昼食終了後はふたたびクルーズが始まります。バックウォーターと呼ばれるアレッピ周辺の水郷地帯は、主に水田として活用されていて、運河とは椰子の木の茂る畔で仕切られているのですが、低い船からでも時折田んぼが見えたりします。
稲が刈り取られた後なのか、それとも田植えの直前なのか、土があらわになった田んぼには、餌を求めておびただしい数の水鳥たちが集まって来ています。また運河沿いは生活の場でもあり、人々は広い畔というか中州というか、とにかく水に囲まれた土地に家を建てて住んでいます。
水路が道路より発達したこの地では、さしあたりこの家などは大通りに面した一等地に建っていると言えるのかもしれません。わがハウスボートはそんな大通り的水路を進んでいるのですが、それだけに行き交うハウスボートも多く、ひんぱんにすれ違います。先にも述べたようにハウスボートにもいろいろな大きさのものがあります。
今すれ違おうとしているこれなどは二階建ての大きなものです。きっと家族や仲間の大グループで借り切っているのでしょう。いずれにせよハウスボートに乗ってるのは休暇を楽しむ人たちばかりなので、みんな一様にウキウキしていてテンションが高いです。酒も入っているのかもしれませんが、若者のグループなどはすれ違う時に大げさな身振りで呼びかけて来たりしますので、こちらも負けずに元気よくあいさつをすることになります。
もっともこちらもほろ酔い気分なので悪い気はしないのです。そんな風にのんびりと田園風景や水鳥、そして行き交うハウスボートの人たちを眺めながら船に揺られていると、意外なほど早く時が過ぎて行き、早くも陽がヤシの葉影に隠れるほどの時間になってしまいました。ハウスボートは夜になると停泊し、翌朝まで動きません。
それは事前にわかっていて、はたしてどのような眺めの場所に係留するのだろう、あまり人気のなさすぎる場所でもさみしくて嫌だなあ、と思っていたら、船を着けた場所はなんと民家の庭先でした。しかも同じ場所に後から後からハウスボートがやって来るではありませんか。
ほら、右側はこんな感じです。そして左側のこんな近い場所にもハウスボートがいるのです。これならまあ決してさみしい思いはしなくて済みますが、わざわざ船に泊まるという観点からしたらどうなのでしょう?
せめて舳先を岸とは反対側にして泊めてくれれば、ソファー席から広々とした運河が見えていいのになと思うのですが・・・
あまりの予想外の展開にしばし唖然としていると、ハウスボートのスタッフに加え、前の家から出て来たおっさんも手伝ってどんどん係留作業は進んで行くのでした。最後に前の家からひかれて来ている電線に船からのプラグを差しました。
なるほど、夜間電力は船に搭載した自家発電機ではなく、陸地からもらうということのようですね。
確かに一晩中発電機を回してたらうるさくて仕方ないですね。そんなわけで夜は寝室のエアコンも使えるということになって、誠にありがたいことではあるのですが、てっきり椰子の林に囲まれた静かな水辺での滞在になるのかと思っていたら、こんな向こう三軒両隣、とんとんとんからりんと隣組みたいな感じになってしまい、あららあ、なのでありました。
でもなんだかこのシチュエーション、昔あこがれたアニマル1(ワン)の世界みたいでちょっといいかもしれない。
注:「アニマル1」と言っても動物が出て来るジャングルの話ではなく、オリンピックを目指すレスリング選手の漫画です。 主人公の東一郎の大家族が船で暮らしているのですが、子供のころそれがうらやましかったのであります。
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