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アーマダバードで写真を配る・その3:2013年グジャラートの旅:エピソード編・第7回

         
  • 公開日:2014年1月17日
  • 最終更新日:2022年6月15日

たった6軒分の写真なのに、一日で配ることができなかった。
それもこれも細い路地が入り組んだ旧市街のせいである。決して私の記憶力が悪いわけではない。

とは言え、昨日あれだけうろついて見つからなかったのだから、ひょっとして思い違いがあるのかもしれない。狭い路地だと思っていても、案外表通りに面した店だったという可能性もある。

そんなことをマトンバーガーをコーラで流し込みながら考えていると、ふと気が付いた。
あっ、もしかしたらこの後ろの店かも・・・
インド、アーマダバードの人々実は配る写真の一枚は、コーラを飲んだ店での写真なのである。三年前この辺を歩き回り、喉が渇いて立ち寄ったお店に小さな男の子がいて、その子とその家族を撮ったのである。
そう思ってあらためてその店を見てみたが、店にいるあんちゃんに見覚えがない。
それでも念のため近寄って行って店のあんちゃんに写真を見せ、この人たちを知らないかと聞いてみた。
すると店のあんちゃんは写真をまじまじと見て、「あー、この人たちなら故郷に帰ったよ」と言い、「でもこの写真に写っているのはこの店に間違いない。ほらこの壁の時計も、この絵も同じだろ」と、写真に写っている店内の調度品を指差すのだった。

どうやら店の経営が替わったらしい。
経営権のみならず、調度品までそっくり引き継いでいるということは、前の人もこのあんちゃんも雇われ店長なのかもしれない。
まあ店の運営方法など私にはどうでもいいことなのだが、とにかく写真を渡すべき人はもうここにはいないのである。でも背後に写っている店はそのままなので、なんだかすっきりしないが写真は新しい店長にあげることにした。少なくともこのまま私が持っているよりいいであろう。

次は彫金師のおっさんである。
インド、アーマダバードの人々それは狭い路地にある間口一間ほどの小さな作業場で、座り机に向かってコツコツと彫金に励むおっさんを写したものである。
すでに昨日それらしき路地は歩き尽くしたつもりだったが、見つからなかったので独力での発見を諦め、周辺での聞き込み調査をすることにした。

狙いは宝飾品屋である。
旧市街には貴金属を商う店が並ぶ一角があり、おそらくあの彫金師もその辺りの店と取引があるだろうと踏んだのである。

はたして一軒目の店で早くも判明した。こんなことなら初めから素直に人に聞けばよかった。宝飾品屋のおっさんに彫金師の名前を書いてもらい、作業場への行き方を教えてもらった。
あとはその通りに行けばいいだけなのだが、これが案外苦労した。なにしろ宝飾品屋のおっさんの道案内は、ただ「この店の裏手だ」と言うだけで、かといってその店のすぐ横に通路があるわけではなく、ちょっと離れた角まで行ってからぐるっと回り込んでみたものの、なかなかそれらしき場所に出なかった。
そしてようやく辿り着いた作業場には、写真の人とはちょっと感じの違う人が座っていて、もしかしたらここも経営が替わってしまったのかと思ったら、ただ単におっさんが眼鏡をかけるようになっただけであった。三年の歳月とはそういうものなのだなあ。

さあ、いよいよ最後の一枚である。
インド、アーマダバードの人々そいつはネジや金属部品を商う小さな店を撮ったもので、そこの取扱商品を配した看板が実にセンスが良かったので、店のおやじとともに写真に収めたのである。
なので目印はその看板ということになり、特徴のある看板だからすぐに見つかるだろうと高をくくっていたのだが、これがどうしたわけかさっぱり見つからない。

最後の一枚ということもあって、なんとか自力で探し出して見たいという気持ちから、細い路地の奥の方まで入って行ったのだが、そこで男に呼び止められた。
「お前は昨日からこの辺をうろうろしているが、いったい何をしているのだ」
どうやら商店街から外れた場所で、外国人である私が二日にわたってうろついているのを怪しんだようである。
そこで私は疑いを晴らすのと、ついでだからこの男に尋ねてしまえということで、金物屋の写真を見せた。
すると男はすぐに思い当たったようで、「この店ならティーン・ダルワーザーのそばだ」と言うのであった。

ティーン・ダルワーザーというのは三つのアーチを持つ石造りの門で、旧市街のランドマーク的建造物である。そしてその門に通じる道は旧市街のメインストリートであり、つまりその界隈はバザール内でも一等地なのである。
私もこの二日間だけでもそこを何度も行き来している。
それなのにあの看板の店を見つけられないなんて、そんなことがあるだろうか。

ところがそんなことがあったのである。
確かにその店はティーン・ダルワーザーのすぐ近くにあった。しかし喜び勇んで覗いた店の中には誰もいない。
すると店の前で露店を出していたあんちゃんが近づいて来て、何か用かと聞く。
私は写真を見せ、三年前に撮った写真を渡しに来たことを告げると、あんちゃんは「ここのおやじは今モスクに礼拝に行っているので、代わりにおれが預かっておく」と言う。
そうか、いないのか。じゃあ仕方がないと、露店のあんちゃんに写真を託し、これにてアーマダバードでの写真配りはすべて完了と相成ったのである。

ちなみにその翌日、この私があの写真をあげたのだぞということを、いやらしくもわざわざ言いに金物屋を再訪したのだが、またまたお祈りの時間と重なっていたらしく、おやじの喜ぶ顔は見られず、ネジもタダでもらえなかったのであった。

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