インドに行くと裸にされます。
と言っても、別に風呂を勧められるわけでも、野球拳をさせられるわけでもありません。
「裸にされる」というのは、体のことではなくて、自分自身の態度のことなのです。
つまり本性をむき出しにさせられるのです。
インドでは「気取り」は許されません。
「ねっ、お願い、ちょっと気取らせて」
とか
「まあお互い大人同士の付き合いをしようじゃないか。はっはっは」
などというのは許されないのです。
たとえばオートリキシャやタクシーの運転手を例に挙げてみますと・・・
インドでタクシーなどに乗るときには、初めに料金交渉をします。
運転手はなるべく高い料金を取ろうとしますし、こちらはなるべく安い料金、または「正規の運賃」で乗りたいと思い、両者の間で交渉が始まります。
人によっては早くもこの段階で「裸」になり、本性むき出しで口角泡を飛ばして丁々発止とやりあいます。とても素直な性格の人でしょう。
でも、まだ心とお金に余裕のある人は、「少しくらい高くても仕方ないか・・・」と自分の気持ちを押さえ込み、あくまでも「紳士」の態度を守って車に乗り込みます。
車が走り出すと運転手はこう言います。
「おれが良い店を紹介してやる。なっ、そこへ行こう」
ここで、まだ紳士の態度を守っていた人の中から脱落者が出ます。
「おれはそんな店へ行けなんて言ってない!おれの言った場所へ真っ直ぐ行けばいいのだ!」
でもまだこんなことで怒ったりしない人もいます。あくまでも冷静に紳士な態度を貫き通すつもりです。
その人は冷静に言います。
「今回はあまり時間がないので、そこへは今度行くよ。今日はとにかくさっき言った場所へ行ってくれたまえ」
さすがです。余裕のある大人の態度です。
やがて車は目的地へ着きました。
でもそれはあなたの行きたかった「目的地」とは違います。運転手にとっての目的地、お土産屋さんです。
ここで残りの「紳士」もぐっとその生息数を減らします。
そりゃそうでしょ、自分の意見を無視されてお土産屋に連れて来られてしまったのですから。
ところがここまでされてもまだ「紳士」をやめようとしない頑固者もいます。
「ここはまた次の機会にしようじゃないか。さあ、車を出して下さい」
などと優雅に言ってます。頭がおかしいんじゃないでしょうか?
しかし相手はそんなことでは許してくれません。
運転手はエンジンを止め、近くの木陰に行ってしゃがんでしまいました。
運転手に代わって「紳士」のお相手をするのはお店の人たちです。
ほ~ら出て来ました。
満面に笑みを浮かべた男たちが3人、両手を大きく広げて近づいて来ます。
あっ、まだ座席に腰掛けている「紳士」の背中に手をまわしました。
「さあ、どうぞ、どうぞ」と大歓迎しているようです。
おや?「紳士」の顔色が変わりましたよ・・・・くすくす
「て、て、てめえぇ~・・・い、いい加減にしろ!このクソ野郎ども!」
「紳士」は絶滅してしまいました。