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2006年8月19日:リシュケシで身も心も清らかに・その7

         
  • 公開日:2006年8月19日
  • 最終更新日:2022年8月5日

浅黒い肌にたくましい筋肉を蓄えたその青年は、私たちに歩み寄るとこう言いました。

「どちらが『Abhyanga』を受ける人ですか?」

どうやらこの青年は私たちに危害を加える敵ではなく、私の予約したコースを担当する人のようです。そりゃそうです。

「はい、それは私です」

インド・アーナンダ・イン・ザ・ヒマラヤホテルと答えつつも、もしかしたら若い女性が担当するかもしんないなあ、などと淡い期待を抱いていた私は、少々気落ちしながらその青年の後についてスパ施設を出ました。あっ、もちろん紙のパンツの上にはバスローブをはおり、前もしっかり合わせ、紐もがっちり結んでです。
なにしろここからアーユルヴェーダを受ける部屋までは、普通の廊下を歩いて行くのです。あんなデカパンいっちょで公共のスペースを歩き出したら、いくらインドとは言えまずいでしょう。
まあたまに日本の温泉施設などでも、脱衣所から風呂場へ向かうはずが、服を脱いでるうちに方向感覚がなくなり、うっかり裸でロビーに出てしまい、おっとっと・・・などというお茶目なおやじなどもいたりします。また露天風呂に行こうとして、なにをどう間違ったか、雪の舞い散る駐車場などに出てしまうこともあり、こうした施設での立ち居振る舞いは充分注意しなければならないのです。

さて、先を行く青年は私がちゃんと付いて来ているかを気遣い、時折振り返っては私と目を合わせ優しくうなづくのですが、なんだかその優しさが返って気味悪く、あたしこれからどうなっちゃうのかしら?という不安をあおったりします。それでなくてもこの手のマッサージは初めてなので、私としては少々不安なわけですよ。
じゃあ、なにがどう不安なのだ?と聞かれても、自分でもよくわからないので困るのですが、人間未知なるものに恐怖心を抱くのは当たり前のことなので仕方ないのです。

そんな風に青年は時折振り返り、その都度二人は見つめ合い、何かを確認するようにうなづき合うとアーユルヴェーダの小部屋目指してさらに進みます。

と、ひとつのドアの前で青年の歩みが止まり、「ここです」と言いました。

インド・アーナンダ・イン・ザ・ヒマラヤホテル

どことなくおごそかな雰囲気漂う部屋にその台はあった。

恐る恐る部屋の中を覗くと、部屋の中央にはテレビや雑誌などで見たことのある、アーユルヴェーダ用の台が置いてあります。

そしてその台の横には、新たなる青年がこっちを見てニコニコ笑っているではありませんか。

だ、誰なんだ? あいつ。

といぶかる私に、案内をしてくれた青年は、

「『Abhyanga』は彼と私の二人で行います」

と言うではありませんか。

えっ、ふ、ふたりがかりで・・・しかも男二人でか・・・はああ・・・

私の不安は先ほどより少し膨らみましたが、ここまで来て引き返すわけにはいきません。そして引き返したところでお金は返って来ないでしょう。

ええい! どうにでもしてくれい!

部屋に入るとまず、「パンツを脱いで下さい」といきなりきつい要求を突きつけられました。

ああ、こんなかっこわるいデカパンでも、あるとないのでは大分違うよな。

そんなことを思いながら、パンツをがさがさと脱ぎ始めますと、すかさず片方の男が、私の股間の前に細長い布を垂らしました。
その布は幅が15cm、長さが1mくらいの白い木綿のようなもので、片端には紐がついています。どうやら日本のフンドシのようなもののようです。
ただ、日本のフンドシのように前で留めるのではなく、逆に前から垂らした布を後ろですくい上げ、腰の後ろで紐を結んで留めるという方式でした。

やがて二人の男の手によって、ここにひとりのたくましきフンドシ男が誕生したのですが、それはかつてザ・ベストテンという歌番組で話題となった、山本譲二のフンドシ姿のように凛々しくかっこいいものだったかどうかは、鏡を見てないのでなんとも言えないのでした。

さあ、これからが「Abhyanga」の始まりです。

まず台の横の椅子に私を座らせると、二人の男たちは胸の前で手を合わせ、低い声で呪文のようなものを唱え始めました。
私も下を向き目をつぶり、その呪文の響きに心を委ね、無我の境地に入らんと試みるのですが、どうもこれから先のことに思いが行ってしまい、まったく集中できません。
実はここにきて、先ほどからの私の不安の内容が少し明らかになって来たのですが、それはマッサージを受ける際に、こそばゆくて思わず笑ってしまったりしないだろうか?ということと、腰のあたりを押された時に、屁などが出てしまわないだろうか?ということ、さらには便意を催してしまった場合、全身油まみれの状態でも使えるトイレが近くにあるのだろうか?
もしあったとしても、油まみれの体でそこまでうまくたどり着けるだろうか?
スピードスケートの選手のように、前かがみで両手を左右に振って進み、運よくトイレにたどり着いたとしても、はたしてトイレのドアノブが握れるだろうか?
あのらっきょのような形のノブは、握ろうとするたびにすべって逃げてしまい、それどころかこちらの体の方が後ろに戻されてしまい、またスピードスケートでドアまで戻り、ノブを握っては後ろに戻され、またスピードスケートで・・・

とまあ、そんなことを考えていたら呪文が終わりました。

ここから本格的にマッサージに入るようです。
インド・アーナンダ・イン・ザ・ヒマラヤホテルまず、椅子に座った状態で頭に温かいオイルを垂らし、頭皮マッサージが開始されました。
それはなかなか気持ちが良く、毛がどんどん生えて来そうな気さえします。

頭皮マッサージで毛根の活性化が済むと、いよいよ台の上に登り、うつぶせに寝かされました。
うつぶせ寝の態勢は、足を少し開き、腕は台の両端から前方に延びる丸太につかまるようにして前方に出します。

腰に温かいオイルが垂らされ、台の両脇に立つ二人の男が、呼吸を合わせて同じペースでマッサージをして行きます。
マッサージは腰から背中、背中から肩といった具合に徐々に上がって行き、そして腕に移り、最後は指先に達しました。
それはまるで、全身の「悪いもの」を指先から外に押し出すような感じでした。そういえば、爪の間から何かが出て行くような気が致しました。腰を押された時に出なかった屁でしょうか?

そんな風に上半身が終わると、次は下半身です。

今度は腰から下に徐々に下がって行くわけですが、上半身のマッサージですっかり気持ちよくなり、少しまどろみ始めていた私に、男の一人がこう聞きました。

「Can I open ?」

えっ? オープン?

何をオープンすんの?

まさか・・・

フンドシ?

ねえ、そうなの?

確かに今度の下半身マッサージのコースである腰の下あたりには、フンドシの細い紐が横たわっており、肌をこするようにして進むマッサージにはいささかジャマでありましょう。
しかしあーた、だからと言って、最後のトリデであるこのフンドシを外されては、身も蓋もないではないですかあ。

しかし、あくまでもこれはアーユルヴェーダの一環なのです。
別に他意があるわけでもないでしょうし、あったら困ります。

まあ、いくらあちこち探し回っても、断る理由は見つからないので、

「イエス・・・」

と小さく答えました。

さっそく男たちの手によって紐が解かれ、最後のトリデであった大切な布切れがはらりと外されてしまいました。

オープン! フルオープンです!

その時、観念して目をつぶる私の耳に「くすり」という笑い声が聞こえたのは、はたしてただの空耳だったのでしょうか。それとも彼らの優越感によるものだったのでしょうか。 なろー・・・

インド・アーナンダ・イン・ザ・ヒマラヤホテル

これがアーナンダ公式画像の「Abhyanga」。
私の場合との違いは、下半身をしっかり隠していることくらいか。

そんな恥辱を受けつつも、マッサージ自体は大変気持ちの良いもので、正味40分にも及ぶマッサージが終わった時には、すっかり疲れも取れ、お肌もすべすべさらさらになったような気がしました。うふ!

最後にウコン色の泥のようなものを全身に塗りたくりシャワーを浴び、オイルを落として「Abhyanga」全コースは終了となりました。

まあ終わってから思えば、男性のマッサージは力強くてよかったなあ。

と、最終的には大きな満足感に浸りつつ部屋でくつろいでいると、別のコースを受けたC君も部屋に戻って来ました。

そしてC君は部屋へ入るなり、ニコニコしながらこう言いました。

「いやあ、やってくれたのが若い女性だったので、ドキドキしちゃいましたよお!」

えっ?

・・・・・

で、では、気を取り直して、また次回!

つづく

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