今回の南インドの旅はフォート・コーチンに二泊、アレッピーに一泊、コヴァラム・ビーチに三泊という予定です。
まあ一週間のバカンスというのは贅沢と言えば贅沢、優雅と言えば優雅なのですが、このくらいの日数の場合、現地に着いてから宿を探すというのが難しいわけです。宿は実際に自分の目で確かめてから決めるのが確実ではあるのですが、短期間でかつ行先が決まっているのなら、事前に決めておく方が時間を有効に使うためにもベストでしょう。
*これはあくまでも安めのホテル利用の場合です。快適さが約束されている高級ホテルの場合は事前予約でなんら問題ないと思います。
ということで、今回ホテルは事前にインターネットの予約サイトでおさえておいたのですが、アレッピーでの宿泊に関しては決められませんでした。
と言うのも、今回はぜひともハウスボートに泊まってみたいと思っていたからなのです。
ハウスボートというのは船のホテルです。
アレッピーは水郷の町で、その周辺は水路がそれこそ網の目のように複雑に入り組んでいるのですが、その水路に船を浮かべて泊まれるようにしたのがハウスボートなのです。
ハウスボートは昔この地方で活躍していた運搬船を模したデザインで、寝室やリビング、キッチンにトイレなどを備えています。
基本的に個人やグループで借り切るようになっていて、人数に応じて大小様々なタイプが用意されています。そんなハウスボートを運営している会社(業者)はたくさんあり、またハウスボートの宿泊を斡旋している業者もたくさんあります。
たくさんあるということは選び放題と言うこともできますが、玉石混交で思わぬハズレをつかむ可能性もないとは言えないわけです。
なのでことハウスボートに関しては現地で予約しようと思ったのです。
しかし宿泊当日に船を見て回るというのも非現実的であることから、宿泊しているフォート・コーチンのホテルで手配してもらうことにしました。ここなら今までにも宿泊客のためにハウスボートを斡旋した経験が多数あるでしょうし、個人で予約するより確実だと思ったのです。
宿泊しているフォート・キャッスルは実に家庭的な雰囲気のホテルで、実際に家族が中心になっているらしきスタッフはいろいろな相談に快く応じてくれます。相談した結果、7000ルピー(約14,000円)で一泊二食付、寝室ひとつ(エアコン付)の小さなハウスボートを借りることにしました。
またアレッピーまでのタクシーも1600ルピー(約3,200円)で予約しました。
アレッピーはフォート・コーチンから真南に60Kmほど下ったところにあり、バスでも2時間ほどで行ける(でも確か直通バスはなかったと思う)のですが、今回はバカンスなので奮発して時間と快適さを買ったのです。
出発当日ホテルに迎えに来た車は一見普通の乗用車みたいでした。
サンジュと名乗ったドライバーの男も普段着だったので、もしかしたら小遣い稼ぎの白タクかなと思いましたが、よく見たら黄色い営業ナンバーのちゃんとしたタクシーでした。前がよくみえるように助手席のヘッドレストを外してもい、9時半アレッピーに向けて出発です!宿が手配してくれたタクシーですから、あとは黙って座っていればハウスボート乗り場まで連れて行ってくれるのですが、実は私にはそれまでにやっておかなければならない重要なミッションがあるのです。
それは、酒を買うことです!
ハウスボートは夕食と朝食の二食付きですが、酒の用意はしてくれないらしいのです。
おそらく酒販免許の関係だと思いますが、とにかく酒は自分で買って持ち込むことになっているというのです。
そこでドライバーのサンジュに途中で酒屋に寄ってくれるよう頼んだのですが、サンジュの知ってる幹線道路沿いの酒屋には、男たちの長い列ができていました。
ハウスボートは普通のホテルと違いチェックインの時間が決まっているので、列に並んで酒を買うほどの時間の余裕がなく、ここでの入手はあきらめ車を先に進めることにしました。サンジュの話では、明日は日曜日でドライデーに指定されていて、バーも酒屋も休みとなるため、今日のうちに酒を買い込んでおこうという男たちが酒屋に押しかけているということでした。
なんとまあ、たかが酒くらいでなんてあさましい・・・
サンジュはさらに、ケララ州では飲酒によるトラブル(主に家庭内暴力だとか)が絶えないため、その対策として州政府が禁酒政策を推し進めていて、今後ドライデーも徐々に増やしていく方針なのだと教えてくれました。
なんと・・・禁酒政策をどんどん推し進めるとな・・・くっそお・・・
そもそも悪いのは酔っぱらって暴れるやつではないか。
それを善良なる気の良い酒飲みにまで酒を売らんとはけしからん。
人を憎んで酒を憎まず!
だろ!
結局他に酒屋も見つけられないまま、指定の場所に到着してしまいました。
そこはなぜかお土産屋でした。
店先に変な帽子が吊るされていますが、なんでまたこんな店に連れて来られてしまったのでしょう。酒が手に入らぬ不満とお土産屋に連れてこられた不安が入り混じった何とも言えない落ち着かない気分で待つこと10分、ようやく一人の男がオートリキシャに乗ってやって来ました。
男は今回のハウスボート滞在をアレンジした業者であるらしく、ハウスボート乗り場まではそのオートリキシャで行くとのことでした。
しかしそう言われても私はおめおめとオートリキシャに乗るわけにはいかないのです。なにしろまだ酒を手に入れてないのですから。
そこで業者の男に、まずは酒を買いたいんだ、なんとしても買いたいんだ、買わなきゃいけないんだ、と力説したところ、オートリキシャが酒屋に連れていってくれることになりました。インドの酒屋というのはたいていわかりづらい場所にあります。
とにかく飲酒が「悪」であるとの考えが根強く残るインドでは、酒屋はあまり堂々と営業してはいけない日陰者の存在なのです。
実際四年前にここに滞在した時も酒屋がみつかりませんでした。
なので酒屋がどのあたりにあるのかということも興味の対象であったのですが、オートリキシャは運河のあるアレッピーの中心地にやって来ました。
四年前にクイロン行の定期航路に乗った桟橋も見えて来ました。そんな運河沿いのとある場所でオートリキシャは停まり、ドライバーは路地の奥を指差し「あそこだ」と言いました。どうです、わかりづらいでしょう。なんたってただの路地なのです。
先ほど見た酒屋の行列ほどではありませんが、ここにも酒を求める男たちが続々と入って行きます。
サンジュの話を聞いたばかりなので、男たちがみな暴れん坊のように見えて恐ろしいです・・・
でもやつらは主に家庭内で暴れるようなので、家族でない私は大丈夫でしょう。
とにかく虎穴に入らずんば虎児を得ず、路地に入らずんば酒を得ずなのです。
路地の奥には酒を買うための窓口があるのですが、その手前から壁で通路を狭くしてあります。おそらくこれは割り込みを防ぐためなのでしょう。なにしろここに来ているのは酒飲みの暴れん坊ばかりなのです。こうでもしないと収拾がつかなくなるのでしょう。
まずは手前の窓口で欲しい酒を選んでお金を払います。そして奥に進んだ第二の窓口でブツを受け取り、背後の壁を回り込んで退場するという、完全一方通行のベルトコンベアー式販売システムなのです。私はビール5本と小瓶のワインを二本買い1,310ルピー(約2600円)払いました。
それにしても60Km走ったタクシーが1,600ルピーで、一晩の酒代が1,300ルピーってどうなんでしょう。ちなみにビールはおなじみのキングフィッシャーがなく、カールスバーグになってしまいました。でもまあ、なんとか今夜の飲み分は確保できました。
さあ、いよいよこれからハウスボートへと向かいます。
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