ウナのバススタンドは改修中だった。
しかしどこにも工事車両や作業員の姿が見えない。もしかしたらまだディワリ休暇なのだろうか。
ディワリというのはインドの新年を祝うお祭り、つまりお正月ということで、インドの数あるお祭りの中でも最大のものである。
しかしそのディワリからそろそろ一週間になろうとしている。もっとも今日は土曜日なので、ことによると明日の日曜日まで休む人も多いのかもしれない。
とにかくディウ行のバスの時刻を調べなければならない。
遠くに人だかりのする小屋が見えたので、おそらく案内所だろうと思って行ってみるとやはりそうだった。
ディウ行のバスは1時30分発とのことで、あと5分もない。なんというタイミングの良さだろうか。やはりここからディウへはバスが頻繁に出ているのだろう。
それにしてもこのバススタンドの現状はひどい。
まだ古い建物は壊している最中で、あちこちに瓦礫の山が築かれており、しかもあろうことかそれがバスの出入り口を狭めてしまっている。結構広い敷地なのだから、もう少し置き場所を考えたらよさそうなものだと思う。
また新しい発着所の建物も建設途上で使えず、バス待ちの人たちはバスが土ぼこりを舞い上げて行き来する狭い場所に居るしかない。せめてもの救いは、大きなひさしが日陰を作ってくれていることである。
まったく壊すか造るかどちらか一方を片付けてから次に進めばいいのに。
ディウ行のバスがすぐ出るということはわかったが、それがどのバスなのだかわからない。字が読めない上に、ここには正式なバス乗り場もないので余計わからない。他の人たちはバスが来ると、それぞれバスに駆け寄り乗り込んで行く。私もその都度彼らの後を追い「これはディウ行か」と尋ねるのだが、答えはすべて「ノー」だった。
そこでまた親切そうなおじさんを探す。
まあ別におじさんでなくてもいいのだが、女性にはちょっと話しかけられないし、若い人より歳を経た人の方が総じて物をよく知っているので、自然おじさん頼りになるのだ。
ここにもそんな頼りがいのあるおじさんがいた。
そのおじさんもバーヴナガルのおじさん同様とても親身になってくれ、周りの人や停車中のバス、さらには先ほどの案内所にも行って情報を聞き集めてくれた。
それによると、ディウ行のバスは他の街から来るもので、到着が少し遅れているとのことである。
とにかくここで待っていればバスは必ず来ると言われ、静かに待つ。
しかしこれがなかなか来ない。
おじさんもどこかに行くためにこのバススタンドに来たのであろうが、私と並んでじっと待つ。
その間何台ものバスが来ては乗客を降ろし、そしてまた乗せて走り去って行く。時間がゆるやかに、しかし確実に過ぎて行く。
結局バスが来たのは3時を少し過ぎた頃だった。1時間半以上ここで待っていたことになる。
しかしおじさんも私に付き合ってずっと待っていてくれたので、何の心配もせず待つことができた。本当にありがたいことである。
それにしても、その間別のディウ行のバスが一台も来なかったということは、ウナとディウを結ぶバスの便はそれほど多くないということなのだろうか。
おじさんも同じバスに乗り込んで来た。なんでも自分の家がその途中にあるのだという。
とはいえ、おそらく家に帰るバスはなにもディウ行でなくても良かったのだろう。いくらインドでも、日常使うバスをこれほど長時間待つはずがない。
だからやはりこれはおじさんの親切以外に他ならないのだ。
おじさんは若い頃ディウで働いていたとのこと。とてもいい所だと言う。
そして宿が決まっていなければここに行きなさいと、おすすめのゲストハウスまで教えてくれた。
おじさんは木のたくさん生い茂る沿道でバスを降りた。降り際、ほんのお礼のつもりでメモ帳にはさんで使っていたシートレンズのしおりをあげると、ことのほか喜んでくれた。
やがてバスは長い橋を渡り始めた。
ディウはカーティヤーワール半島の最南端にある島で、連邦直轄地となっていてグジャラート州には属さない。しかしグジャラート州とは二本の橋でつながれていて、まさしく一衣帯水の関係にある。
15時45分、ディウのバススタンドに到着。
バーヴナガルのバススタンドから出発してから実に8時間と15分、当初の予定より大幅に時間がかかってしまったが、それでも無事にディウまで来られた。
そしてそれも親切なインド人の助けがあったればこそと、あらためて心より感謝申し上げる次第である。本当に本当にありがとうございました。
*情報はすべて2016年11月時点のものです。
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