暦の上では・・・
11月も半ばということで、朝晩の冷え込みもぐっと厳しくなって参りました。
えー、こう寒くなって参りますとありがたいのは、なんといっても便座を暖めてくれる装置ですね。便座ウォーマーというやつです。
冷たい便座に座るのはとても勇気の必要なことです。
なにしろ座る前から「冷たい」というのがわかっていますから、かなり真剣に身構えてしまい、いざ座るときは渾身の力を振り絞って命がけで座らなければなりません。時には「うぉー!」とか叫んでしまうことすらあります。
それほどの気合と精神力を要する作業ですから、冬場のトイレでお年寄りが脳溢血で倒れてしまうのも納得できるというものです。いわば便座ウォーマーは、長寿社会を影で支えている「縁の下の力持ち」と言いますか「便所のふんばり屋さん」と言いますか、とにかくかなり重要なポジションにあるわけなのです。
その便座ウォーマーが発明される前の便座(以下「前座」と言います)は、とても冷たかったわけですが、その頃人々はどうやってこの問題に対処していたかと申しますと、それはもう「人」の力によっていたのでございます。
つまり、人が出た直後の、まだほのかにぬくもりが残る前座に座ることで、脳溢血の危機から自らの命を守っていたのでございます。
ただし脳溢血の危機から逃れられる代わりとして、鼻が曲がるという代償を支払わなければなりませんでした。まあトイレの問題だけに、代償(大小)はつきものなのであります。
さて、そんなありがたい便座ウォーマーですが、問題がないわけではありません。
便座ウォーマーの抱える問題とは、常に暖めておかなければならないということです。つまり、四六時中電源が入った状態にしておかなければならないということで、実にもったいないわけです。
かと言って、人がトイレに入ったのを感知してから電源を入れたのでは遅いですし、また、わずか3秒で急速加熱をするような強力パワーの便座ウォーマーではちと不安です。温度センサーの故障かなにかで加熱し過ぎてしまい、座った瞬間に「ジュッ!」と音を立て、トイレ中に焼肉の匂いを発散させないとも限らないわけです。
しかし必要な時だけ電源を入れて暖めるという方法は有効だと思います。
あとはいかに早い段階で「トイレ使用」を感知して電源を入れるかということになるわけです。
たとえば携帯電話から身体状況(この場合は便意)を自動的に最寄のトイレに送信し、便座ウォーマーの電源を入れるという技術が開発されんことを切に祈る次第であります。
景気のいい通信関連の会社は、トイレ関連の会社の株を保有し、この問題解決に全力を挙げて欲しいのであります。
そんなわけで暖を求める季節となりましたが、体を温めてくれるものは、なにも暖房器具だけというわけではありません。
たとえば「熱き想い」といったものも、体を温めてくれるのであります。
先日私は、そんな熱き想いの結集された「熱きライブ」を見て参りましたので、今回はそのお話をしたいと思うのであります。
そのライブは友人からのお誘いがあって行ったものなのですが、アーチストの名は長渕剛、場所は日本武道館、今年のライブツアーのファイナルでした。
*このメルマガの後半へ続く
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*このメルマガの前半からの続きです。
地下鉄九段下駅は、まだ開演まで2時間以上もあるというのに、すでに大勢の若者たちを次々に吐き出していました。
中には黒いスーツにサングラス、肩には今回のライブツアーの大きなバスタオルをかけ、ポケットに手をつっこんだ「ミニ・ナガブチ」略してミニブチみたいな若者もいます。
そんな若者たちに混じって、私と友人は少々場違いな感じもしましたが、なあに、われわれだってまだまだ若いもんには負けないもんね、と意味もなく対抗心などを燃やしてみたりするのでありました。
なにはともあれまずは燃料補給ということで、靖国神社の境内にある「お休み処」でおでんにビールでもやろうじゃないのと、結局年寄りくさい発想で、せっせと歩道橋を渡って行ったのでありますが、時すでに遅く、「お休み処」はもう店じまいを始めておりました。
仕方がないのでまたせっせせっせと歩道橋を渡り、お堀端に出ていた露天商から1本500円もする缶ビール計4本を買い、近くのコンビニでピリ辛チーズかまぼこ2本入りとポテトチップスを買い、武道館へと続く橋の上に座り込んで飲み始めたのであります。
ビールを飲みながら通り過ぎる人々を観察してみますと、やはり若者が圧倒的に多いようで、ごくたまに40代50代といった人が混ざり込むといった感じでした。先日やはり同じ友人から誘われて行った、さだまさしのコンサートとは、あきらかに客層が違うのであります。
われわれの席は2階席の北東スタンドでした。
武道館の構造をよくご存知でない方に簡単にご説明申し上げますと、武道館の建物は八角形になっておりまして、その各「辺」はそれぞれの方角で識別されています。つまり、東西南北に加え、その中間の北東とか南西とかがあるわけです。
通常の一階部分には観客席はなく、二階と三階の位置に常設のスタンドを持ち、二階部分を「一階」三階部分を「二階」と呼んでいます。まあイギリス流の呼び方と思えば詐欺とは言えないでしょう。
そして本来コンサート会場ではない武道館は、常設のステージというものを持ちませんので、たいていはフロアーの北側に特設のステージを作り上げ、残ったスペースはアリーナ席とします。
アリーナ席は当然全席がステージ方向を向いていますが、スタンド席はそうはいきません。それぞれの方角を背負って正面を向いていますので、北側のステージに正面から対峙できるのは南スタンドしかありません。まあステージは南方向にでっぱって作られていますので、西スタンドと東スタンドのように横向きに座る場所でも、想像するより見やすいと思います。
しかし、北東や北西のように「北」のつくスタンドはどうでしょう。なにしろステージ自体が「北」なわけです。
なので北東や北西というのは、言わば半分はステージの仲間なわけですよ。つまり半分方ステージと同じ方向を見ているのであります。
まあ物は考えようで、「半分アーチストと同じ方向を見ることができるんだ」と考えれば幸せかもしれませんが、その北東スタンドのさらに端から3番目の席だった私は、やはり「見づれー」というのが正直なところだったのであります。しかも二階席の上の方でしたからね。
とまあ、武道館の構造をご説明している間にも次第に観客席が埋まり始め、あちらこちらで「ツヨシー!」の掛け声と、なんだかよく分からないけど「フォー!」なんて叫び声も聞こえて来ました。いよいよ開演が近づいたようです。
ついに会場の照明が消され、特設ステージの三方を覆い隠している緞帳代わりの白い大きな布にスポットライトで模様が描き出され、曲の前奏が始まりました。
観客からはまだ演奏者は見えない状態のはずなのですが、どっこいステージナナメウシロに位置する私の席からは中が少し見えています。小さいながらも長渕らしき人物も見えています。
でもそれが徳なのか損なのかよくわかりません。まあ演出効果的に考えれば損ということになるでしょうか。
私は以前お祭りのヒーローショーのステージ裏を見てしまったときのことを思い出してしまいました。そのときはたまた通りがかったステージ裏の紅白の垂れ幕が風でまくれ上がり、その中でスタンバイしていたヒーローたちのだらしない姿を見てしまったのでありますが、それとこれとを同列に述べると、長渕ファンに袋叩きに遭いそうなのでこれくらいでやめておきます。
とにかく、会場はもうそれだけで興奮の渦に巻き込まれ、さかんに「ツヨシー!」のコールがかかります。でももうさすがに「フォー!」と叫ぶやつはいません。
しばらく前奏が続いたのち、突然緞帳代わりの布が一斉に落ち、長渕剛とそのバックバンドの全容があきらかになりました。まさに「幕が切って落とされる」とはこのことです。
ナガブチの登場で会場の興奮は更に高まり、早くも全員総立ち状態で、曲に合わせてしきりにこぶしを突き出したりなんかしています。開演前はおとなしくうつむいていた右隣の青年も、「ツヨシー!」と叫びながらこぶしを突き出しています。左ナナメ前のサラリーマン風の青年は、スーツの上着を脱ぎ捨てました。さらに前方のカップルの男性に至ってはワイシャツも脱ぎ捨て上半身ハダカで小旗を打ち振っています。でも残念ながら女性の方は脱がないようです。
もはや座っていたらステージが見えない状態ですので、しかたなく私も立ち上がりました。
立ち上がってあらためて会場を見渡すと、ほぼ満員の会場いっぱいに手が揺れています。その光景は日本海の荒海のようであり、またムーミン谷のニョロニョロのようでもありました。
何曲かを続けて演奏し、ようやくトークに入るかに見えたので、私は席に座ろうとしたのですが、周りは誰も座ろうとしません。
ま、まさかこいつら・・・最後までずーと立っているつもりじゃ・・・
その危惧はほぼその通りになりました。
その後も観客はツヨシの歌に、叫びに、手の動きに、とにかくありとあらゆるパフォーマンスに敏感に反応し、そこにいるひと時を楽しんでいるのでした。
その一方、イマイチその興奮に乗り切れない私は、なんだか麻酔が効かないままに手術が進行されていくような恐怖心を抱きながら、疲れた足腰を踏ん張り、そしてたまに座ったりなんかしながら、熱い熱い3時間を過ごしたのであります。
とにかく全編大興奮状態のステージでありましたが、それだけに留まらず、後半のスローな曲や、アンコールで行ったギター一本とハーモニカだけの演奏に、これだけの人間の支持を集めるアーチストの、真骨頂を見たのであります。もっとも見たのはナナメウシロからではありましたが・・・
それでは今回はこの辺で失礼致します。
また次回まで、みなさんごきげんよう!