30分足らずの昼食を終えると、船はふたたびクイロン目指して進み始めました。
ここでちょっと、この船についてのお話です。
この船には5、6名の乗員がいます。
操舵は通常一人で行いますが、狭い水路などでは操縦士の横にもう一人立ち、前方を睨みつけるようにして注意を払います。(逆に広い場所では見習い操縦士が舵を握っていました)操舵輪の前には細い紐が張られていて、これをひょいっと引くと、船の後ろの方に取り付けられている鐘がチン!と鳴るのですが、これが実に重要なのです。
実はこの船の操舵室には、エンジンの出力を切り替える装置、すなわちアクセルやギアがなく、エンジンの制御はすべて船の後方で機関士が行っているのです。
で、そのエンジン出力の変更、つまりは微速前進や全速前進、そして後退などは、ひょいっと紐を引いてチン!と鳴らすことで指示が出されるのです。
たとえば、チン!で減速させて、チンチン!でその指示を解除したりとかするのですが(正確な指示方法は知りませんが)、鳴らす回数と間合いでいろいろ決まりがあるようです。
その連係プレーは実にあざやかで、狭い水路を行くにあたっては、一度で曲がり切れずに、一旦停止してやや後退し、舵を切って再び前進して曲がる、なんてこともあるのですが、それも操縦士と機関士が息をぴったりと合わせて切り抜けて行くのです。
つまり操縦士と機関士は、この細い紐で固く結ばれているということなのであります。
次に船内設備についてですが、この船にはちゃんとトイレが付いています。
私はついに使う機会はありませんでしたが、これならトイレの心配をせずにビールが飲めるので、ぜひとも船内販売をして頂きたかったと、残念に思う次第であります。
また階上にはルーフデッキがあります。私もちょっとだけ覗いて見ましたが、天井がかがまないと歩けないくらい低い上に、屋根が半透明のプラスチック製なので、少なくともこの時季(4月)の南インドの炎天下では、暑くてどーしょもありゃしません。この人たち、よくこうしてのんびり座ってられるなあと感心してしまうほどでした。
なので私はずっと階下の席に座っていました。
その方が涼しいだけでなく水面に近いので、私には面白く思えたのです。
さて、そうこうしているうちに、前方になにやら枯れ木の林のようなものが見えて来ました。
おお、あれは・・・そうです、あれは巨大四手網、チャイニーズ・フィッシング・ネットです。
チャイニーズ・フィッシング・ネットはフォート・コーチンのものが有名ですが、ここのは数でフォート・コーチンをはるかに圧倒しています。
今は漁の季節ではないのか、ほとんどのチャイニーズ・フィッシング・ネットには網が張られていませんでしたが、両側に林立する巨大装置の間を船が進んで行く時には、鳥肌が立つくらい感動してしまいました。下から見上げるチャイニーズ・フィッシング・ネットはなかなかの迫力があり、まるで鋭い爪を光らせながら迫って来る怪物の手のようにも見え、もしかしたら船ごとつかまれて持ち上げられてしまうのでは、なんてことも考えてしまうのでした。
とまあ、そんなチャイニーズ・フィッシング・ネット回廊を通り抜け、船はクイロンに向けて、チン!
全速前進!なのであります。
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