狭い路地に小さな店がびっしり並ぶ、ジュナーガルのバザールを歩く。
大きな旧市街のバザールなどでは道に迷うこともあるが、特に時間が無かったり、なにか用事があったりしない限りそれもまた面白い。
ジュナーガルのバザールはそれほど大きなものではないが、それでもいくつか分かれ道があったり、アーチ型の通路を通り抜けたりとなかなか楽しい。
そんな風に特に目的もなくウロウロしていたら、店先から声がかかった。
見れば小さな靴屋、いや、サンダル屋のおやじが声を掛けてきたようであった。
なんだろうと近づいていくと、ちょっとここで休んで行けと言う。
もっともおやじは英語を話さず、こちらはグジャラート語がわからないので確かではないのだが、きっとそう言ってるのに違いない。
11月とは言えグジャラートの昼の盛りは暑い。それに何か用事があるわけではないので、お言葉に甘えて店先に腰掛けさせてもらった。
ただしさすがに込み入った話はできない。せいぜい「どこから来た?」(たぶん)と聞かれ「ジャーパーン」と答えるくらいである。
そんな会話はものの10秒ほどで済んでしまうので、あとはひたすら黙って座っているだけである。まあおやじと向かい合って座っているわけではなく、二人して外を向いて座っているので特に気まずさはない。
するとおやじが「チャイを飲むか?」と聞いて来たので(「チャイ」だけはわかるのでまず間違いはない)、「飲む」と即答する。
おやじは店をほったらかしてチャイ屋に行ってしまった。
こんな時にお客さんが来たら困るなと思っていると、一人のおばさんがやって来た。世の中とかくそういうものである。
仕方がないので身振りと英語で店主の不在を説明し、よかったら店主が戻るまで店の中を見ていてくれと言うがやはり通じない。
ところがおばさんはおだやかな笑顔で私に「お金をくれ」と言い出した。もちろんこれも手振りでわかったのだが。
とにかくお客さんではないらしいのだが、おばさんの服装は特に汚いわけではなく、また柔らかい物腰とにこやかな態度で到底物乞いとは思えない。
私がおばさんの真意を汲みかねていると、今度はなにやら歌を歌い出した。小さな声ではあるが、歳に似合わぬかわいらしい声で楽しそうに歌う。ますますおばさんへの対応の仕方がわからなくなった。
するとそこを通りがかったおっさんが、すかさずおばさんに10ルピー札を渡し、なにやらにこやかに声までかけて去って行った。ありゃりゃ・・・
おばさんはもらった10ルピー札を私にひらひら見せて、「ほらね、みんな私にお金をくれるんだよ」と言うのである。(これも想像ではあるが、たぶんかなり近いと思う)
事ここに至ると私も少しお金を出すようかなと思ったが、おばさんはくるっと背を向け、歌いながら行ってしまった。たぶんいつまでも言葉もわからんやつの相手をしていても、どうにもならんとあきらめたのだろう。
しかしあのおばさんはいったい何者だったのだろうか。
そんな心細い思いをしたので余計に時間が長く感じたが、実際おっさんが戻って来るまで10分くらいかかった。
すぐ近くにチャイ屋がある場合は、店の小僧がグラスに入れたチャイを出前してくれることもあるが、ここではビニール袋に入れたチャイをおっさんが持ち帰って来た。小さな紙コップもちゃんと二つおやじのシャツの胸ポケットに入っている。
さすがにプロはすごい。ビニール袋に入ったチャイは紙コップにぴったり二杯分あった。
この少しのチャイをインド人たちは時間をかけてゆっくり飲む。
私もなるべくゆっくり飲もうとするのだが、なかなかインド人のようにはいかない。
おやじはタバコ吸いなので日本のタバコが欲しかったようだが、私は吸わないので当然タバコなど持っていない。
代わりにいつも持ち歩いている個別包装のフルーツキャンディーを二つあげ、おやじに礼を言って店をあとにしたのであった。
*情報はすべて2016年11月時点のものです。
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