡単には騙されないのです。
ところがですよ、男の「椰子の木に覆われた島には、椰子を加工して生計を立てている人たちが住んでいる。それから野生の動物や鳥だってたくさんいる。もちろんキングフィッシャーもだ」などという説明を聞くと、それらはすべてコーチンでは満足に見られなかったものばかりだったので、逆に心が動かされてしまうのです。これはギャンブルでの負けをギャンブルで取り返そうとする心理に似ているのかもしれません。
よし!コーチンの仇をコヴァラムで討つ!
ボート、乗ります!
そんなわけで私とMくんは、これまたコーチンの時と同じようにオートリキシャの後部座席に押し込まれ、さらに狭い後部座席にリーダー格の男がねじり込んで座り、もちろんドライバーの横にも他の男が座るといった、必殺オートリキシャ5人乗りでボート乗り場へと向かったのであります。オートリキシャの中では、Mくんの隣に座ったリーダー格の男が、「オートリキシャにもお金を払わなければならないので、もう100ルピー出してくれ」などとずうずうしいことを言い出しました。もちろん私は即座に「ノー!これ以上金は出さん!」と断ったのですが、男もしつこく食い下がります。
まあ彼らにしたらランチもボートも期待していたほどの実入りがなかったので、少しでも上積みをと必死なのでしょう。
私に「なあ!もう100ルピー出してくれよ!」と詰め寄る男の表情は次第に険しくなり、声もだんだん大きくなって来ました。私もそれに負けじと大声で言い返していますので、もうほとんどケンカのような状態になって来ています。
この時私は若干の身の危険を感じました。なにしろここは彼らのホームグラウンドで、しかも今は観光客のほとんどいないシーズンオフなのです。さらにオートリキシャはビーチからかなり走って来てしまっています。これ以上男と怒鳴り合っていると、いきなりナイフでブスリ!とならないとも限りません。
しかし私はひるみませんでした。なぜなら、男と私の間にはMくんが座っていたので、ナイフで刺されるのはMくんの方だと思ったからです。男がナイフを出してMくんを刺している間に逃げればいいと思ったのです。私はその時本当にそう思いました。これを書くにあたって作った話ではありません。Mくんの犠牲を無駄にせず、私だけでも生きて日本の土を踏もう!そして幸せに暮らそうと思ったのであります!
ところが男はそれほど野蛮ではありませんでした。
Mくんはナイフで刺されることもなく、男はあきらめ黙り込み、やがてオートリキシャはスピードを落として停まりました。
そこから歩いて椰子の林の中の小道を下ると、下り切ったところに川が流れており、そのほとりに一軒の民家がありました。どうやらこの家の人が舟を出してくれるようです。舟はコーチンで乗ったものより素朴なもので、動力もエンジンではなくおっさんの操る長い竿でした。
そしてそれはこの風景にとてもマッチしていて、なによりエンジン音がないため水の音や鳥のさえずりなどがよく聞こえ、自然と一体となった感じでなかなか良かったのです。
でもそれだけでした。
舟は初めに川を下ったのですが、すぐに海の近くに出てしまいました。
そして今度は川上に向きを変えゆっくり遡上して行ったのですが、それもしばらく行くと大きな橋に阻まれ、それ以上は行けないと言うのです。
かといって支流のようなものもなく、舟は2時間という持ち時間をただ狭い範囲内でゆっくりゆっくり進むだけなのです。
それでも一度見せ場がありました。
それはすぐ近くの葉蔭にキングフィッシャーの美しいブルーの羽が見えた時でした。キングフィッシャーはカワセミの仲間なのですごくきれいなのです。
私は即座に船頭に舟の停止を命じ、すばやくカメラのレンズを望遠に付け替えたのですが、その間舟は川の流れにさからえずそのままずるずると流されてしまい、結局キングフィッシャーを写真に収めることはできなかったのであります。
でもまあ、私もあの男たちの口車に乗せられてずるずると流されたようなものなので、あまりこの船頭に文句を言える立場じゃないかもしれませんねえ・・・
その時は頭に来てしまい、船頭にはチップをあげませんでした。
でも今冷静に考えれば、船頭もあの男たちにいいように使われただけだったのかもしれません。
もしできることならもう一度あそこに行って、船頭のおっさんに謝りたいと思う次第であります。
つづく
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