さて、前回はインドにおける主な宗教の人口比率を示し、その中で人口比率2%のシーク教徒がインドで目立ってんぞ!と言う話を致しました。
今回はその具体例をお話ししたいと思います。
他の宗教に比べてタブーの少ないシーク教徒の人たちには、タクシーやオートリキシャの運転手も多く、街を歩いていてもよく声をかけて来ます。
インドでタクシーに乗る時には運賃の交渉をしてから乗るのが鉄則なのですが、運賃交渉をしようとしてもシークの運転手は料金メーターを指差しながら「いいから乗れ!」と睨みます。
外国人旅行者にメーターを使ってくれるタクシーはほとんどないので、これはラッキーと乗り込んだら大間違いです。
彼らは走り出してから料金交渉を始めるのです。こちらはすでに囚われの身ですから非常に不利です。
それではシークの人とはそんないやな付き合いだけかと言えば、そんなことはありません。
これは寝台列車に乗った時のことです。
私の向かい側にシークのおじさんが乗っていました。そのおじさんはいかにも「わしゃシークだぞ。文句あっか?」と言うような態度でデーンと座っており、私の隣のビジネスマン風の若いインド人が席を外したスキに、その人の雑誌を読み始めました。
その雑誌はつい先ほどビジネスマンの若者(以下ビジ者)が読み始めたばかりのものなのですが、おじさんはビジ者が戻って来てもそのまま読み続け、なんのことわりの言葉もお礼の言葉もありません。
不思議なのはそのビジ者は、列車の中の唯一の娯楽をこのシークのおじさんに奪われてしまったというのに、おとなしくただ虚空を見つめてボーっとしているだけなのです。文句のひとつも言わないのです。
さて夜になり乗客たちがベッドをこしらえ始めた頃に、列車はとある駅に停まりました。
するとその駅から大音量でラジオを鳴らしながらひとりのインド人が乗って来て、われわれと通路を挟んですぐの席に座りました。
すでに時刻は就寝時刻に近く、私も就寝準備完了であとはイビキをかくだけの状態でしたので、その大音量には閉口しました。
しかしそのラジオおやじは周りの迷惑など気にする風でもなく、むしろ周りの人々に「おれの自慢のラジオをタダで聞かせてやってんだぞ!文句あっか!」と言わんがばかりのでかい態度なのです。
そんな横暴な振る舞いの男の前に立ちふさがったのは、「文句あっか!」では決して他人に負けたことのない、でかい態度暦60年のわれらがシークのおじさんでした。
おじさんはラジオおやじに対して特に怒鳴るでもなく、何かひとこと言っただけだったのですが、その圧倒的な威圧感におやじ自慢のラジオも沈黙せざるを得ませんでした。
車内に再び平和と秩序が戻り、私も自分のベッドの上で今夜の安眠を確信しほっと胸をなでおろしたのでした。
敵にすると怖いシークのおじさんですが、こんなときには本当に頼りになります。毒を持って毒を制したと言ったところでしょうか。
おじさんも私の向かい側上段のベッドによじのぼったのですが、まだ寝るでなく、ベッドの上にあぐらをかいて食事を始めました。
寝る前なのに実によく食べます。おそらくあの食欲が例の威圧感を生み出すのでしょう。
私は次第に眠りに落ちて行きました。少しおじさんの食事をする「ぺちゃぺちゃ」という音が耳につきましたが文句はありません。あのラジオの大音量に比べれば・・・・
やがて食事を終えたおじさんは長いゲップをし、次いで大きな屁をこきました。
私に文句があるわけがありません。
仮にあったとしても言えるもんじゃありませんし・・・