「あれがリシュケシなのに、なんでこの車、山登りしてんの?」
といぶかる私に、この小旅行の手配一切を任されたC君は、
「あっ、事前に説明してませんでしたっけ? 実は今日止まるホテルというのは、リシュケシの街にあるのではなくて、リシュケシを見下ろす山の上に建ってるんですよ」
「しかしなぜわざわざそんな不便な場所のホテルを取ったの?」
「そのホテルは『アーナンダ』と言って、ヨガやアーユル・ヴェーダなどで有名な高級スパリゾートなんですよ」
へえー、アーナンダ、そーなんだ。
私はてっきりリシュケシの街角の、ガンジス河が見える小さなホテルにでも泊まるのかと思っていたのでかなり驚きました。
確かに事前にホテルの名前は聞いていたのですが、「アーナンダ」というのはお釈迦様の一番弟子の名前なので、まあよくありそうなネーミングだなあくらいに思い、特に気にもとめていなかったのです。
しかし自分で言うのもなんだけど、私に似合わないなあ~、はは!
その間にも車はぐんぐん山道を登り、ゆるやかな右カーブを曲がったとき、いきなり目の前に大きな建物が姿を現しました。どうやらここが今日泊まるというホテルらしいです。
それは建物としては二階建てなのですが、おそらくは土地の傾斜を利用して建てられたと思われ、玄関は地上からかなり上の部分、ちょうど建物の真ん中あたりにあります。
玄関までの階段は左右両側から中央に向かい、さらに中央から両方向に上がり、そんでもってもう一度折り返してまた中央で出会うといったジグザク形式のもので、子どもならよーいドン!で駆け上がり競争をするであろうと思われるような造りになっています。
ここで少しこのホテル、正式名称「ANANDA IN THE HIMALAYAS」についてご説明させて頂きます。
このホテルは、もともとはマハラジャの宮殿だったものをホテルに改装し、さらに別棟の宿泊施設、スパ、レストランなどを併設した、インドでも有数のスパ・リゾートホテルなのです。
広大な敷地はよく整備され、緑の芝生と色とりどりの花、はたまたクジャクまでいたりして、その中を散歩するだけで心身ともに癒される環境を有しております。
そしてこのホテルの最大の特徴は、なんと言ってもヨガを始め、アーユル・ヴェーダや各種マッサージなどのコースが充実しているということです。
まあつまり、このホテルの宿泊者は全員それを目的に来ているのです。
そんなことも知らずに来るのは、おそらく私が初めてなんだろうと思います。えっへん!
そんなアーナンダ・イン・ザ・ヒマラヤの入り口に到着した私たちですが、ザ・ガードマン・オブ・ ジ・アーナンダ・イン・ザ・ヒマラヤが行く手をはばみ「予約はしてありますか?」と聞くのでありますよ。
きっと見学目的で来る人も多いのでしょう。なのでしっかり確認してから初めて中に通すようです。
「もちろん予約はしてありますとも!」
胸を張った力強い答えと、見るからに高貴そうな私たちの顔で、すっかり予約を確信した門番は、鉄の門扉を押し開き、晴れて私たちはアーナンダ・イン・ザ・ヒマラヤの中に静々と進み入ったのでございます。
私たちを乗せた車は、緑の芝生ときれいな花で縁取られた道を進み、先ほどの建物の右側を通り、さらに上へと登って行きます。
坂を上り切ると、そこにはまた別の建物があり、その正面玄関でようやく車は止まりました。ここがレセプションのようです。
うやうやしく車のドアが開けられ、緊張しながら玄関に進む私たちの前に、今度は美しい女性が現れ、首に数珠のネックレスをかけてくれました。
いまだハワイにも行ったことのない私は、女性からそんな歓迎を受けるのは初めてで、きっとこの後歓迎のキスとかされるんだろうなあ、困ったなあ、うふふ、などと身構えたのですが、残念・・・いえ、ありがたいことにそれはありませんでした。
しかし首に掛けられた数珠を見ると、なかなか立派そうなものなので、はたしてこれはもらえるんだろうか?それとも返すのだろうか?もし返すとしたらどのタイミングで返せばいいのだろうか?帰るときか?などと、ビンボーくさいことなどを考えてしまったのですが、玄関を入ったすぐの棚に飾ってあるナンディー(シバ神の乗り物のウシ)に何本もの数珠がかかっているのを発見し、あー、こんなにあるんなら、これは返さなくてもいいのだろうなあと、ようやく胸をなでおろすことができたのであります。
まず私たちが通されたのは、元マハラジャの宮殿の応接間でした。
天井からはシャンデリアが下がり、壁には年代ものの写真が何枚も飾ってあります。どうやらここを訪れたかつての賓客たちの写真のようで、中には大英帝国の王族らしき人もいるようです。なんだかホーンテット・マンションみたいなところなのです。
冷たいハーブティーなど頂きながら、ホテルのマネージャー氏としばらく歓談した後(実際はあちらが一方的に話しているだけでしたが)、私たちは再び元の玄関から外へ出ました。
実はここから宿泊施設まで移動しなければならないのです。
マネージャー氏の話によると、環境汚染を最低限に抑えるため、自動車は極力中には入れず、ホテル敷地内ではもっぱら電気自動車を使用するとのことです。
と、一台の白いカートがするすると走り寄り、私たちの前に止まりました。
ふ~む、これがマネージャー氏のいう電気自動車か・・・
その電気自動車は4人乗りの小さなもので、たまにゴルフ場などで見かけるような感じのものでした。
マネージャー氏と私たちを乗せ、電気自動車は音もなく走り出しました。
コンクリート舗装の小道を走りながら、マネージャー氏が敷地内の設備に関する説明をしてくれます。
「ここが瞑想する場所です」
「ここは夕陽を見る場所です」
「ここにはミニゴルフコースです」
「ここはスパの施設です」
「ここはプールです」
「ここは・・・」
と、それはそれは充実した設備群のようです。
宿泊施設には5分ほどで到着しました。
しかし車だから5分ですが、歩いたらレセプションのある建物まで結構ありそうです。しかもここからその建物までは、ゆるい上り坂になっていますので、かなり疲れそうです。
なんとか明日のチェックアウトまで、レセプションに行く用事ができませんようにと願う私でありました。
さあ、そしていよいよ今夜泊まる部屋に入るわけなのですが、このスパリゾートの部屋とは、いったいどんなにすばらしい部屋なのでしょうか。
次回へ続く