インドに旅行に行くとたいていの人は下痢をします。
中にはぜんぜん下痢なんかしないという人もいるようですが、そういう人は例外中の例外で、よほどの特異体質か日本にいるときからインドみたいな生活環境にいる人ではないでしょうか。
一般的日本人がインドでかかる下痢というのは、たいへん激しい腹痛を伴うもので、俗に「インド腹」なんていう言い方もされます。
どのくらい激しい痛みかと言うと、ベッドに横になっていてもその痛みで身もだえしてしまい、体を伸ばしてみたり丸まってみたり、はたまたエクソシストのようにベッドごとどったんばったん動き出すくらい激しくのた打ち回るのです。
原因は飲み水だとかスパイスの効いた料理だとか、インド特有の雑菌だとかいろんな説があるようですが、私は「インド腹の神様」がいらっしゃるのだと思います。
なにしろインドにはたくさんの神様がいますので、中には腹痛を引き起こす神様だっているはずです。
あのシヴァ神だっていろんなものを破壊してしまうのです。
神さまのくせにものを壊してもいいのかよぉ~と、文句のひとつも言いたくなりますが、お国が変われば事情も違うので文句を言うのは筋違いでしょう。
まあそんな訳でインドの旅行中は常に「インド腹の神様」(長いので以下「腹神=ハラシン」と略させて頂きます)が我々を見つめています。
そして慣れぬ異国の旅で疲れが溜まり、体の抵抗力が低くなったところをすかさず狙って来るのです。こえ~・・・
特にハラシンが襲って来るのは、気の緩みを起こしたときです。
一番多いのは帰国直前のようです。
旅行期間の長短に関わらず、やはり「帰国」というものは心にスキをつくるのでしょう。
それがたとえ「あー、もう帰国か、もっとインドにいたいなぁ~」と思っていても、頭に「帰国」の二文字がよぎった時にハラシンはすかさず侵入して来ます。
すると「インドにもっといたい」という状況は、「インド腹ですごくいたい」という状態へと変わり、次いでエクソシストどったんばったん状態へと進化して行くのです。こえ~・・・
この「帰国」と「ハラシン」の関係をもっと分かり易くご説明致しますと、青少年に於ける「夏休み」と「渋谷」の関係に似ているでしょう。
夏休みで気の緩んだ青少年に「シブヤ」は襲い掛かります。
「話し相手になるだけでお金がもらえるよ」とか「映画に出てみない?」とか「工場が焼けちゃったんで万年筆買っておくれよ」とか、それはもう口八丁手八丁、弥勒菩薩かタコの八ちゃんかというくらい、あの手この手で襲い掛かるのです。こえ~
え~と・・・話が横道にそれてしまいましたが、とにかくハラシンからはなかなか逃れることができないのです。
大多数の人はハラシンの洗礼を受けてしまいます。
言ってみれば、ハラシンはインドへのもうひとつのビザかもしれません。
そしてこのハラシンビザは一度取得しておくともう二度と取る必要はないようです。
たとえ普通の下痢になっても、不思議とあの激しい痛みは二度と起こらないのです。
ひょっとしたらこれは一生ものの資格と言えるかもしれません。
履歴書に「普通運転免許」とか「珠算三級」とかと並んで「ハラシン」なんて書けるかもしれません。就職に有利になることだってないとは言えないでしょう。
たとえばインドに支店を持っている会社などの入社面接で、「ほぉ~、君はもうハラシンを持っているのか、そりゃすごい」と、インド赴任を前提で入社できるかもしれません。
人間苦労したらその分報われるべきでしょう。
WHOあたりが認定機関となって「ハラシン1級~3級」なんていう資格を早く作って欲しいものです。
そしたら書店の店頭には「早分かりハラシン1級」とか「1日5分のハラシンへの道」なんて本が平積みされ、かなりの経済効果が見込まれるものと思います。
もっとも今年の日本は、ハラシンならぬハンシンが大きな経済効果を生み出しつつあるようですが・・・