この海に突き出た構造物は、チャイニーズ・フィッシング・ネットと呼ばれる、魚を獲るための巨大な装置です。ここフォート・コーチンにはこのチャイニーズ・フィッシング・ネットが林立する場所があり、その光景がひとつの観光の目玉になっているのです。観光客が来るというこはそれを目当ての物売りもたくさんいるということで、ここに行くとすぐに物売りが近づいて来て、「だんな、だんな、ほら、どうですこれ」とか言いながら手にした商品を目の前にちらつかせたりします。
しかしここの物売りは案外さっぱりしていて、私が歩道の端に腰掛けてこのチャイニーズ・フィッシング・ネットを眺め始めましたら、それまで私にくっついていた物売りのあんちゃんも私のすぐ横に腰掛け、商売そっちのけで「あそこに見えるのがヴァイピーン島だ」とか、「向こうに見えるのはCNGのタンクだ」とかいろいろ解説をしてくれるのです。そして欧米人観光客の団体などが向こうから近づいて来たりすると、すっくと立ち上がり商売に向かい、しばらくするとまた私の横に来て、一緒に海を見つめていたりするのです。チャイニーズ・フィッシング・ネットの漁というのは、網を海にざぶりと沈め、そして引き上げるというだけの実に簡単なものです。
しかし網があまりにも巨大で、しかもすべての作業が人力で行われるため、実際はかなりの重労働です。だいたい5、6人の男たちでひとつの網を操るのですが、引き上げる時には全員で力を合わせてロープを引き、沈める時にはできるだけ素早く網を沈めようと支柱に登って行ったりと、なかなか大変なのです。
私はそんな漁をしばらく眺めていたのですが、ふとどのくらいの間隔で網を沈め、そして引き上げるのかが気になり始め、網を動かすタイミングを時計で計ってみました。
すると海に網を沈めて10分間そのままにし、網を引き上げ魚を回収すると10分間休むということがわかりました。
私はそこで「この漁の極意は10分の法則にあり」と鋭く見抜いたつもりになったのですが、さらに観察を続けていると、1、2分で網を引き上げることもあったり、20分以上も休んでいたりとなんだかずいぶん気まぐれで、この漁は特に法則やシキタリなんてものはなく、感と気分でやっているのだろうという結論に至りました。
そんな風にこのチャイニーズ・フィッシング・ネット漁はのんびりとした雰囲気の中で行われているのですが、そんな漁を見ているうちに私もついのんびりしてしまい、結局1時間以上もそこに座り続けてしまったのでありました。
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