browser icon
You are using an insecure version of your web browser. Please update your browser!
Using an outdated browser makes your computer unsafe. For a safer, faster, more enjoyable user experience, please update your browser today or try a newer browser.

ここの人たちは誠に規則正しい人たちなのだ:ジャグダルプル

         
  • 公開日:2011年3月29日
  • 最終更新日:2022年6月3日

いよいよ今日は私がジャグダルプルにやって来た一番の目的である、先住民族の創り出す工芸品並びにその技を見に行く日です。

朝8時、ホテルのフロントに下りて行くと、すでにパテルはカウンターの中で仕事(らしきこと)をしており、私の顔を見るとあまり力の入らない愛想笑いを浮かべ「グッドモーニング」と言いました。

パテルの話では、まず初めに向かうのはここから北へ80kmほどの所にあるコンダガオンという町で、そこがベルメタル(ドクラ)制作の中心地ということなのです。

私はそれを静かに聞いたのち、「で、今日は誰がガイドしてくれるんだ?」とちょっと意地悪く聞いてみましたところ、パテルは「もし私でよければ・・・」などとしおらしく言うので、もうそれ以上は何も言わず素早く車に乗り込み出発したのであります。これは後からMくんに聞いたのですが、この日パテルはMくんに携帯電話を見せ、「今日は電源を切ってあるので大丈夫です」と言ったそうです。
なにもそこまでしなくてもよかろうものをとも思いますが、誘惑に弱い優柔不断な人間にはそれくらい必要なのかもしれません。

うむパテル、なかなかいい心がけであるぞ。

ジャグダルプルは小さな町なので、車で5分も走ると道は簡易舗装の田舎道になってしまいます。
道幅は車がすれ違えるほどはあるのですが、それでも大型のトラックとすれ違う時や、それを追い越す時などはかなりひやひやすることもあります。なにしろ80kmもの距離を1時間ちょっとで走ってしまうので、どれほどのスピードで走るかは計算などしなくてもなんとなくおわかり頂けるでしょう。

そんな田舎道は当然車だけでなく自転車や歩行者も通ります。いえ、むしろそういう人たちの方が数的には断然多いのです。
ほら、そこにもアルミ製の壺をたくさん積んだ自転車が走って行きます。私は初めそんな道路の端を行く人たちをなんとなく眺めていたのですが、なんだかどうもそれが異様な光景に感じたのです。なにがどう異様なのかはわからないのですが、とにかく胸のあたりがどうにもむずむずするような感じがするのです。

で、それはある脇道に差し掛かった時に判明しました。

その脇道はわれわれが進む道路の左側に、土手を下るようにして付けられた細い道でしたが、こちらに向かって来る自転車の人たちが、みんなしてその脇道に入ろうと道の右側(こちらから見てです)で車の切れるのを待っているのです。
つまり自転車はそれまで道の左側(今度は彼らからしてですね)を走行して来て、脇道に差し掛かった時に初めて道路を渡ってそこへ入って行く、という行動を取っているのです。
われわれの走っている道は幹線道路ではありますが、そんなにひっきりなしに車が走っているわけではないので、その合間にいくらでも道を渡る機会はあるわけで、私なら適当なところであらかじめ道を渡り、右側通行でその脇道目指して走って行くと思うのですが、ここの人たちはあくまでも直前まで左側通行を心がけ、ほんの少しの距離でさえ右側通行をしないようなのです。

そんなことに気が付いてよくよく見れば、確かにどの自転車もちゃんと左側を走っています。*これと次の写真は参考用でその時のものではありません。

それから自転車だけでなく歩行者もなるべく道の左側を歩いているようです。私はここの交通ルールなどまるで知りませんが(まあ車が左側通行なのは全インド共通ですが)、こうした行為を見ていれば自然と「ああ、このあたりでは車だけでなく自転車も人も、それからできればウシやヤギも左側を通行しなさいよ」という教えがあるのだろうと想像できるわけです。

とにかく私はこの事実に驚愕しました。なにしろこの国では車でさえも右側を強硬走行することがありますので、この徹底した規則正しい左側通行順守という行為が異様に思えてしまったということなのです。

そしてふと私は、中学時代の同級生の福沢君(仮名)を思い出してしまいました。
福沢君は学生帽を目深にかぶるほどの真面目人間で、自転車で交差点を右折するときには、学校の交通安全教室の時におまわりさんから教わった二段右折を、見事にそのままきっちり再現して曲がっていたもので、私はそんな福沢君の姿を小さな交差点で見かけるたびに、「どうせ車なんか来てないんだからさっさと渡っちゃえばいいのに」と、もどかしく思ったものでした。
まさかこんなインドの秘境とも言える場所で、福沢君の二段右折の技を思い出すとは思ってもいませんでした。

とまあそんな思い出もあいまって、私はこの地域の人たちのけなげなまでの真面目さに、急速に好感度を上げて行ったのでありました。

次のページへ行く

目次へ行く前のページへ行く

[dfads params=’groups=39&limit=1′]