アンバサダーは国道11号線を一路ジャイプール目指して突っ走ります。この道を走り抜けると、いよいよ今回のビカネールの旅も終わりとなるわけです。ほんの2泊3日という短い期間で、移動もすべてアンバサダーという内容でしたので、「そんなの『旅』じゃねーよ。単なる『観光旅行』だろーが」と言う方もあろうかと思いますが、まあそこはそれぞれ都合がありますので、本人が有意義ならそれでいいのです。個人旅行だろうと、ツアー旅行だろうと、貧乏旅行だろうと、大名旅行だろうと、社員旅行だろうと、懸賞で当たった旅行だろうと、それからえーとえーと・・・・まあとにかく旅にはいろいろな形があっていいのです。
帰路の休憩も往きと同じドライブインでした。きっと他に安心して外国人を連れて行けるところがないのでしょう。同じドライブインの同じレストランで同じメニューを見せられましたが、今回は軽いものだけにして、早々に車に戻りました。
ところがドライバー氏はまだ休憩中と見え、戻って来る気配すらありません。
そこでその辺を少し歩いてみることにしたのですが、この辺りは本当に砂漠ばかりで見るべきものがなにもありません。ただただベージュの大地がどこまでも広がっているだけです。
と、そんな風景を眺めておりましたら、いつの間にやら私のすぐ横に男が立っているのに気が付きました。
こういう突然の人の出現というのはインドではよくあることで、誰もいないと思って地図など引っ張り出して位置を確認していたりすると、どこからともなく人がわらわら集まり始め、みんなそれぞれに「どうした?」「どこへ行きたいんだ?」「政府のお土産屋ならこっちだぞ」「ほら、おれが案内してやる」とかなんとか言って、まんまとマージンの貰えるお土産屋なんかに連れ込まれたりするのです。あぶないあぶない。
その男はこのドライブインの関係者と思われましたが、ドライブインにもお土産のコーナーが併設されていたりしますので用心しなければならないでしょう。
そんな風に少し身構える私に、男はゆったりとした口調で話しかけて来ました。
「昨日もここに寄っただろ」
「いや、一昨日だ」
「そう、一昨日だ。 これからどっちへ向かうんだ?」
「ジャイプールだ。一昨日ビカネールに向かって、今日は帰りだ」
「そうか、ジャイプールか」
会話の内容はそんな他愛もないことでしたが、逆にそんな会話だからこそ、この男の日常がなんとなく想像できてしまうのでした。
きっとこの男にとって刺激と言えばここを通り過ぎる旅行者だけで、しかもその行先は「ビカネール」と「ジャイプール」のふたつだけで、そんな日常が「昨日」も「一昨日」も同じように過ぎて行ったのでしょう。
会話はそれきり途切れてしまいましたが、そろそろ立ち去ろうとする私に男がぽつりと言いました。
「また暑い季節がやって来る」
そう言われて見上げた空は、どこまでも果てしなく青く広がっており、確かに太陽は二日前より確実に近くなっているように感じたのでありました。
おしまい
これで「砂漠の都市ビカネールの旅」は終りとなります。
最後までお付き合い頂きありがとうございました。
*すべて2007年3月時点の情報です。
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