前回は搭乗までに乗り越えなければならない艱難辛苦についてお話し致しました。
今回は機内生活を楽しく送るために、離陸までにしておかなければならないことがらについてお話し致します。
厳しい修行に耐え、悟りの境地に至った乗客は、晴れてスチュワーデスの「ナマステ」の挨拶に迎えられ自分の座席を目指します。
そしてひとたび機内に入ってしまえば、もうそこはインド!
もう引き返せません。ふっふっふ・・・
自分の席を発見し、荷物を頭上の棚に入れようとすると・・・そこは先に乗り込んだ乗客の荷物ですでにいっぱいです。たしか機内持ち込みの荷物はひとり一個だけしか許されないはずですが、その計算から行くとすでに座席は満席で、床に寝転がる人や座席の下で丸まっている人がいてもおかしくないはずです。
ところが座席はまだまだあまっています。不思議です。
インドが初めてのあなたは「インド人の荷だくさん」ということわざを知らないのも無理はありませんが、実はインド人は旅行する時に、山のような荷物を持って行くのです。
あまりの荷物の多さに、荷物の山が勝手に歩いているのかと思うくらいなのです。
それでもなんとか荷物を押し込み席に着き、あらためて周りを見回すと・・・
前の座席の背もたれが破れています。テーブルの固定ノブもガタガタです。天井の酸素マスクが収納されているところはガムテープで留めてあります。
なんだかすごく古そうな飛行機です。
はたして無事に飛ぶのでしょうか?
乗客がそんな不安を抱いたまま飛ぶと精神衛生上良くないので、エアインディアはなかなか飛びません。すでに機内に入ってから30分は経ちますが移動すらしません。停まったままです。
この時間を利用して搭乗券をかばんのポケットに大事にしまっておきましょう。
*エアインディアでは飛行機から降りる時に搭乗券を回収します。
そんなエアインディアもようやくゆっくりと移動を始めました。
すると通路前方に、右手を高く掲げた乗務員が登場しました。
高く掲げた右手には何やら筒状のものを持っています。
その姿は自由の女神かダイナマイトを持ったハイジャッカー、あるいはサタデーナイト・フィーバーのジョン・トラボルタのようにも見えます。
いったい何なのでしょうか?
ところで私たちはインドのことを、「衛生的に不潔な国」と思ってはいないでしょうか?
はたしてそれは本当なのでしょうか?
それは私たちの価値観からのみ判断しているのではないでしょうか?
実は乗務員が高く掲げている筒状のものは、スプレー式の消毒剤なのです。
インド政府の御達しにより機内を消毒しなければならないとのことなのです。
つまり「お前たちバッチイ日本人がそのままインドに上陸して、得体の知れないばい菌をばら撒くのは許さんからね」と言っているのです。
例えるなら、プールに入る前のシャワーや風呂桶に浸かる前のかかり湯と同じようなものなのです。
やがて二本の通路を二人の乗務員がスプレー式の消毒剤を噴霧しながら歩いて来ます。
それはなんとなく神聖な儀式のように思われ、近くを通り過ぎるときに思わず頭を垂れ、念仏など唱えてしまいます。
*この儀式は経由地がある場合は、最終経由地を出発した後に行われます。ですから直行便のなくなった今では、バンコクを出発した後で行われます。
この後スチュワーデスから紙パック入りの甘ぁ~いマンゴジュースが配られ、全乗客はいっせいにストローでちゅーちゅー吸いながら窓の外などをうかがい、自分たちがいまだに祖国ニッポンにいることをあらためて思い知らされるのであります。
インドはまだまだ遠い!