先日のインド滞在中からよく聞かれていた質問のひとつに、
「おまえはインドでいったい何を食べているのだ?
まさか目玉焼きばかり食べてるわけではなかろうな、えっ!」
というものがありました。
たしかに前回の滞在で一番食べた回数の多かったものは、目玉焼きかもしれません。
私が滞在していた中級ホテルの極めて選択肢の少ない朝食メニューの中では、どうしてもトースト、コーヒー、目玉焼きのゴールデントリオにお呼びがかかってしまうのは致し方がないのです。
そして私はインドに行くと昼食を食べません。
理由は時間がもったいないのと、昼食後のトイレの心配があるからです。
それからあの暑い中で動き回ったあとレストランなどに入ると、絶対にビールが飲みたくなってしまいます。
ビールなど飲んでしまうと午後の仕事に支障をきたしてしまいますので、私は心を鬼にして昼食を抜くことにしています。
どうせ心を鬼にするなら「ビールを飲みたい」という気持ちに対してにすればよさそうなものですが、あの悪魔の水ときたらそれはそれは誘惑的で、気がつけば鬼の目にも涙を浮かべてウゴウゴ飲んでしまっているのですね、不思議なことに。
まあそんなわけですから、「何を食べているのか?」の問いに対する回答は、自然、夕飯のメニューに全権がゆだねられるわけであります、はい。
まず私がインドで好んで食べる食材から申し上げましょう。
それはチキンです。
インドのチキンはすごくおいしいです。
肉が適度に締まっていて、それでいてボソボソしておらず、奥歯で噛むと「ギュッ、ギュッ」と新雪を踏むような音がするほどです。
また、ものすごくトリ臭い匂いがします。
「トリ肉だからトリ臭いのは当たり前だろう」と言われそうですが、日本で食べるトリ肉(チキン)はほとんど匂いがしません。少なくとも私はそう思います。
なぜ日本のチキンはあんなに匂いが少ないのでしょう。
日本のニワトリは体臭に気を使っているのでしょうか?
匂いのきつい食事を取らないようにしているのでしょうか?
朝シャン(死語)でもしているのでしょうか?
そこいくとインドのチキンはすっごくトリ臭いです。
そうですねー、生きてるニワトリを捕まえて、腹のあたりに鼻をくっつけ、匂いをクンクン嗅いだような、そんな匂いがします。
生まれてこのかたスープ鍋に入るまで、一度も風呂になんか入ったことがねーぜ、オレ!っていうくらい臭いです。
あっ、さっきから臭い臭いって言ってますが、これはほめて言ってるんです。
とにかくトリ肉を食べてるっていう実感が得られるのです。
さて、匂いの話はこれくらいにしまして、じゃあどんなチキン料理を食べているのか?ということをお話し致しましょう。
インドでチキンと言えば、一番最初に思いつくのが「タンドーリ・チキン」ではないでしょうか。
これはチキンをヨーグルトに漬けたり各種スパイスを揉み込んだりした後、土で作った窯(タンドール)で焼いたものです。
私もお金に余裕のあるときなどは食べます。
ニューデリーのちょっとしたレストランでタンドーリ・チキンを注文するとおそらく400ルピー(千円ちょっと)くらいだったと思います。(ニワトリ1羽分の「フル」の値段です)
やはりうまいです! 肉がとってもトリ臭くて!
あとはチキンを使ったいわゆる「カレー」ですね。
実際に「チキン・カレー」というネーミングで出しているお店もありますし、「チキン・マサラ」「チキン・コルマ」といった名前で細分化しているお店もあります。(「チキン」を「ムルギ」と表記していることもあります)
これらのカレーに合うのは何といってもナンです、ナン。
ナンは日本でもだいぶポピュラーになっているのでご説明は必要ないかもしれませんが、あえて言うなら自転車のサドルの形をした平べったいパンです。
ちなみに自転車のサドルの形をしていても、特にサドル氏の発明によるものではないようです。
ナンもプレーン・ナンやバター・ナン、ガーリック・ナンなどがあります。
ガーリック・ナンは刻んだニンニクがナンの上に乗っかっています。
おいしいのですが、食べるときにニンニクがぽろぽろと落ちてしまい、もっとニンニクとナンの結合度の強化が望まれます。
インド人もナンをちぎるときには左手も使ったりしているようですが、とにかく食べやすい大きさにちぎったナンをカレーと一緒に食べると、ものすごくおいしいです! トリ臭くて。
ナンもいいのですが、日本人は米を食わねば、という方(実は私です)にはスチームド・ライスもカレーによく合い、お奨めです。
お米はタテ長でぱさぱさのインディカ米ですが、こいつをカレーと一緒に食べると、おそろしくうまいです! トリ臭いですし。
それから簡単に一品だけで済ませたい時には、お米料理の「プラーオ」や「ビリヤーニ」を食べます。
プラーオはピラフと思って頂ければいいかと思います。
私が注文するのは当然チキン・プラーオです。
お米がそもそもぱさぱさですので、そいつをチキンとキャベツなどの野菜を入れてチャッチャッ!っと炒めたプラーオは、すばらしくうまいです!
そしてもちろんトリ臭いです。
ビリヤーニは炊き込みご飯といった感じのものなのですが、皿に盛られた山盛り飯の中に大きなチキンが隠れています。(もちろんマトンなどを使ったものもあります)
安食堂などではたまにニワトリの首の部分がメシ山からにゅーっと現れて、度肝を抜かれることもあります。(さすがに頭はついていません)
ビリヤーニもかなりうまいですが、テイクアウトのビリヤーニを食べ残して部屋のすみに放置していたら、翌日すっごく臭くなってしまいました。
トリの臭さとは別もんの匂いでした。
ただし上記の2品はどこまで厳密に別料理扱いされているかわかりません。
以前安食堂でチキン・プラーオとチキン・ビリヤーニを同時に注文したら、まったく同じものが運ばれてきたことがあります。
またお米を麺に置き換えて、「チョーメン」というものを食べることもあります。
チョーメンはインド料理ではなくチャイニーズ・メニューではありますが、たいていの安食堂で食べられます。
麺を野菜やチキンと一緒に炒めるチョーメンは、日本のヤキソバのようであり、これさえ食べていれば日本食なんか食べたくなったりしません。
少し伸び気味の腰のない麺が、屋台の鉄板の隅でいつまでも待機している、あの売れ残りヤキソバのようで、日本の夏といった風情でおいしいです。
もちろん私のオーダーはチキン・チョーメンで、その音の響きは「キチョーメン」にも聞こえ、また「キンチョール」にも聞こえ、ますます日本の夏といった風情ぶりまきの一品なのです。
それからさらにチキンのトリ臭さを堪能したいときにお奨めなのが、スープです。(あっ、別にトリ臭さを追求してるわけではないか・・・)
とにかくクリーム・チキン・スープでもいいですし、クリア・チキン・スープでもいいです。スープを飲んでみましょう。
この熱いスープをスプーンで口に運ぶと、そのトリ臭さが鼻腔を刺激し、それはもう至福の時を味わえます。
それはまるでトリの世界に迷い込んだかのようです。
スープを飲む鼻先を無数のニワトリが駆け抜けていくような、そんな「風」すら感じるほどです。
文章では表せないくらいうまいです! そしてチョー、トリくせーです。
さて、こうして臭い臭いといいながらチキン料理をご紹介して参りましたが、私が本当に一番好きな料理は「ガーリック・チキン」です。
もしかしたらこいつもチャイニーズ・メニューなのかもしれませんが、刻みニンニクと一口サイズのチキンを、秘伝(?)のタレと一緒に炒めたんだか煮たんだかしたものが、それはもううまいうまいうまいのです!
こいつがあればご飯なんか何杯でも食べられちゃいます。
ただ私はこれを食べるとよく下痢をしてしまいます。
ニンニクでやられてしまうようです。
前回のお話でアンサール・プラザでトイレに行ったと書きましたが、あれは2日連続でこのガーリック・チキンを食べたからなのです。
ちゃんと2リットルのビールで消毒しながら食べたのですが、ニンニクの刺激が勝っていたようです。
あれ? なぜトイレの話になっちゃっうんだろうなぁ~、すみません。
と言った感じで、インドではぜひチキンを食べてみて下さい。
ほかにもたくさんの料理がインドにはありますので、みなさんもご自分のお気に入りインド料理を発見してみて下さい。
***** これがインドのチキンだ *****
そしてここには悲喜こもごもの人生がある。
言葉にしてしまえば、ただ単に受動態と能動態の違いだけなのであるが、 本人たちにとっては生死にかかわる問題と言っても過言ではない。 そりゃそうだ。
「そうねえ、じゃあ頂いて行こうかしら。さばいてくださる?」
かくしてニワトリはチキンと名前を改め、ついでにその形も改めたのでございます。
手前の左が「タンドーリ・チキン」、右が「チキン・マサラ」
中央奥が「マトン・シーク・ケバブ」、右奥が「ビリヤーニ」
(まあまあ高級の部類に入るレストランです)
でもチキンはなにも高級レストランでなくても食べられます。
予算に応じていろいろ食べ分けてみましょう。
それでは「高級」と「低級」がどのように違うかを見てみましょう。
【高級代表】
コンノートプレイスの某レストラン
(予算:約1000ルピー)
○チキンマサラの色が上品
○ビリヤーニの色が上品
○ナンが籠に入れられている
○冷たいビールがある
○料理は厨房で作られる
○いつも変わらぬおいしさ
○調味料入れがステンレス製
○グリーンのテーブルクロスがきれい
○エアコンが効いていて快適
○サービス料としてのチップが必要
【低級代表】
メインバザールの某安宿のルームサービス
(予算:約200ルピー)
●チキンマサラが3日前のカレー色
●ビリヤーニの色がソース色
●ナンが紙の上に置かれている
そしてよく焦げている
●なまぬるいミネラルウォーターがある
●料理は屋上で作られる
●毎回変化する味付け
●調味料入れがプラスチック製、
しかも半分の穴が詰まっている
●テーブルクロスなどない、
それどころかベッドシーツも替えてくれない
●エアコンはあるが停電で動かない
●気をつけないと勘定をごまかされる
さあ、みんなもチキンを食べにインドへ行こう!