2泊3日と短い滞在でしたが、ウダイプールとももうお別れです。
これから私はバスに乗って一路マウント・アブーへと向かいます。
みなさんお達者で!
マウント・アブーというのは、ラジャスタン州の南の端っこにある山で、ジャイナ教を始めとする寺院などもあり巡礼者も多い所なのですが、夏ともなると涼を求める人でにぎわう避暑地でもあります。
しかし今はまだ3月の下旬、インドではそろそろ暑くなり始める頃ではありますが、さすがにまだ避暑には早い時期ということで、おそらく観光客は少なく、ホテルなんかもガラガラで安く泊まれるはずなのです。
しかもここウダイプールからは160kmしか離れていないので、バスでもほんの4~5時間で行かれるのです。これは行くしかないでしょう。
私が滞在していた宿の主人も、私が宿帳に記載した「次の行き先:マウント・アブー」というのをちゃんとチェックしていて、抜け目なくバスチケットの斡旋を申し出て来ました。
私が値段を聞くと、主人はその場でどこかに電話を掛け、なにやら(まあバスチケットのことでしょうが)話をし、電話を切ると「195ルピー(約390円)」と答えました。
その値段を聞いて私が少し考えていると、さらに主人は「外の旅行社で買うと250ルピーはするぞ」などと言うのです。
その言葉に「ここで頼んじゃおうかな」などと一瞬心が動いたのですが、いや待て待て、これで一応チケットの相場がわかったのだから、これを参考にして外の旅行社を回ってみようと思い直し、結果的にはたまたま飛び込んだ旅行社で160ルピー(約320円)のチケットを手に入れたのでありました。(でも帰国後ガイドブックを見ていたら、バスは100ルピーなんて表記がありました。まじっすか?)
とまあ、とにかくウダイプールからマウント・アブー行きのバスに乗った私なのですが、このバスの移動が実に楽しかったのです。
なにしろバスの乗客のほとんど全員が「これから私たちマウント・アブーに旅行ですのよ、おほほほほ!」という感じの行楽客ばかりでしたので、車内は初めから気分が浮き立っているような雰囲気がありまして、それがこちらにも伝播して来て私もなんだかウキウキ気分だったのです。
さらにバスが走り出しますと、若い女性のグループ客が歌など歌い出したわけですよ。
でもってその歌というのが、時折歌詞があいまいになってしまったり、最後が尻つぼみに終わってしまったりするのです。
でもそれが逆にこの歌が本当に自然発生的なものであるということ、つまり彼女らは旅に出た楽しさからつい歌が口をついて出てしまったのだということがよくわかり、それが実に新鮮に感じられ微笑ましく思えたのです。
こうした光景は私が子どもの頃の日本でもよく見かけられたものですが、この時私がその歌声を心地よく感じたのは、ただ単に自分の子ども時代と重ね合わせた懐かしさからだけではなく、彼女らが歌っていた歌が映画から生まれたヒットソングであり、誰でも知っている歌だったからなのです。
まあそれは自分も知っている歌だったということでもあるわけですが、それよりもインドの人たちが世代を超えて共有している歌であって、おそらく車内の人たちもみな、彼女らの歌声に耳を傾け、また自分でも口ずさみ、このバス旅行がより一層楽いものになったに違いないのです。たぶんそうなのです。まあせめてそうであったらいいなと思う次第なのであります。
つづく